このBPOからの意見に対して、フジテレビは以下のような報告書
を提出しました。
「ハッピー筋斗雲」に関する報告書
2008年1月21日付 BPO放送倫理検証委員会決定第2号
“FNS27時間テレビ「ハッピー筋斗雲」に関する意見”について、弊社内で議論・検討した経緯と再発防止策等について、以下の通りご報告いたします。
1・弊社の対応経緯
まず、今回の番組放送から、現在に至る経緯の概要をまとめておきます。
- 07. 7.28 「FNS27時間テレビ」放送
- 07. 8.14 当事者AさんがBRCに相談
- 07. 8.15 BRCよりフジテレビ窓口担当者に連絡。直ちに弊社の関連セクションに報告
- 07. 8.16 バラエティ制作センター・当該番組チーフ・プロデューサーと編成担当者が秋田のAさん宅に伺い、謝罪
- その後、何度かAさんとの手紙や電話でのやり取りの結果、10月8日に放送する「FNS27時間テレビ」のその後をフォローする番組の中で、Aさんのご意向を反映して、“十郎りんご”の現状を報告するコーナーを入れることで、Aさんも納得され、BRC案件としては取り下げてもらうことになる
- 07. 9.10 放送倫理検証委員会から、番組意図等の説明問合せ
- 07. 9.13 回答書を提出
- 07.10.12 放送倫理検証委員会から二度目の説明要請
- 07.10.19 二度目の回答書を提出
- 07.11.14 弊社番組審議会にて、BPOで審議されていることについて報告
- 07.11.14 放送倫理検証委員会から三度目の回答要請
- 07.11.26 三度目の回答書を提出
- 08. 1.21 放送倫理検証委員会より「意見書」を受領
- 直ちに弊社編成制作局長より、番組制作現場に対し、「意見書」の内容を吟味して、再発防止策等を検討するよう命じられた
- 08.1月下旬〜2月初旬 バラエティ制作センターのプロデューサー全員に対するアンケート実施(後述)
- 08. 2.13 弊社番組審議会にて、BPOからの意見書について報告し、審議いただく。BPOに提出する当報告書は、第三者の眼を通した上で提出されるべきだとの番組審議会委員からのご意見をいただく
- 08. 2.18 バラエティ制作センターの勉強会(後述)
- 08. 2.25 弊社メディア検討小委員会(制作現場の部長クラスの実務者が、放送倫理上の問題点を協議する場)にて、勉強会の結果報告、及び番組制作上の留意点作成についての途中経過報告
- 08. 3.10 番組制作上の留意点第1回検討会議(後述)
- 08. 3.10 弊社メディア検討委員会(制作関連の局長クラスが、前記小委員会から上がってくる報告等について協議・決定する場)にて、上記留意点等について報告。さらなる加筆が必要との判断が下る
- 08. 3.13 番組制作上の留意点第2回検討会議(後述)
- 08. 3.26 編成制作局長が報告書を確認し、社長の了承を得る
2・番組プロデューサー・アンケートの実施
上記の経緯の中にもあるように、弊社編成制作局長より、番組制作現場に対し、貴委員会による意見書の内容を吟味して、再発防止策等を検討するよう命じられたことを受けて、バラエティ制作センターのプロデューサー全員に対するアンケートが実施されました。
1月末〜2月初旬、弊社バラエティ制作センターに所属する社員プロデューサー全員に、意見書コピーと当該番組VTRを配布し、この意見書をどのように受け止めるのか、どういう点に番組制作上の問題点があったのか、自分が当該プロデューサーだったらどのような対応をしたか、再発防止のためには何をすればいいか、など、各自の考えをまとめてリポートするようアンケートを実施しました。
以下に、プロデューサーから上がった意見をいくつか抜粋します。
- 今回の最大の問題点は、一般の方に“どっきり”という演出手法をとったことだ。
- 江原氏や香取氏が登場すれば喜ばれる、許されると一方的に考える、テレビ側の驕りがあったのでは?
