【甘孜県(中国四川省甘孜チベット族自治州)西岡省二】中国チベット自治区ラサの大規模暴動が飛び火し、チベット族の抗議デモが相次いだ甘孜(かんし)県に入った。記者の要請に、地元警察が案内付きで半日の取材を許可した。街は平静を取り戻した模様だが、銃を持った武装警官が行き来し、重苦しい空気が漂っていた。
四川省の省都・成都からバスを18時間乗り継ぎ、1日夕、甘孜に着いた。入り口のゲート両側には臨時詰め所が置かれ、武装警察が往来する全車両を検問していた。バスの乗客は15人で、記者以外はチベット族だ。記者だけが下車させられ、尋問を受けた。持参した中国語や日本語の資料はすべて検閲された。
インドに拠点を置く「チベット人権民主化センター」によると、甘孜県では3月18日、チベット独立を訴える300人の地元民に治安当局が発砲、少なくとも3人が死亡した。
「ここは問題の起きた地域だ」と即刻退去を求める警官。「本当に沈静化しているのか確認したい」と交渉した結果、「2日早朝に県を離れる」ことを条件に取材が許可された。ただ、単独行動は認められず、「身の安全のため」として公安車両の助手席に乗せられた。後部座席にも警官3人が乗り込んだ。
取材できるのは指定された場所だけ。中心部では武装警察が巡回し、軍用車も頻繁に行き来していた。「民族分裂に反対し、祖国統一を擁護せよ」。赤地の横断幕があちこちに掛けられていた。
県内は暴動後、午後8時以降の外出禁止が伝えられていたが、市街地には同8時半を過ぎても出歩く若者の姿が見られた。案内された場所はどこも静かだっただけに、車窓から見える警官の隊列が異様に見えた。
警官らは繰り返した。「この通り、すべて平常に戻っている」。2日午前7時、チャーターした車両で甘孜を離れた。同じ自治州の康定まで12時間の道のりも警官が同行した。
【ことば】◇甘孜チベット族自治州
長江(揚子江)、黄河の源流にあり、人口は93万人。うちチベット族が8割を占める。鉱物資源やチベット医学の薬草が豊富。
毎日新聞 2008年4月3日 2時30分(最終更新 4月3日 2時30分)