【テヘラン春日孝之】昨年10月、イラン南東部を旅行中の横浜国立大4年、中村聡志さん(23)が誘拐された事件で、イラン治安当局と犯行グループが中村さんの解放交渉で合意に達したことが2日、分かった。関係者が毎日新聞に明らかにした。双方が合意を実行に移すかという最後の詰めは残るが、事件は発生から半年ぶりの全面解決に向け、最終局面を迎えた形だ。
関係者によると、犯行グループの武装麻薬密輸団シャハバフシュが中村さんを解放する見返りとして、当局が収監中の密輸団の服役囚2人を釈放することで合意した。身代金は支払われないという。
密輸団を率いるドルモハマド・シャハバフシュ容疑者は当初、息子のサデク容疑者(19)と幹部2人の計3人の釈放を要求していた。当局は誘拐事件の再発防止の観点からも要求を拒否していたが、先月22日の交渉でサデク容疑者と幹部1人の2人を釈放することで妥協した。
密輸団は中村さんを隣国パキスタン領内に連行しており、イラン側への引き渡し方法についても合意しているが、イラン当局は実際に解放されるまで楽観はしていない模様だ。
中村さんは昨年10月7日、イラン南東部ケルマン州バム付近で誘拐された。翌8日、在イラン日本大使館に電話で誘拐されたことを伝えてきた。
中村さんは大阪府出身で、「海外ボランティアに行く」と同4月から半年間、大学に休学届を提出。同6月にネパールでボランティア活動をした後、10月初めにパキスタンからイランに入国した。
密輸団は中村さんの身柄をパキスタンとの国境に位置するシスタン・バルチスタン州に移して拘束、その後、パキスタン領内に逃げ込んでいた。
この事件では、外務省と在イラン日本大使館に対策本部が設置され、日本政府はイラン側に「人命最優先」を要請し、小野寺五典副外相が再三イラン入りして当局者らと協議を重ねていた。
毎日新聞 2008年4月3日 2時30分(最終更新 4月3日 2時30分)