- テレビが極めて「暴力的」で「危険な」メディアにもなり得ることを、スタッフは慎重に考えなければならない。
- 放送後に出演者から抗議が来るということは、放送前の話し合いやコミュニケーションが欠けていたとしか思えない。
- 構成を立てる段階で、江原さんありきから始まっていたのではないか。
- 手紙を書かせたのは、バラエティの演出としても行き過ぎがあったのではないか。
- 当該コーナーを見終えたあとの爽快感が感じられなかった。
- 一般人に「勝手にどっきり」を仕掛けているわけで、それは「よけいなお世話」になると思う。
- 番組の出演者が、タレントや素人に限らず、「もう一度出たい」と思わせる番組制作を心掛けることが大切。
- Aさんと制作側とのコミュニケーションが十分でなく、信頼関係が築かれていなかったのではないか。
- 収録内容には納得、しかし編集上がりには不満足という、出演者とテレビ局の間にありがちな揉め事になってしまったのではないか。
- 対象者の気持ちを汲み取れない制作者の傲慢という結果になってしまったのではないか。
- 非科学的な根拠の薄いテーマを題材にした番組制作に対する一層の注意喚起が不可欠であることを実感した。
- 局の思いや企画意図がどうあれ、結果的にAさんやAさんの周りの方が不愉快な思いをされた時点で、この企画に不具合があった。
- 素人参加番組の難しさを実感した。
- リスクの大きさ・深さを再認識し、石橋を叩き過ぎるくらいの慎重な進め方と対象者への完全なる配慮が必要だった。
- 「基本的に喜んでもらえるはずだという思い込み」があったことは否めないだろう。
- 放送に私事が乗ることが、その人の人生を左右する(あるいは、すると感じる)ことがある。一般の方に協力いただく場合は、そこまで注意しなければならない。
3・番組プロデューサー勉強会の実施
上記のアンケートをもとに、弊社バラエティ制作センター所属の社員プロデューサー28名を集めた勉強会を、2月18日に実施しました。
貴委員会の意見書にあった2つの問題点、即ち、(1)スピリチュアルカウンセラー(霊能師)ありきの企画・構成並びにショーアップ、(2)客観的な裏づけに欠ける出演者の「経営難」の断定と強調、について、各自のアンケート回答をもとに、改めて議論すると同時に、再発防止のためにどうすればいいか、検討しました。
そして、(1)については、当該番組のプロデューサーから、スピリチュアルカウンセラーありきの企画というつもりはなかったという説明がなされたものの、ほかのプロデューサーからは、そう思われても仕方ない部分があったと指摘され、(2)については、当該プロデューサーから、「どっきり」という手法をとったがゆえに、Aさんご本人から事前に事情を聞くことができなかった事情が説明された上、そうしたコミュニケーション不足が、Aさんにとって不本意な形の表現につながってしまったことが説明されました。これに対してほかのプロデューサーからは、一般の人を対象にした「どっきり」企画の難しさが指摘されると同時に、一般人に番組に出演していただく場合は、放送に至る過程でコミュニケーションを密にして、放送内容についての同意を得るべきであり、そうしたコミュニケーションによる制作者と出演者の信頼関係が必要だという指摘がなされました。
そして、再発を防止するためにはどうすればいいか議論したところ、一般人に番組に出演していただく際は、ご本人が不愉快に思われないための細心の配慮が必要だということを、制作者各自が強く認識しておくことに加え、一般人に番組に出演していただく際の留意点を、社のガイドラインとしてまとめて、社内外に周知徹底することが必要だという結論に達しました。
弊社のバラエティ番組のプロデューサーが、一つの番組について突っ込んだ議論を交わし、番組作りの問題点をお互いに確認し合えたという意味で、この勉強会は、今後の番組制作においてこれまで以上に有意義なものだったと考えており、このような勉強会は、今後も積極的に実施していきたいと考えています。
4・一般人に番組に出演していただく際の留意点について
上記勉強会を受けて、バラエティ制作センターが叩き台として作成した「一般人に番組に出演していただく際の留意点」をもとに、3月10日と3月14日の2回にわたり、編成制作局次長を中心として、編成部、バラエティ制作担当者、コンプライアンス担当者が集まる検討会議が開かれ、その内容を吟味しました。
その結果、弊社編成制作局が発行する「番組制作ハンドブック」の中に新たな項目として付け加えることを決めました。また、弊社としては今回BPOから意見書を渡された事態を重く受け止め、「演出・表現に関して注意するべきこと」として挙げられている「点滅や変化の激しい映像には注意しましょう」「サブリミナル的表現は用いないようにしましょう」「分かりやすい言葉を使用し、適切な表現を心がけましょう」などといった項目の中の、トップ項目に掲載することにいたしました。
この「留意点」には、今回の反省を踏まえて、一般人に対して所謂「サプライズ」という演出法を用いる際の注意事項を盛り込んだほか、「事例」として、今回のケースだけでなく、過去の一般人出演企画で起きた事例のうち、今後の参考となるものも掲載することにいたしました。
