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Crossroads:坂東玉三郎 能が題材の新作「熊野」に挑戦

 歌舞伎界を代表する女形の一人でありながら、さらなる高みを目指しての試みを続ける坂東玉三郎。3月には京都南座で中国・昆劇(こんげき)との合同公演に主演し、5月に同じ演目を中国で見せる。その間の今月は東京・歌舞伎座昼の部で、能を題材にした新作「熊野(ゆや)」に挑戦する。【小玉祥子】

 ◇わかりやすく補曲、季節感にもこだわり

 「熊野」は能の同名曲に題材をとった舞踊だ。近年の玉三郎は、人形浄瑠璃(文楽)から歌舞伎に入った義太夫物や、能を歌舞伎化した作品の上演に際しては、原典を尊重し、作品の根本を見直す作業を続けてきた。誰もが同じ演じ方をすれば、歌舞伎は一色になる。それを嫌ってのことだ。

 これまでに「忠臣蔵九段目」の戸無瀬、「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」の政岡、「船弁慶」の静御前と知盛の霊などで、新しい魅力を出した。2月に大阪松竹座で尾上菊之助と再演した「二人道成寺」も、既存の同名曲のイメージを一新するものであった。

 「熊野」にも、その姿勢は生きる。平宗盛(仁左衛門)に愛される熊野は、病床にある故郷の母を見舞うことも許されない。清水の花見に連れ出された熊野は舞を見せ、母の身を案じる歌をよむ。心情に打たれた宗盛は帰郷を認める。

 「大正か昭和初期に作られた曲があり、舞踊会で踊りましたが、それには侍女の朝顔が熊野に母の手紙を届けるくだりがなかった。わかりにくいので補曲をし、今回は朝顔が登場するようにいたしました」

 季節感にもこだわった。舞台では桜が満開になる。「後シテがない現在能(現在起きている出来事の能)で、さっと流れてしまいがちです。花見では道具を変えて歌舞伎風にしたい。花見の雰囲気と熊野のはかなさ。その裏腹さが出ればと思います」

 昼のもう一役が長谷川伸作「刺青奇偶(いれずみちょうはん)」のお仲。境遇をはかなんで身投げをしたお仲と、彼女を助けて夫婦となるばくち打ちの半太郎(勘三郎)の物語である。

 1978年に先代勘三郎の半太郎で初演した。「中村屋のおじさんは、人生のつらいところをなめてきた方で、役にも、その感じが出ていました」。3回目のコンビとなる当代勘三郎も「大和屋さん(玉三郎)以外とはやりたくない」と大変なほれ込みようだ。

 夜は「勧進帳」の義経。仁左衛門の弁慶、勘三郎の富樫という魅力的な顔合わせだ。88年の歌舞伎座で初演して以来になる。もとになった能の「安宅」では、義経は子方(子供)が演じる。「周囲が守らなければいけないような風情が必要なので、子方にした面もあるのではないでしょうか。その精神を大人でどう表現するかですね」

 2日から26日まで。問い合わせは03・5565・6000へ。

     ◇

 「Crossroads」(交差点)では、映画、舞台、音楽などの注目の人や話題を、さまざまな角度から伝えます。<月末を除き毎週火曜日に掲載します>

毎日新聞 2008年4月1日 東京夕刊

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