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社説(2008年4月4日朝刊)

[横須賀・米兵逮捕]

再発防止策を洗い直せ

 「良き隣人」でありたいという言葉とは裏腹に、米軍は今や、基地を抱える住民にとって「内なる脅威」になりつつあるのではないか。そんな疑問を振り払うことができない。

 神奈川県横須賀市で起きたタクシー運転手刺殺事件で神奈川県警横須賀署捜査本部は、米海軍に脱走罪で身柄拘束されていたナイジェリア国籍の米海軍一等水兵(22)を強盗殺人容疑で逮捕した。

 横須賀市では二〇〇六年一月にも、米兵による女性殺害事件が起きている。飲酒などで浪費した末に、泣き叫ぶ被害者に暴行を加えて殺害し、現金を奪うというおぞましい事件だった。

 米軍は事件後、深夜の飲酒制限をはじめ、さまざまな再発防止策を実施した。だが、米兵による凶悪犯罪はその後も、横須賀をはじめ各地で後を絶たない。

 なぜ、こうも米兵による事件が頻発するのか。腹立たしくあれば、もどかしくもある、というのが正直な気持ちだ。

 今回の事件は、従来のような一時しのぎの再発防止策の限界を明らかにした。米軍駐留の在り方まで含めた大胆な解決策を模索する必要がある。

 そうでなければ、壊れた蓄音機のように、今後も、謝罪と再発防止をむなしく繰り返すしかないだろう。

 国内にありながら米軍基地は、民間地域とは別世界を成している。通用する法体系も生活スタイルも、メディアによる報道も、基地の内と外ではことごとく違う。その違いと落差が、再発防止を難しくしているのである。

 米兵による暴行事件や殺害事件は、日本社会にとっては重大事である。連日のように報道され、国会でも取り上げられる。

 基地内でも米兵向けに、繰り返し同様の報道がなされ、重大な出来事として受け止められているかといえば、決してそうではない。

 事件そのものへの嫌悪の情は共通するとしても、金網の内と外とでは、事件に対する受け止め方に、さまざまな点で大きな落差があると言わなければならない。

 夜間外出禁止や教育プログラムなど、行動規律の厳格化を進めているのは事実だが、それでもまだ、金網の内と外の落差が埋められたとはいえない。

 日本社会が感じている問題の深刻さをいかに基地内に浸透させ、実効性のある再発防止策を打ち出すことができるか。それが問われているのだと思う。その壁になっているのが地位協定である。

 部隊内部の規律厳格化だけでは限界がある。地位協定そのものを見直し、起訴前の身柄引き渡しについては、もっと広範な犯罪を対象にすべきである。

 逆に言えば、犯罪等の処理についてまで地位協定による手厚い「保護」がなされているため、再発防止策が十分な効果を上げていないともいえる。根本的な見直しが必要だ。

 繰り返すようだが、基地内での取り組みと日本社会の重大性認識には落差があり、これをどう埋めるかが大きな鍵である。


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