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2008-03-30

[]TBSクイズ番組の件

参考

会津戦争をお笑いのネタにするTBSは恥を知れ

TBS番組に会津若松激怒、鶴ヶ城開城「不衛生だから」?


真実はときに不快であって、誰かの感情を害するという理由で真実が枉げられてよいわけはない。また全体として悲惨な出来事であっても、個別の場面を見てゆけば滑稽としか言いようがない出来事が含まれていることは往々にしてあって、そうした事柄についての表現が優れた批評性をもつことがある(よくできたブラック・コメディーなど)。この2点を前提として考えたとしても、そうした覚悟や批評精神があってつくられた番組(設問)でないことは、まあ間違いないだろう。

いくつかの観点から語りうるこの問題だが、私としては「面白さ」を追及することが「単純化」を招き、学問的にみて妥当性のない「正解」を生みだしたのだ、という側面を強調しておきたい*1。つまりこの番組「が」ダメというより、テレビ一般がはらんでいる危険性という側面。事前の取材に際して予定された「正解」に抗議した会津若松市は「開城は、同盟諸藩の降伏で他藩の応援の望みが絶たれたことや、籠城(ろうじょう)による物資の枯渇など様々な要因が重なった」ためだと主張しているとのこと。衛生状態は軍の継戦能力に影響するから、平和で豊かな日本に生まれた人間が想像する以上に排泄物の処理の問題がシビアであった…というとりあげ方であれば、むしろ啓蒙的な効果を持ち得たかもしれない。近代戦でも、弾が飛んでくれば腐敗した死体や糞尿の堆積のなかに飛び込まなければならないこともあるわけで、それほど語られることのない、戦争の悲惨さの一面ではある。しかし「クイズ番組」というフォーマットは「同盟諸藩の降伏で他藩の応援の望みが絶たれたことや、籠城(ろうじょう)による物資の枯渇など様々な要因」を無視して「糞尿(ふんにょう)がたまり、その不衛生さから」を正解とすることを要求したわけだ。TBSに薩長閥が残ってるとか、「国民の歴史」にひびを入れてやろうとする謀略があった、なんてことは考えがたいわけで、「面白さ」を追及した結果がこれだったわけだ。番組サイト曰く。

 お堅いばかりが「歴史」じゃない!歴史好きじゃなくても笑えて、思わず驚く、珍エピソードが盛りだくさん!小学校でも、中学校でも、塾でも教えてくれない興味津々の「歴史雑学」!歴史と聞くと思わず、苦手だと言う人も、この番組を見たら明日から歴史好きに!!

というわけで、この一件は「歴史嫌いの克服」のために何をやってはならないか、についての教訓にもなっている。

*1:このブログで何度か書いてきたように、戊辰戦争が―沖縄戦ほどには注目されることがないが―「国民の歴史」が抱える大きな瑕である、という側面も無視できないが。もう一つ、「トリビア」的なものの重用という問題もありそうだが、今回はパス。

skywave1493skywave1493 2008/03/31 01:17
 これは、ちょっとやりすぎですねぇ。まあ「あのTBS」がいかにもやりそうな事だなという感じもしますが、幕末から維新にかけて東北列藩が単に旧幕府側であったというだけで、その後、廃藩置県の際の区割りや物質的、精神的な両面で様々な苦難を強いられ、歴史記述自体も新政府=薩長土肥が有利に描かれている事を考えると、先の大戦の戦争被害者同様の構造が見られる訳で、良く考えればあの靖国も皇国史観も日本の近代の問題点の殆どがこの辺りを土台形成の原点としているんですからあまりいい加減な事をやるのは止めて欲しいですよね。

guruguriangurugurian 2008/03/31 01:58 例えばこれが沖縄戦のエピソードだったら、このような扱いはしなかったと思います。無神経と言われても仕方ないでしょう。

ところで、「テレビでの歴史クイズ」ということで、この件と関係あるような、ないような事がありました。少し前テレビ朝日の「Qさま」という番組で、「次の歴史的事実の中で、江戸時代の出来事でないものはどれでしょう」というクイズが出題されたのですが、答えが「靖国神社建立」だったんです。解答の時、ごく軽くですが、「靖国神社は明治二年、戊辰戦争の朝廷側の戦死者を弔うため、『招魂社』として建立されました」というような解説がされていました。

この「Qさま」というのはどちらかというとバラエティ寄りの番組なのですが、その中でこういう問題をさりげなく入れた問題作成者の意図を深読み(つまり、「靖国は、別に日本の伝統などではないんですよ」と言いたかったのか、と)してしまいます。

