経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”

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2008年04月04日 町田徹(ジャーナリスト)

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ネット規制にばく進する自民党 「有害情報」を流せば懲役刑も

 同党では、内閣部会と青少年特別委員会のほかに、総務部会がインターネットの有害情報問題を検討中で、関係事業者に自主ルールでフィルタリングの強化を求めていく案などを検討中だ。このため、上部組織である政策調査会で党内調整が行われるのが通常の処理となるが、内閣部会・青少年特別委員会側には「総務部会は業界保護の視点しかない」と無視すべきだとの声もあるという。

ネット世界を萎縮させ
「官製不況」の二の舞となるか

 しかし、この法案を冷静に検証すると、青少年向け有害情報と判断される情報が書き込まれた場合、その書き込みが削除されたり、サイトそのものが閉鎖されることになり、成人もその情報を閲覧できなくなる可能性が強い。つまり、憲法で保障された「国民の知る権利」が阻害されるリスクが存在するのだ。また、端から、こうした規制の網にかかりたくないからと自粛ムードが広がり、やはり憲法が保障する「表現の自由」が損なわれる懸念もある。

 さらに言えば、フィルタリングや会員制サイトを増やしても、青少年が成人を装って、アクセスする可能性が残り、法の実効性が高いとは考えられない。

 インターネットの世界は国境の無い世界だ。国内と海外で著しく異なる規制を課すことになれば、国内のインターネットプロバイダーが海外へ拠点を移し、国内のネット産業が空洞化する可能性もある。

 ちなみに、大学や研究機関による「草の根」的なネットワークの連結・拡大が、国境をまたぐ今日の壮大なインターネット通信網を育んできたことは、以前にも本コラムで指摘した通り。その中で、言論や表現の自由も、自然発生的に保証されてきた歴史がある。

 経済失政を繰り返し、株式市場での大幅安が「官制暴落」と、その経済政策が揶揄されている福田政権下で、与党が言論統制に繋がりかねないインターネット関連規制を持ち出してきたのは、単なる偶然のできごとなのだろうか。それとも、何か、もっと大きな政治的野心があるのだろうか。疑われたくなければ、与党は、即座に拙速な法案を焼き捨てて、間違えであったと自ら表明するべきではないだろうか。

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執筆者プロフィル

写真:町田徹

町田徹
(ジャーナリスト)

1960年大阪府生まれ。神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。日本経済新聞社に入社後、記者としてリクルート事件など数々のスクープを連発。日経時代に米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに社費留学。同社を退社後、雑誌「選択」編集者を経て独立。日興コーディアルグループの粉飾決算をスクープして、06年度の「雑誌ジャーナリズム賞 大賞」を受賞。「日本郵政-解き放たれた「巨人」「巨大独占NTTの宿罪」など著書多数。

この連載について

硬骨の経済ジャーナリスト・町田徹が、経済界の暗部や事件を鋭く斬る週刊コラム。独自の取材網を駆使したスクープ記事に期待!

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