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2008年4月4日

◎「モンスター」事例集 親にこそ読ませたい理不尽

 富山市は、保育所に理不尽な苦情を出す保護者の言動と対応策をまとめた事例集を作成 した。「保育所で親子の朝食を用意して」や「保育士が子供の持ち物に名前を書いた。ブランド物なので弁償を」といった要求からは、大都市部だけでなく地方レベルでも「モンスターペアレント」が特異な存在でなくなってきたことをうかがわせる。富山市は事例集を職員の対応力向上に役立てるようだが、理不尽な要求を出す親が北陸でも日常化していることを保護者も含め幅広く告知し、意識啓発に役立ててほしい。

 非常識な親に劣らず、苦情や暴力で医療現場を疲弊させる「モンスターペーシェント( 患者)」の横行を受け、石川県立中央病院でも対応マニュアルを作成したが、社会のさまざまな局面で頭をもたげているモンスター現象を、関係者の対策にとどまらず、さまざまな形で一般県民に知らせることで「予備軍」段階で芽を摘むことにつながるかもしれない。

 富山市の事例集では、「わが子が友だちからいじめられている」「保育料が払えない」 などから、「おむつ交換に時間をとられ会社に遅刻した。処分を受けた場合は賠償してくれるのか」や「写真撮影の際、小柄なわが子が一番背の高い子の隣りに並ばされ、背の低さが強調された。配慮に欠ける」といったものまであった。

 粘り強い話し合いが功を奏したケースもあるが、中には弁護士にチェックしてもらい、 毅然とした態度が必要な例も紹介するなど、保育現場の苦悩も伝えている。保護者もモンスターばかりではあるまいが、一部の非常識な親に手をとられていては、他の園児への目配りが滞ってしまいかねない。

 医療現場の対策としては、すでに七尾市の公立能登総合病院でも「患者の怒りを静める 話術」などを具体的に示した接遇・クレーム対応マニュアルを各部署に配布している。保育や教育、医療などの現場でこうした動きが広がる中、地域に「常識の芽」を生き返らせ、モンスターに、人のふり見てわがふり直す姿勢を促す一助にするためにも、身近な現場の事例を多くの人に知ってもらいたい。

◎銃刀法改正 安全優先と受け止めたい

 警察庁は、銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)を改正し、同法五条の許可の基準すなわ ち許可条件を厳しくする方針を決めた。

 ストーカー行為をしたり、配偶者に対する暴力(DV)を振るったり、銃や刃物を使用 しなくても凶悪事件を起こしたりした者などに許可を与えないほか、経済的破たんを欠格事由に加え、高齢者に対する認知症検査もできる方向で検討し、次の国会での成立を目指したいとしている。社会の安全確保を優先する措置と受け止めたい。

 発端となったのは昨年十二月、死者二人、負傷者六人が出た、長崎県佐世保市のスポー ツクラブで起きた散弾銃乱射事件であり、容疑者も自殺したのだが、事件後に容疑者が迷彩服を着て銃を持ってうろつくなどして近隣の人たちとトラブルを起こしていたことが分かったのである。

 この事件をきっかけに許可銃の全国一斉点検を行い、放置できない状態がいろいろ浮か び上がってきて、抜本的な改正が必要との結論に至ったのである。

 一斉点検で問題があると思われるケースについては、警察が指導して全国で二百三十八 人から銃を自主返納させた。その中に刑事事件を起こしたり、ストーカー行為で被害者などから警察に相談があったりした人物が複数いたことなどが分かったほか、車に猟銃を放置するなどした人、銃の長期未使用者、病気の人なども少なくなかったという。

 許可条件をめぐる大幅な改正は、二十八年ぶりだ。一九七九年の大阪市の旧三菱銀行北 畠支店で起きた猟銃を所持した男の立てこもり事件を受けて翌年に銃刀法を改正したとき以来である。

 経済的破たんを欠格事由にすることには異論も出てきそうだ。が、破たんの結果、猟銃 で自殺するケースが石川県内でも発生しており、そうしたことを考えると、そのような場合、所持を認めないようにするのもあながち間違いとはいえまい。私たちの社会も銃を凶器にしない歯止めが必要になったという認識を広げる啓発活動も必要である。


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