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2008年4月3日

◎志賀原発手動停止 念には念をの慎重さがいる

 国のお墨付きのもと安全対策に万全を期して調整運転に入ったはずの北陸電力・志賀原 発2号機が、再起動からわずか八日で手動停止の事態に至ったことは、まことに遺憾である。

 原発の各種装置を点検し、安定稼働させるのが調整運転の狙いとすれば、今回の事態は 調整作業の範囲内と言えなくもない。トラブルの速やかな公表は「隠さない企業風土づくり」という約束をすぐに実行したものとも言えるが、運転したままでは原因を解明できないとなれば、原子炉の手動停止は当然である。安全運転へ念には念を入れる慎重さが必要である。出だしからこうした状況が続くようでは、信頼回復の道がますます遠く、険しくなりかねないことを肝に銘じてもらいたい。

 原子力発電では、原子炉内で発生した水素と酸素を結合装置で反応させ、水(水蒸気) にして処理する仕組みになっている。それが酸素不足などでうまくいかず、水素の濃度が基準を大幅に上回るトラブルは昨年十一月、東北電力の女川原発でも起きている。当時定期検査中だった女川原発ではやはり発電を再開した際、気体廃棄処理の配管内の水素濃度が基準を超え、警報が鳴ったという。

 その時の原因調査の結果は経産省原子力安全・保安院に報告されており、北電も当然そ の内容を承知しているはずである。今回の志賀原発のトラブルは女川原発と同様のものなのかどうか徹底的に調べ、適切な対策を講じてもらいたい。

 北電の志賀原発2号機の再稼働計画では、タービンなどの性能点検を経て出力を徐々に 上げ、国の検査を受けて五月の連休明けに営業運転を開始することになっている。新年度の電力供給計画にも組み込まれる2号機の営業運転再開は、北電だけでなく地元の自治体の財政や産業界などにも影響を及ぼし、順調に軌道に乗せることが求められている。

 しかし、初めに営業運転開始の日程ありき、といった対応であってはなるまい。原発の 運転にはそれこそ石橋をたたいて渡る、ある意味では臆病なほどの堅実さが不可欠であり、失敗は許されないことを再認識してもらいたい。

◎宙に浮いた年金記録 厚労相辞めても片付かぬ

 だれのものか分からず「宙に浮いた」約五千万件の年金記録のうち、名寄せ(照合)の 期限切れ後も持ち主を特定できず、基礎年金番号に統合が困難なものが四割に上るという。一向に全面的な解決へのめどが立たず、舛添要一厚生労働相が先に「エンドレスで、できないこともある」と白状した通りの結果である。

 野党の民主党は、昨年の参院選を前にして当時の安倍晋三首相が表明した「来年三月末 までに一人残らず名寄せを完了する」との公約に反するとして厚労相の辞任などを要求し、一方的に攻められている政府は批判の火の粉を払うのに懸命である。

 が、厚労相を辞めさせ、政府に謝罪させてもすべての記録の解決につながらないところ にこの問題の深刻さがあるのではないか。過去の政府の過ちであっても、結局は今の政府が一部始終を国民によく説明、納得してもらい、わびるしかあるまい。

 それとともに新組織で本当に万全になるのかとの疑問についてもしっかりこたえてほし い。

 総務省の年金記録問題検証委員会が昨年十月末にまとめた最終報告では、一九九七年に 基礎年金番号が導入されたとき、複数の番号を持つ五十六歳以上の人に対して番号の統合を促さなかったことなどが未統合のまま残った原因になったほか、過去のミスを記録し、チェックして削除する仕組みがなかったことなども記録の不備を生んだと指摘された。

 行革で二〇〇一年、形の上では知事の監督指揮下にあって年金業務を行っていた地方事 務官が「厚生官僚」として社会保険庁に組み込まれ、年金業務が地方から離れて「国の仕事」になり、業務の詳細を知らない者が監督指揮することになったこともある。このとき、地方事務官が県職員になっていたら年金業務がこれほどひどくならなかったといわれる。公的年金の加入者・受給者に記録を確かめる特別便が発送されているが、役立たない点があると指摘され、手直しが行われるなどの不手際も重なった。一人残らず救うなどおそらく不可能であろう。


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