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2008年04月04日(金曜日)付

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「米兵逮捕」―脱走の情報があったなら

 こうも米兵の犯罪が続いては、「遺憾で申し訳ない」というシーファー駐日米大使の謝罪もむなしく響く。

 仕事中のタクシー運転手が、神奈川県横須賀市の住宅街で殺されてから半月。ナイジェリア国籍の米兵が米海軍横須賀基地から神奈川県警に引き渡され、強盗殺人の疑いで逮捕された。

 乗せた客に刃物で襲われ、命まで奪われた。タクシー運転手にとってこれほど怖い事件はない。

 横須賀市では2年前にも女性が米兵に殺され、現金を奪われた。沖縄県では今年2月、米兵が中学生に乱暴したとして逮捕され、「そっとしておいてほしい」という少女の告訴取り下げで不起訴処分となった。

 そのつど「再発防止」が誓われながら、凶悪な事件がまた繰り返された。

 捜査が進むなかで、見逃せない問題点が一つ浮き彫りになった。

 逮捕された米兵は事件の10日以上前に基地から逃げ出し、米軍が捜していた。だが、そうした脱走兵がいるという情報は、事件が起きるまで地元の自治体には伝えられなかった。

 日米地位協定では、行方不明の米兵について米側が日本に通知する義務はない。だが、今回の米兵は基地内でトラブルを起こし、姿を消したという。おそらく、さしたる金も持たずに逃げたのではないか。基地外で問題を起こす恐れは十分に考えられたはずだ。

 脱走兵の情報が日本側に伝わっていれば、警察は周辺のパトロールを強めただろうし、凶行にいたる前に米兵を見つけることができたかもしれない。タクシー運転手たちも、それらしい外国人を乗せれば警戒しただろう。

 事件を起こす恐れのあるような米兵がいる場合には、その情報を日本側に伝えることを米軍に求めたい。

 一方で、事件の発生後は、米軍は日本の捜査に協力的だった。米兵を拘束した米軍は取り調べの内容も細かく県警に伝えた。原子力空母の横須賀への配備を8月に控え、地元の反発を避けたいとの思惑もあったのだろう。

 とはいえ、米軍が米兵の身柄を確保した場合、日本側が起訴するまでは、引き渡さないという日米地位協定の規定はこのままでいいのか。今回、起訴前に日本側へ身柄を渡したのは、米国の「好意的考慮」との位置づけだ。

 事件を防ぎ、すばやく解決するために、日米がどのように情報を共有し、連携すべきか。地位協定やその運用の仕方を考え直す時期に来ている。

 日本で米兵が起こした殺人や強盗などの凶悪犯罪は、昨年は7件、10人にのぼる。事件がいっこうに減らなければ、基地を抱える地域の不安は広がる。日米関係の基礎である相互の信頼も揺らぐ。

 米軍には凶悪な事件を繰り返さない手だてを改めて考えてもらいたい。

「ODA5位」―転落に歯止めをかけねば

 ついに日本政府の途上国援助(ODA)が世界第5位に転落した。91年から10年連続で世界一を誇っていたのに、これでは日本は援助に不熱心な国という評判が定着してしまう。

 05年までは、それでも米国に次いで2位にとどまっていた。だが06年に英国に抜かれ、昨年は、ドイツ、フランスに一気に抜かれてしまった。

 もっとショッキングな数字がある。ODAを国民総所得(GNI)比で見ると、07年の日本はわずか0.17%。先進22カ国中、ビリから3番目である。かつての「援助大国」の看板は見る影もない。

 転落の理由は財政難だ。政府はこのところ、ODA予算を毎年2〜4%ずつ削ってきた。一昨年の「骨太の方針」によると、11年度までこの調子で減らすことになっている。

 依然として世界第2の経済大国であるとはいえ、巨大な財政赤字をかかえ、景気の足取りもおぼつかない。そんな日本だから、海の向こうへ目が向きにくい事情はわかる。だが、このままで本当にいいのだろうか。

 外交や援助を通じ、世界の平和と繁栄のため世話役的な役割を果たす。それが、国際社会での日本の存在感と発言力を増す道だ。尊敬を得ることが国益にもつながる。

 08年度のODA予算は約7千億円。話題の道路特定財源は年5.4兆円で、その1割強にすぎない。

 財政危機だからこそ、政策の優先順位を厳密に詰めて考えなければならない。国民の暮らしに直結しないから減らせばいいというものではないのだ。

 日本では、アジアの身近な援助対象国が経済発展をとげたことで、ODAは一休みという雰囲気も漂う。

 だが、世界の懸念はアフリカに向いている。グローバル化の陰の部分がこの地域に集中しているからだ。貧困や地域紛争、エイズ、飢餓、水不足……。気候変動による干ばつなどの被害も膨らんでいる。

 放置すると、重荷を一身に背負うアフリカと、発展する地域との格差が限界を超え、やがて日本を含めて世界中の混乱を招くことになる。アフリカ支援の理由は人道問題だけではない。テロの温床になることも心配だ。

 だから欧米諸国はアフリカ支援を急拡大させている。05年のG8サミットでは、当時のブレア英首相の呼びかけで各国が支援策を打ち出した。

 7月には洞爺湖サミットがある。5月には横浜でのアフリカ開発会議(TICAD)に首脳が多数集まる予定だ。議長国である日本が、アフリカ支援でどんなイニシアチブを発揮するか、世界が注目している。

 福田首相は洞爺湖サミットに向けて、ODAの転落に歯止めをかけるための手を打ってもらいたい。

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