Aaron Pressman (BusinessWeek誌記者、ボストン支局) 米国時間2008年3月20日更新 「Once-in-a-Blue-Moon Bargains」
著名投資家のピーター・リンチ氏は1982年、暴落したクライスラー株を大量に買い込んだ。ウィルバー・ロス氏は2002年、競争力を失った鉄鋼会社を買収。今年2月、ウォーレン・バフェット氏は債券保証事業を営む子会社を設立した。これら偉大な投資家は、他の人間なら足を踏み入れるのを恐れる領域に、敢然と踏み込むという性癖の持ち主だ。
そして今、米ベアー・スターンズ(BSC)からアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に至るまで、あらゆる場に厄介で予想もしないサブプライム問題が突然顔を覗かせる状況とあっては、市場に恐怖心が行き渡るのも無理はない。
おかげで、投資家は出口めがけて殺到している。米調査会社トリムタブズ・インベストメント・リサーチによると、投資家は年初来、米国株に投資するミューチュアルファンド(投資信託)から750億ドル(直近2週間で90億ドル)を引き揚げている。
金融関連株は変動が激しい代表だ。ベアー・スターンズ株急落の影響で、他の多くの金融企業の株も2ケタの下落を被った。しかし、米連邦準備理事会(FRB)の緊急金利引き下げ、そしてJPモルガン・チェース(JPM)によるベアー・スターンズ買収をFRBが支援するとのニュースを受けると、これらの株の大半が急上昇に転じた。以来、激しい変動はいまだに収まっていない。
株価の乱高下は大変なもの。だが、遠くを見つめる目を持つ冷静な投資家にとって、現在の市場は10年に1度のバーゲンチャンスを提供してくれる。ポイントは、株価が低迷しているだけでなく「大惨事」が織り込み済みの銘柄を見つけることだ。
「勇敢で賢明な投資家は、市場の真の落伍者を探している。それも問題を多少抱えている分野に限らない」。ボストンに本拠を置くMFSインベストメント・マネジメントのチーフ投資ストラテジスト、ジェームズ・スワンソン氏の言葉である。同氏は地方債やジャンクボンド(高利回りでリスクの高い債券)に滅多にないチャンスを見いだしている。より株式に重点を置いたアナリストやファンドマネジャーは、金融株や住宅建築株、さらには一部のハイテク関連株さえ視野に入れている。
ジャンクボンド
景気後退期に突入しようとする時期には、投資適格の格付けを得ていない企業の発行する社債は従来リスクの高いものであった。しかし現在、サブプライム問題が招いた市場の動揺のせいで、債券市場は大型不況かと思われるほどの水準で推移している。ただし、今の利回りは、向こう5年のうちにジャンクボンドの発行者の50%が債務不履行に陥ることを示唆する数値になっていると、MFSのスワンソン氏は言う。「これらの企業の半分が破綻すると、あなたは本気で考えますか」(同氏)。
ジャンクボンド市場の惨状を利用する最善の方法は、高利回り債を専門にするクローズドエンド型ファンドの発行証券を買うことかもしれない。通常のミューチュアルファンドは純資産価値を基に取引されるが、クローズドエンド型ファンドは証券取引所で自由に売買される。人気のないファンドの価格は、大量に売られた場合、その資産価値よりはるかに低い水準になる可能性がある。
そして実際、ジャンクボンドを扱うファンドは人気がないのだ。ニュー・アメリカ・ハイ・インカム・ファンドを例に挙げよう。信用市場の動揺のため、同ファンドは昨年、保有資産の価値を30%以上も切り下げ、配当も減らさざるを得なかった。ファンドの発行証券の下落ぶりはもっとひどかった。昨年、42%落ち込んだのである。現在の買い手はその債券ポートフォリオを20%のディスカウントレートで手に入れることができる。利回りは10%超だ。いったん信用収縮の程度が緩和されれば、純資産価値も回復し、ディスカウントレートの幅も縮小に転じるはずだとトーマス・ハーツフェルド氏は語る。同氏の名を冠した会社はクローズドエンド型ファンドを専門に扱って24年になる。
地方債
利子所得に州税や連邦税が免除されている地方債は、課税債よりはるかに低い利回りで取引されるのが通常である。ところが、免税債市場のほぼ40%の債務保証を担う、米MBIA(MBI)や米アムバック・フィナンシャル・グループ(ABK)などの金融保証会社が、サブプライム危機から手痛い打撃を被った。その結果、地方債は信じ難いほど売り込まれ、課税債の利回りを上回る事態に至った。これは滅多にない現象であり、この後、地方債はこの四半世紀で最も激しい反発を幾度か見ることになった。