2008年04月01日

先生からの電話

 昨日のこと── 私は取材へ、家族は銀座で行われている『ターシャ・テューダー展』へと出かけるべく、家を出ようとしているころ、携帯電話が鳴った。
 見ると、赤坂事務所からの転送である。
 事務所は無人になることもあるので、そういう場合、私へ転送されるように設定がなされているのだ。
 会社名を名乗って出ると、渋い男の声である。
 先物や株や名簿などの営業も多いが、それらはたいてい、ハイテンションな若い男のことが多く、明らかにそれとは異質。
「作家の、マツイです」
「あ! 松井先生! ご無沙汰しています」

 大ベストセラー作家の松井先生とて、知らない人は知らないかもしれないので、ご紹介しよう。
 松井先生は、長いキャリアを持つ作家である。
 かつては戦記物ノベルスなどを量産されていた。
 量産と言えば聞こえが悪いかもしれないが、つまりは売れっ子で、ピーク時の年収は2,500万円をゆうに超えていたというのだから、やはりれっきとした職業作家である。
 ある不遇な縁の重なりから、いくつかの変遷のうちに、妻女と別れ、自身はホームレスとなった。
 絶望的な状況の中から、その境遇そのものを克明に記録し、名著『ホームレス作家』を著述された。

 あれはまだ私が前職の会社で、不良社員になりかけの頃だ。
 昼休みにでかけた書店で、そのタイトルに惹きつけられ、迷わず買い求めた。
 その後、昼食を摂りに入った、カレーで有名なある喫茶店──目の前に、カツカレーが運ばれてきたような記憶があるのだが、開いた本に熱中して読みふけるうち、カレーはすっかり冷えて固まっていた。
 それくらいスリリングで、生々しいリアリティと、この世の現実が抱える不条理に満ちた名著だった。
 人の縁とは不思議なものである。
 私はこれまで、会いたいと思う人たちには、会うことができた。
 アーチストの方が多いのだが、無理せずとも自然に、お目に掛かることができた。
 松井計先生もその一人で、あるパーティーに社員ともども参加すると、そこにいらっしゃった。

 そんな松井先生からの電話である。

 ……と、ここまで書いたところで、日常業務立て込んできたので、続きはまた!
posted by TAKAGISM at 14:44| Comment(0) | 仕事
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