地球温暖化による影響が深刻さを増している。対策は待ったなしだ。二〇〇八年版「外交青書」は、七月に開催される主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)の主要議題となる温暖化対策で、日本が主導権を発揮していく意欲を示している。
今年は地球環境の将来を考える大きな節目の年である。〇八―一二年の間、先進国に温室効果ガスの排出削減を義務付けた京都議定書の約束期間が四月から本格的に動きだした。バンコクでは、一三年以降の「ポスト京都」の国際的枠組みを話し合う気候変動枠組み条約の特別作業部会も開かれている。
青書は、広がる温暖化問題を「人類の生存に対する脅威」と位置付けた。各国が現在の政策をとっていくなら、世界の温室効果ガス排出量は二十―三十年増え続けるなどとする「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告を取り上げ、問題の深刻さと速やかな対応の必要性を指摘した。
その上で次期枠組みづくりを進めるため、今年一月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で福田康夫首相が発表した「クールアース推進構想」などを通じて国際的連帯を呼び掛けるとしている。推進構想は、主要排出国とともに国別総量削減目標を設定することや、発展途上国の温暖化対策を支援する資金メカニズムの構築、革新的技術の開発などが柱である。青書は、すべての主要排出国が参加する実効性ある枠組みへ国際的な議論を主導していくとする。
温暖化は、干ばつや洪水などをもたらして飢餓や紛争にもつながりかねない。国際社会が総掛かりで改善に取り組まないと地球は危うい。実効性ある枠組みにするには、京都議定書を離脱した最大排出国の米国や、急成長で排出量が増大しながら「途上国」として削減対象となっていない中国、インドの参加が重要になる。日本政府の意気込みを実らせたい。
しかし、先行きは不透明だ。先進国と途上国、あるいは先進国の間でも主張がかみ合わない。次期枠組みの交渉期限である〇九年末までに合意に達することができるか。各主要排出国は国際社会の一員として地球を守る責任を負っていることを自覚しなければならない。
京都議定書に続き、日本がリーダーシップを発揮するには経済的な支援や省エネ技術、人材養成といった得意分野を生かして途上国に働きかけることが欠かせない。積極的な取り組みは、日本が誇れる最大の国際貢献になろう。
神奈川県横須賀市のタクシー運転手刺殺事件で、神奈川県警が米海軍に脱走罪で身柄拘束されたナイジェリア国籍の兵士を逮捕した。強盗殺人容疑だ。
事件は三月十九日に発覚した。横須賀市の路上に止まっていたタクシーの運転席で、運転手が首に包丁が刺さった状態で死亡していた。車内からクレジットカードが見つかり、名義人は米兵と判明した。この米兵は三月八日に脱走し、事件三日後に米海軍に身柄拘束された。
当初、米兵は米海軍の調べに殺害への関与を否定していたが、その後全面的に認めた。県警の基地内での取り調べでも犯行を認めていた。
日米安保条約に基づく日米地位協定では、在日米軍人・軍属の容疑者は日本側が現行犯逮捕した場合を除き、原則として起訴前まで米側が身柄を拘束する。だが、一九九五年の沖縄の少女暴行事件を契機に、殺人などの凶悪犯罪では日米合同委員会で米側が同意すれば、起訴前でも日本側に身柄が引き渡されることになった。
今回米側は捜査段階から積極的に協力し、日本側への身柄引き渡しは迅速に進んだ。背景には、二月の沖縄での女子中学生暴行事件など米兵関与の事件が後を絶たず、日米同盟関係を揺るがしかねないとの危機感が高まっているからだろう。
米側は事件が起きるたびに綱紀粛正や再発防止を約束してきたが、一向になくならない凶悪事件に、基地の街の不安や怒りは募ろう。今回の事件を受け、高村正彦外相は日米地位協定で米側に通報義務のない行方不明になった米兵の日本側との情報共有の在り方について、米側と検討する考えを示したが、犯罪に歯止めが掛からなければ、在日米軍を優遇した地位協定見直しを求める声が高まろう。
(2008年4月4日掲載)