ApemanApeman 2008/03/31 09:45 skywave1493さん

今回はご指摘のように

>先の大戦の戦争被害者同様の構造が見られる訳で

という機微に触れたがゆえに抗議を受け問題化したわけですが、他にも記事にならない単純化、ネタ化の弊害はあるだろうと思うんですよね。もちろん、

>靖国も皇国史観も日本の近代の問題点の殆どがこの辺りを土台形成の原点としているんですからあまりいい加減な事をやるのは止めて欲しい

というのは、まったく同感です。

gurugurianさん

たしかにクイズ番組を見ていて、「正解」とされたものに「え〜、そう言っちゃっていいのかよ?」と声を上げそうになったら解説で補足があったので、「まぁ、いいか」となった経験は何度かありますね。もちろん、招魂社と長州の招魂場との関係…など掘り下げてゆくときりがないわけですが…。

monromonro 2008/03/31 23:42 番組サイトを見ると「歴史の“スキマ”に隠された様々な「歴史雑学」」なんてことも書いてありますね。要するに“スキマ”をスキマとして正当に扱えばこんなことにはならなかったのでは。ただ、私としては「糞尿がたまり、その不衛生さから」を正解として導きだすためにいったいどんな設問がされたのかにも興味があります。「会津若松城が開城した原因はなんでしょう?」という設問だけでは、この答えは出てこないんじゃないかと思うんですよね。

ねこ(仮)ねこ(仮) 2008/04/01 00:01  このエントリーでのApemanさんの論点に全面的に同意した上で、今回は論点にしなかった「トリビア」を絡めて一、二蛇足を述べたく思いました。
一つは、「明日から歴史好きになる!!」とぶちあげたこの番組のコンセブトと、「劣化した」学校教育での「無味乾燥な」歴史とは、ベクトルの方向は正反対ながら、一直線上に並ぶのではないかという私の印象についてです。本館でグールドの話が出ていましたが、グールドが草枕を愛読していたことは、音楽オタのトリビアとしてクイズになり得るでしょう。でも、重要なことは(「「草枕」変奏曲」をまだよんでいないのにこんな話をするのも何ですが)、グールドの音楽世界に「草枕」がどう影響し、どのような位置を占めたかということであるべきだと思います。そういう検討を飛ばしてネタにすれば、ただの浅薄なクイズにしかならないわけで、「面白いネタ」的観点で取捨選択すれば、上記のバラエティーになり、「客観的ネタ」的観点で取捨選択すると、「オタクな」入試問題になるのではという(かなり偏見が入っていますが)見方ができると思います。
もちろん、そのしばりのなかで頑張っている教師(あるいはディレクター)の方が沢山いることは分かっています。でも、一方は視聴率、一方は合格者数の論理が貫徹すれば、とりあえず意味は弾き飛ばされてネタ化してしまうのではないでしょうか。
もうひとつ気になるのは、教科間の連関が弱い(複雑な要因が絡んでいるのでしょうが)、ないしは学生さん(あるいは一般の人)がアイテムの間に連関を見い出さないのではという点です(想像力の欠如と言えるのか?)。戊辰戦争といえば、私が連想するのは田宮虎彦の「足摺岬」です。あそこでは、会津を連想させる黒菅藩の悲劇と、敗戦で特攻崩れになる主人公の義理の弟の話が印象的でした。つまり、戊辰戦争と太平洋戦争の悲劇が縦糸と横糸になって一つの物語を構成しているわけで、今も、あれが教材になっているかしらないのですが、あの小説世界と、近現代史教育が結びつけられれば、上記のネタの見方も随分変わると思うのですが。これも書生論でしょうか。
ずれた議論かも知れませんが、思ったことを書きました。

aaaaaa 2008/04/01 08:17 まあ、日テレ系のケンミンSHOWなんかもそうですが取り上げたものをただ面白いとして消費してしまって、 そのものがどういう経緯で成り立ったのかという肝心な部分をやらないと言うところが問題なんでしょう。実はそういうところが一番おもしろくそれを付け加えれば視聴率は高くなると思うんですが。

ApemanApeman 2008/04/01 09:54 monroさん

>要するに“スキマ”をスキマとして正当に扱えばこんなことにはならなかったのでは。

さしあたりはそうですが、もう一つ、今回はネグった「トリビア」的なもののエンタメ化の問題というのが残りそうです。その点について触れてくださってるのがねこ(仮) さんですが。

>グールドの音楽世界に「草枕」がどう影響し、どのような位置を占めたかということであるべきだと思います。そういう検討を飛ばしてネタにすれば

そうそう、知識の体系性を解体してしまって「ネタ」として消費する、という態度ですね。ポストモダン・ブームの悪しき遺産というか。愛蔵氏的な身振りが受ける(受けた)のもそうした傾向と無関係ではないでしょう。
http://d.hatena.ne.jp/hazama-hazama-hazama/20080331/1206958557

