現在位置:asahi.com>社説 社説2008年04月05日(土曜日)付 公務員改革―国会で大論争を見たい政治家や業界との癒着、「省あって国なし」の縦割り主義。国家公務員制度がこのままでいいとはだれも思っていない。だが、政府が決めた改革基本法案を見ると、ため息が出る。これでは何の改革にもなるまい。 官のシステムを抜本的に作り直そう。この問題意識から昨年、拙速ではあったが天下りの新ルールができた。今回の基本法案はそれに続く第2弾である。安倍前首相のもとで発足した私的懇談会の報告書を受け、政府与党が検討してきた。 成案づくりでは、渡辺行革担当相と町村官房長官が綱引きを演じ、自民党からそれぞれ応援団が加わり、大騒ぎになった。そのあげくの折衷案だ。当初の改革の理念からは大後退である。 報告書の大きな柱は、各省の幹部公務員を内閣が一元管理することだ。そのために内閣人事庁を新設し、幹部候補生の採用や各省への配属、その後の人事を一括して担当するとした。 各省が採用から昇進、退職後の天下りまで面倒を見るいまの仕組みが、役所への強い帰属意識を生み、省同士が縄張りを争う縦割り行政の温床になってきた。人事権を各省から奪うことで、それを崩そうとした。 だが、結局、幹部人事の原案は各省がつくることで落ち着いた。閣僚が人事権を失えば官僚へのにらみが利かなくなる、という反対派の理屈に押されてのことだ。 これでは官僚が実質的に人事を動かす現状と変わらない。人事庁という余計な役所を増やすだけだろう。 族議員と官僚が結びつき、政策づくりを牛耳ってしまうのを防ごうと、懇談会が当初打ち出した「政官接触の制限」も、骨抜きになってしまった。 確かに報告書には難点もあった。たとえば人事の一元化といっても、実務から遠い人事庁がどこまで目配りできるのか。詰めの甘さは否めなかった。 だからといって、こんな法案でお茶をにごされてはたまらない。相次ぐ官製談合や道路特定財源の野放図な無駄遣い、社会保険庁の想像を絶するずさんな仕事ぶりなどを見れば、抜本改革の必要性は増すばかりだからだ。 それなのに、改革を言いつつ対立を傍観するだけだった福田首相には、まるで本気が見えない。 公務員制度改革は、日本の統治構造にかかわる大きな試みだ。長年官僚と持ちつ持たれつの関係できた自民党政権には、官とわが身に痛みを強いる改革はできないということなのか。 法案がこの国会で成立する見通しはない。ここはむしろ議論の土俵を広げ、野党も巻き込んで国会で大論争をすることだ。政と官の関係はどうあるべきか、政権交代がありうる時代の官の姿とは。そんな根本の議論を戦わせてもらいたい。 捜査報償費―不正を認めて出直す時だ暴力団絡みの犯罪や汚職などの捜査は手がかりがつかみにくい。内部に協力者を見つけて、ようやく摘発に結びつくのが現実だ。そうした協力者への謝礼に使うために設けられたのが捜査報償費である。 ところが、そのほとんどが架空の支出であり、警察内部の裏金に回されていた。支出先を公開せよ。このような判決が仙台地裁で言い渡された。 警察の裏金問題はここ数年、各地で内部告発によって噴き出した。いまや裏金の存在は公然の秘密だ。なかでも捜査報償費は出張旅費や食糧費とともに疑惑の的だった。宮城県では市民グループが内部文書の公開を求める裁判を起こしていた。 宮城県警は「支出は適正だった」と反論してきた。それを退けて「架空支出」との司法判断を下したのは画期的である。県警は判決の重みを受け止め、真実を明らかにすべきだ。 判決が架空支出と断定する重要な根拠として挙げたのは、「捜査報償費の98、99%は架空であり、裏金になっていたと県警の元幹部から聞いた」との浅野史郎・前宮城県知事の証言だ。 浅野氏は在職中に、県警に捜査報償費の支出先を示すように求め、県警が拒むと予算の執行を停止した。それでも、県警は捜査協力者の名前を県に示さず、県による捜査員への聞き取り調査さえかたくなに拒んだ。 こうした異常な経過を見れば、裁判所が「架空支出」と判断したのも当然だろう。 ただ、判決が協力者の名前の公開を命じたことは難しい問題をはらむ。 捜査員からは「情報提供者を萎縮(いしゅく)させる」との批判が出ている。捜査協力者からも「名前が表に出れば、だれも協力しなくなる」との声が聞かれる。県警は控訴して争う可能性が強い。 確かに記録には、本当の捜査協力者の名前が一部記されている可能性がある。その名前が明らかになれば、暴力団などから報復されかねない。 悩ましい問題だが、こうした厳しい判決になったのも、もとはと言えば、捜査報償費の使い方がでたらめだったからだろう。捜査協力者の名前を公開しないなら、まず県警が裏金の実態をすべて語り、謝罪することが必要だ。裏金を返済し、責任者を処分することは言うまでもない。 すでに福岡や静岡、北海道などでは警察が裏金を認めて返した。だが、モグラたたきのように、見つかったら返す、では問題の解決にはならない。 警察庁は監査の強化や教育の徹底を求めているが、それだけでは生ぬるい。ここは官邸が前面に出て警察庁に強力に指示し、各県警に裏金の実態調査や改善措置を取らせる必要がある。いつまでも裏金疑惑を引きずっていては、捜査機関としての名がすたる。 PR情報 |
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