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【社説】

医療事故調 求められる倫理と責任

2008年4月5日

 医療版の事故調査委員会は、医療事故への捜査当局の介入や医事訴訟を減らし、事故の教訓を再発防止に生かすことが期待できる。委員会はそれにこたえた高い倫理性を発揮してもらいたい。

 厚生労働省は「医療安全調査委員会」の設置に関する最終案をまとめた。今の国会に設置法案を提出する。最終案は、医療機関が委員会へ報告する医療事故の範囲を医療過誤や医療行為に伴う予期せぬ死亡例に限定した。事故のうち捜査機関へ通知するのは、カルテの改竄(かいざん)など犯罪ともいえる「悪質」なケースに限った。捜査機関は、委員会からの通知がなければ委員会の調査を尊重し、捜査に乗り出さない。

 いずれも医療側の主張に大幅に歩み寄ったもので、法務・警察当局との合意でまとめられた。

 医療事故に捜査当局が介入すると事故を誘発した組織や体制の問題よりも末端の医師や看護師の個人責任が追及されがちだった。

 被害患者の遺族が事故原因を知りたくても多くの場合訴訟しかなく、多大な時間と費用に苦しむ。

 他方、警察の捜査や訴訟に医師らは委縮し、リスクの多い手術を避けるなど“防衛医療”に走り、特に訴訟の多い産科では深刻な医師不足に拍車をかけている。

 医療事故をめぐるこうした悪循環を断ち切り、事故原因を客観的に究明して責任の所在を明らかにするとともに、事故の教訓を生かす仕組みをつくることは必要だ。

 本来、こうしたことは警察の捜査にはなじまない。委員会の設置は時宜に適したものといえよう。

 委員会には幅広い裁量権が認められる。それだけに、委員の医師は高い倫理観と責任感をもって公明正大に原因究明を行い、再発防止策を提言しなければならない。

 そうした積み重ねで国民の信頼が得られれば、患者と医療側の無用な争いを減らすことができる。

 最終案には、まだ詰める点が幾つか残っている。

 委員会には医療機関への立ち入り調査権が与えられるが、関係者からの事情聴取は強制力を伴っておらず、原因究明が不十分に終わる可能性がある。委員会に届けるべき事故を起こした医療機関が故意に届けを怠っても行政処分を受けるだけで済む。これでは医療側の免責の幅を広げるだけとの批判を免れない。委員会の権限を強めたり、医療機関への罰則を強化すべきではないか。 

 さらに議論を重ね、患者側も納得できる委員会を目指すべきだ。

 

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