<番組制作ハンドブック>
第1章 番組制作の姿勢
■ 演出・表現に関して注意するべきこと
1・一般人出演企画は出演者の人権に配慮し、慎重に進めていきましょう
一般人は所謂「芸能人」と異なり出演に際し特段の配慮が必要です。当人の人権を損なうような演出・表現を避けることは言うに及ばず、当人及び家族・親族・関係者にまで、心情に気を配った番組を仕上げていかねばなりません。十分な情報の裏づけを取った上で、きめ細かい同意作業を詰めていき、番組と出演者との信頼関係を築いていくことが必要です。
- 一般人にとってテレビに出演することは、我々が考えるより遥かに重い意味を持っていることを十分に自覚し、番組制作にあたっては、細心の注意を払うこと。
- 出演する一般人との間に心情のずれを生じ、過度の期待感を抱かせるような説明は避ける。
- 所謂「サプライズ」という演出手法を一般人に対して用いる際は、当人やその周辺を傷つけることがないよう、十分な裏づけを取る。
- 収録時、収録後、放送前など、さまざまな段階で当人や周辺の心情を配慮した、きめ細かい同意作業を重ねるように心がける。
- できれば、放送後の反応にも気を配ることが望ましい。
事例・経緯
(1)頑張っている一般人を励まして喜んでいただくという趣旨の企画において、「サプライズ」という演出手法を用いたため、逆に当人を不愉快な思いにさせてしまった。「サプライズ」手法のため、本人取材ができず、周辺取材を元に本人の事業が「経営難」であると表現してしまった。収録時は本人も喜んでいらしたという認識から、きめ細かい同意作業を怠ったため、結果的に放送を見た本人が心情を害してBRCに相談した。即座に対応したため、BRC案件としては取り下げられたが、放送倫理検証委員会が倫理上問題ありとして「審議」事項として取り扱い、放送局に意見書が出された。
(2)「経営の厳しいラーメン店が一流ラーメン店と対決、勝ったら賞金を得る」というドキュメント・バラエティにおいて、挑戦者の店長から「放送が店の営業妨害になり損害を受けた」と厳重な抗議を受けた。放送では、お笑いタレントによる『定休日を週6日にしたら客が来るかも』『違う仕事をしたら』等のコメントを使用。制作側としては“笑い”を意図しての内容だったが、当事者がどう感じるかという配慮が不足していた。店長からの抗議を受け、予定されていた再放送は中止し、出演料は当初予定の5倍を支払った。
(3)生活向上を目的とした一般人参加番組で、参加する一般人(成人)と、出演・放送及び番組での扱いに関する覚書をかわし、収録をおこなった。本人は演出上の扱い及び放送に同意したままであったが、両親・兄弟から放送中止を求める要望があった。番組プロデューサーと両親・兄弟で話合いをもった結果、本人の番組出演に関して強い不快感を示されたため、番組に落ち度はないが、プロデューサーの判断で、自主的に本人出演部分の放送を控えた。
5・「留意点」の社内外の徹底について
上記「留意点」は、弊社バラエティ番組だけに当てはまるものではないため、編成制作局だけでなく、報道局、情報制作局、スポーツ局等、番組制作部門にも共通する留意点として共有されるよう、各部門に報告されました。
そして、上記の項目を新たに含む「番組制作ハンドブック」改訂版を直ちに印刷に回して、4月上旬にも完成させる予定で、同ハンドブックの番組制作現場への周知徹底に努めることにしています。
また、外部制作会社への説明も早急に行い、同ハンドブックを元に、社外への周知徹底を図る所存です。
6・外部有識者からいただいたご意見
上記の「留意点」等について、弊社番組審議会委員長の酒井真喜子氏、弊社顧問弁護士の清水英夫先生、上智大学文学部教授の音好宏先生に目を通していただき、以下のようなご意見をいただきました。
「コメント」
酒井 真喜子
放送倫理検証委員会の指摘を受けての経過の検証および再発防止のための対応は、誠実に行われていると思う。
バラエティ制作センタープロデューサー全員にアンケートを行い、リポートを求め、勉強会を行ったことは、番組に責任を持つ人々が問題を共有化する意味で有効であったと考えられる。プロデューサーたちの率直な声が、問題を他人事としてではなく、自分自身にひきつけて考え、悩んだことを物語っている。その成果としての「番組制作ハンドブック」に加えられた留意点が、自分たちの共同制作物として、日々の番組制作に体現されることを期待する。
もっとも大切なのは「実行」である。
以上
「ハッピー筋斗雲」に関する報告書について
清水 英夫
青山学院大学名誉教授
I 放送倫理検証委員会の決定について
放送倫理検証委員会(以下「委員会」)が「『ハッピー筋斗雲』に関する意見」において指摘した問題点は、妥当なものと考える。すなわち、本件番組が、(1)スピリチュアルカウンセラーありきの企画・構成、(2)スピリチュアルを前提としたAさんの生活状況「経営難」の断定、(3)放送の公共性とスピリチュアルカウンセラーのショーアップの3点において、放送倫理上問題があったことは、委員会の意見のとおり否定しがたいところである。