>もうひとつ気になるのは、教科間の連関が弱い

他国の教育システムについては断片的にしか調べたことないんですが、確かにこれは問題ではないかと思います。

aaaさん

>実はそういうところが一番おもしろく

そういうところを丁寧に扱うと番組の「テンポ」が悪くなるのでしょう、きっと。だから

>それを付け加えれば視聴率は高くなると思うんですが。

というほど簡単じゃないんだと思います。

madhattermadhatter 2008/04/01 11:59 知識の有無ばかりが問われてその知識で何をするかがあまり問われてこなかったことがこういう事態を招いている気もします

ApemanApeman 2008/04/01 14:19 madhatterさん

ポストモダンは「その知識で何をするか」的発想への批評という側面があったと思いますが、そもそも基礎として「その知識で何をするかがあまり問われてこなかった」社会でポモブームが起きた、ということの問題性ですね。

monromonro 2008/04/01 18:30 >「トリビア」的なもののエンタメ化の問題
なるほど、自分も歴史のスキマ話は嫌いじゃないので、そのぶん認識がちょっとヌルかったようです。

ねこ(仮)ねこ(仮) 2008/04/01 20:04 madhatterさん

>知識の有無ばかりが問われてその知識で何をするか
本当は、それこそが重要なのに、下手にそれをやると偏向とか言われるんじゃないかなあと。

以前、河合塾の塾長さんが、「ドゥーリットル隊が最初に東京を爆撃したときの爆撃機は」という入試問題を批判してましたが(正解はB25。ついB17と思ってしまいます)、これは悪問でも、偏向しているとは言われませんよね。そんなこんなでネタ的な問題がはびこるのでは(私も好きですが)?

ApemanApeman 2008/04/01 23:57 monroさん

いえ、トリビア的なものに面白さがあるのは間違いない事実ですし、特に私のように80年代に青少年期を過ごした人間はそうしたものにはまりやすい心性を持っているからこそ、自戒が必要だろうと思うわけです。

ねこ(仮) さん

>「ドゥーリットル隊が最初に東京を爆撃したときの爆撃機は」という入試問題を批判

そんな入試問題があったんですか? B29なら戦略爆撃機の代名詞としてまだしも文化史的な意味があると言えるでしょうが…

ねこ(仮)ねこ(仮) 2008/04/02 01:15 >Apemanさん

うろ覚えなので、自信はないです。ただ、東京大空襲の爆撃機は?なら、B29だろ、常考。となるので、多分そうなんじゃないかと。大学入試を批判する新書に出ていたと思います。

ApemanApeman 2008/04/02 10:13 これかな? 『悪問だらけの大学入試―河合塾から見えること 』(丹羽健夫、集英社新書)

ChieChie 2008/04/02 10:39 いわゆる「落とすための問題」ですね。軍オタや研究者には爆撃機の型の違いは大きな問題でしょうが、大学入試レベルで求める知識とは思えません。第一、高校でそこまで教えているのでしょうか?もっとも、知らない受験生のほうが多そうなので、できなくても合否にあまり関係なさそうです。

B17やB24やB29でなくB25が使われた理由まで問うのなら、ある程度意味があるかもしれませんが。

ApemanApeman 2008/04/02 13:10 >B17やB24やB29でなくB25が使われた理由まで問うのなら、ある程度意味があるかもしれませんが。

42年4月という早い段階で東京への爆撃が可能になった理由とB-25という機種の選択とは密接に関連していますから、防衛大の入試なら意味があるのかもしれませんね(^^;

ねこ(仮)ねこ(仮) 2008/04/02 23:45 >これかな? 『悪問だらけの大学入試―河合塾から見えること 』(丹羽健夫、集英社新書

そうです。立ち読みで少し目を通しただけですが。

別のところでは、殺伐とした投稿しか見当たらないので、ネタをもう一つ。

大昔、共通一次が始まったころ(年が分かってしまう…)、山川の共通一次用の世界史の問題集で、女真文字とか、西夏文字とか、契丹文字とかのテキストが並べてあって、契丹文字(か何か)はどれか(逆でテキストが一つあって、どの文字かというのだったかも)という問題があったのを思い出しました。さすがに歴史オタの同級生もあきれていたと記憶しています。そんなもん、山川の教科書を隅から隅まで読んでいること以外の何が分かるのかと(小一時間。

「ネタ」系の問題はこのあたりまでさかのぼるのではないかと思ったり思わなかったり。

 限りなくエントリの内容から離れてしまいますが。

ApemanApeman 2008/04/03 01:28 >大昔、共通一次が始まったころ(年が分かってしまう…)

私の記憶に間違いがなければ、そもそも共通一次は難問奇問がはびこっていることへの批判を一つの契機として生まれたはずなので、その初期にその種の問題が受験参考書・問題集の類いに載ったのは、出版社がまだ共通一次の出題傾向を読めずに惰性でつくったからかもしれませんね。いまはむしろ「大学全入化」にまつわる問題が喧伝されていることを考えると隔世の感がありますが…

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