近況 2008年3月

藤原重雄(日本中世史)


 今月末は、Web上のことについてで止めておくのが穏当かと。
 少し前に、本体ページに笠間書院のブログで「はてなアンテナ」を立てられてしまったらしく、ちょこちょこっと微修正を施すのがやりにくくなった。熱心なブロクの筆者と異なって、自分の備忘と最低限の研究活動の可検索性とで作っているから、参考文献の誤字一字を修正しただけでページ更新とチェックされると、却ってちっとも変わっていないことが際立ってしまう。しかしあくまで、〈ことの次いで〉というスタンスは堅持しておかないといけない。
 わざと「同じように」と言ってしまうが、評価だとか公開だとかの圧力をかけて、研究者に緊張感を持たせるのもよいのだが、それがかえって研究活動の本体を蝕んで、萎縮させていることにも気を配っていただけると有り難い。今年度のうんざりイベントのひとつが、画像史料解析センターの設立10周年行事で、大部な報告書(重いですよ)をまとめることになり、関わったプロジェクトの報告を書いたり目を通したりした。大部分を税金でまかなって頂いている側として説明責任もあるし、世間に理解を得るための活動も必要であるが、業務報告をまとめるようなエネルギーは、別のところに使うのが本来のあり方だろうと、やっぱり思うのである。
 そうした報告書に対してこうした論評を読むことになると、正直げんなりするし、基本的に、人員・予算が圧縮されてゆく研究の現場でデジタル系業務の領域を拡大しようとする〈政治的〉立場からと認識するのがよいのだろう。関連記事にも触れておけば、ここに至るまでを想像してもらえないのには、疲れがきてしまう。個人や弱小機関の努力や善意では、もうどうにもならない逆の方向へと事態は進んでいるのだが。
 ここで絡んだのは単なる事例。手段としてのインターネットが万人に開かれている(実はウソ)ということと、万人に向けた内容を作らねばならないというのは、かなり異質なことだろう。また、図書館・文書館系の感覚と美術館・博物館系との違いにも戸惑う。「モノ」に奉仕する側面のある後者からすると、前者は何でも「情報」にしてしまうように見える。


【追記】 上記コメントに関して、筆者(岡本真氏)よりご批判を頂戴しました。なにより『報告書』ご紹介の労を取っていただいたことに対して感謝を欠いた点、反省しております。さまざまな『報告書』の読み方がありえますが、見識と影響力のあるメディアで、〈Web公開経費の逆算〉資料に焦点化して紹介されてしまうのか、と残念でした。大きなPDFファイルでご面倒おかけしますが、それぞれに直面しております諸課題が比較的率直に記述されているように思います。二つのご批判点への直接のご回答にはならないにせよ、お考えいただくための未整理な素材や粗っぽい私見も幾分かは含まれているように、『報告書』を読み返しました。最近の運慶作仏像オークションの件にしましても、文化財(や歴史的知識等々)が誰のものか、というのは相当に難しい問題です(念のため、『一遍聖絵』・初期洛中洛外図屏風などは、史料編纂所の所蔵品でないことを申し添えます)。他に論点は多々ございますが、追記といたします。