II フジテレビの「ハッピー筋斗雲」に関する報告書
上記の委員会決定に対し、フジテレビは鈴木克明・編成制作局長名で、社内において議論・検討した経緯と、再発防止策等について報告書を作成した。そのなかで、注目すべきことは、バラエティ制作センターのプロデューサー全員に対するアンケート調査及びそれに基づいた勉強会を実施したことである。
往々にして、このような検証が建前的に行われる傾向が看取されるが、実際に番組を制作する現場の意見が極めて重要である。そして、アンケート回答と勉強会に現れた現場プロデューサーの認識と見解は、真摯で傾聴に値するものが多く、また、危機意識も大きいことが分かった。
それらの回答のなかで、たとえば、「江原氏や香取氏が登場すれば喜ばれる、許されると一方的に考える、テレビ側の驕りがあったのでは?」とか、「テレビが極めて『暴力的』で『危険な』メディアにもなり得ることを、スタッフは慎重に考えなければならない」とか、さらに「非科学的な根拠の薄いテーマを題材にした番組制作に対する一層の注意喚起が不可欠であることを実感した」などの反省的意見は、ぜひ内部で重要視していただきたいと思った。
そして、バラエティ制作センターは、上記勉強会を受けて、「一般人に番組に出演していただく際の留意点」を作成、これに基づき編成制作次長を中心とした検討会議において、これらの留意点を「番組制作ハンドブック」に盛り込むこととした。
その内容は、具体的かつ詳細であり、この種の問題の再発を防ぐ措置として十分評価できよう。問題は、今後の番組作成において、「羹に懲りて膾を吹く」ことなく、それが遵守されることであろう。
III 残された問題点
本件報告書は、いわゆる「サプライズ」という演出法、特に一般人を起用する際の留意点が中心となっているが、さきのアンケート回答にもあったように、一番の問題点は、スピリチュアル・カウンセリングと称する非科学的、荒唐無稽な霊視を番組の中核に置いたことである。日本民間放送連盟が定めた「放送基準」は、その第54において、「占い、運勢判断およびこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせたりするような取り扱いはしない」としている。たしかに、本件番組は、「断定したり」「無理に信じ込ませ」るような取り扱いにはなっていないが、全体として霊視を肯定的に扱っているとの批判は免れがたいようだ。これは、バラエティ番組だから許される、大目に見られるというレベルの問題ではないことを付言しておくとともに、「放送基準」が骨抜きされないよう望みたい。
ハッピー筋斗雲問題、留意点への意見
上智大学 音 好宏
本件の経緯を振り返って強く感ずるのは、(1)制作サイドのテレビ番組に出演させる一般視聴者に対する配慮の不足、(2)制作過程における制作者サイドと出演した一般視聴者とのコミュニケーションの不足、並びに、(3)企画全体の「放送の公共性」とのバランスへの配慮不足である。
今回の留意点にも示されているように、一般視聴者をテレビ番組に出演させる場合は、いわゆるタレントとは異なり、その社会生活に対する十分な配慮が必要であり、それゆえに制作過程において、出演する一般視聴者との十分な信頼関係の構築のためコミュニケーションを図ることが肝要となる。特に今回の企画のように一般視聴者である出演者を「サプライズ企画」の対象とし、加えて、その科学性に関してさまざまな論議を呼んでいる「スピリチュアル」企画に巻き込めば、出演した一般視聴者が困惑する可能性が高いことは十分に予想されたはずである。その内容は、「放送の公共性」に照らしても、問題を孕むものと言わざるを得ない。
今回のコーナーの制作にあたって、制作サイドに「テレビ番組で取り上げれば喜ぶ。テレビ番組に出演をさせてあげる」といった奢りはなかったか。放送後の一般視聴者である出演者の対応を振り返って見ても、制作者サイドへの不信感が内包されていたことを感ぜざるを得ない。特に一般視聴者に出演を依頼する場合は、制作者と出演者との十分なコミュニケーションがなされるなかで、制作が進められるべきである。
今回の件を踏まえてフジテレビの「番組制作ハンドブック」に付け加えることを決めた「留意点」の内容に関しては、十分な調査・検討のもとに策定されているとして支持するものであるが、より重要と考えるのは、今後、フジテレビの番組制作に関わる社内外のすべてのスタッフが、この留意点の趣旨を十分に理解し、今後の番組制作にあたっていくことである。留意点の内容の周知、徹底のための方策を検討し、実行していただきたい。
以上のような有識者の方々からいただいたご意見を、今後の番組作りの中で十分に活かし、放送番組の質の向上に努めることをお約束いたします。
今回の件は、本コーナーにご出演いただいた皆様は全く関知していない部分での、番組制作上、演出上の問題と認識しております。結果として、出演者の皆様、関係者の皆様に多大なご迷惑、ご心労をお掛けしてしまったことを改めてお詫び申し上げます。
以上
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