揮発油税など道路特定財源の暫定税率問題と並び、約五千万件の「宙に浮いた」年金記録不備問題の行方も国民の重大関心事だ。三月末に政府公約の名寄せ(照合)期限を迎えたが、持ち主を確認して通知できたのは約千二百万件にとどまる。政府は早期の全面解決へ、ねじを巻き直す必要がある。
昨年二月、民主党の要請で衆院調査局がまとめた報告書で問題が浮上し、夏の参院選で与党惨敗の要因になった。「ねんきん特別便」の発送など各種の持ち主探しにもかかわらず、社会保険庁は今年三月中旬、名寄せ作業の終了と併せ、正しい持ち主との統合が困難な記録が全体の四割、約二千二十五万件に上ることを関係閣僚会議に報告した。新たな事実が分かるたびに問題の深刻さが増した一年だったといえる。
ずさん極まる事務処理をした社保庁の責任は重い。三月下旬にも他人のデータを記載したり履歴欄が空白のまま、二万人近くに特別便を送っていたことが発覚するなど、お粗末さはあきれるばかりだ。
小沢一郎民主党代表は、期限までに統合が終わらなかったことを公約違反として舛添要一厚生労働相の辞任を要求し、野党は対決姿勢を強めている。だが、現段階で第一義に考えるべきは公約違反か否かの問題ではなく、年金記録の持ち主を一刻も早く特定することだろう。
厚労省、社保庁は紙台帳との照合作業をさらに進め、住民基本台帳ネットワークの情報も活用していくという。総務省委嘱の行政相談員が、証拠がない場合に年金給付の是非を判断する第三者委員会への申し出を受け付ける役目を果たしているように、あらゆる組織や人の協力を求めることも大切だ。しかし、記録を持つ側の照合作業で特定困難な記録が二千万件以上残った事実を考えれば、これまでの取り組み方について見直す必要があるのではないか。
持ち主探しの切り札として、昨年末から持ち主の可能性が高い人に送られている特別便では、回答してくる人が少なく、実際には訂正が必要であっても「なし」と返信する人もいる。
今月からは年金受給者と加入者全員に特別便が送付される。「ここで重ねて国民に謝罪しなければならない」と述べた厚労相を先頭に、政府は照合作業の実情を説明し、あらためて国民に協力を求める姿勢を鮮明にすべきだ。人々が、より真剣に特別便をチェックし、過去の職歴などを考える機運をつくることが大事ではないか。
四十―七十四歳を対象に、放置していたら糖尿病や脳卒中といった生活習慣病になりかねないメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に重点を置いた特定健診・特定保健指導制度がスタートした。
生活習慣病を減らし、医療費の抑制を図る狙いである。腹囲が男性八五センチ以上、女性九〇センチ以上か、腹囲が基準値以下でもBMI(体格指数)が二五を超える場合、血糖や血圧などの基準値を上回った項目数によって指導が分かれる。
基準値以上の項目が多い「積極的支援」は、医師や保健師らと面接して行動計画を作成し、連絡を取りながら三カ月以上継続して指導を受ける。項目が少ない「動機付け支援」の面接は原則一回。ともに六カ月以上を経て評価を受ける。健康保険組合や国民健康保険など医療保険者に実施が義務付けられ、受診率や指導効果が低いとペナルティーが科せられる。
メタボリックシンドロームの該当者や予備軍は、この年齢層で約二千万人という。自覚症状に乏しいだけに軽視され、知らない間に深刻な生活習慣病へと進むケースが多い。病気になるのを待つのではなく、一歩手前の人々を見つけ出して食事や運動など生活習慣の改善を手助けしていくのが特定健診・特定保健指導制度の意義とされる。
受診率向上の広報活動や保健指導体制の充実が重要となろう。国民の理解と信頼なくして成果はおぼつかない。一方で、腹囲の基準値の妥当性を疑問視する向きもあるだけに検証と分析を重ね、よりよい制度に磨き上げてほしい。
健康の維持は、私たちの意識と実践にかかる面が大きい。新制度のスタートを日ごろの反省と自己管理意識を高めていく契機としたい。
(2008年4月2日掲載)