パリ・オペラ座バレエ団名古屋公演
世界最高峰のバレエ団が来日!5月29、30日 愛知県芸術劇場大ホール
【暮らし】生活保護を考える(下) 自治体の苦悩 ケースワーカーが足りない2008年3月29日 「何で離婚なんかしたの? あなたの責任なんだから自分で何とかしなさい」 「税金で食べさせてもらおうなんて甘いよ」 離婚後、三人の子育てで生活に窮した東京都内に住む女性(35)が、生活保護の申請で福祉事務所を訪れ、相談員から投げつけられた拒絶の言葉だ。後日、母子家庭支援団体の女性と一緒に訪れると、一転、申請が認められ、急場しのぎの一時金数万円まで渡された。 女性は「同じ職員だったのに態度がまったく違った」と納得がいかない様子。 生活保護の申請があった場合、福祉事務所は受理し、収入や扶養者の有無などを審査の上、十四日以内に要否を通知することが生活保護法で定められている。しかし、前出の相談員のように、申請を断念するよう“説得”する「水際作戦」が広く行われている。 二〇〇六年五月、北九州市で生活保護申請を拒絶された男性(56)が餓死した事件では、同市の組織的な水際作戦が、社会的な批判を浴びた。生活保護を受ける年金受給者に対し、年金だけでの生活を指導し、生活保護の辞退を促す例もある。 こうした対応をする自治体側の事情として、「ケースワーカーの不足」を指摘する声もある。ケースワーカーは、生活保護の妥当性を審査し、保護受給者の自立にむけた指導も担当。大都市では、一人で百世帯程度を受け持つ場合が多く、百五十世帯以上のケースも。担当世帯が増えれば、当然仕事は忙しくなる。ある相談員は「申請の対応をしていると、『これ以上忙しくさせるな』という、ケースワーカーからの厳しい視線を感じる」と明かした。 毎年増加する生活保護世帯に対し、財政難の自治体は、十分なケースワーカーの増員ができていない。厚労省調査では、〇四年度までの過去五年間で、ケースワーカー一人が担当する世帯数は十軒増加している。 「首都圏生活保護支援法律家ネットワーク」事務局長の森川清弁護士は「ケースワーカーの絶対数が不足し、調査が行き届かない。その結果、生活保護の『適正な支給』や自立支援が難しくなっている。悪循環だ」と指摘。情報不足は、約九十億円(〇六年度)にのぼる不正受給の増加にもつながっている。 ◇ 厚労省の指導で、〇五年度から、生活保護受給者の自立支援プログラムが導入された。自立を促し、毎年ふくらむ生活保護費を削減する狙い。プログラムで福祉事務所とハローワークが連携、無料の職業訓練などで成果をあげつつある。同年度から「貧困の再生産」を防止しようと、生活保護世帯の子どもへの高校就学費支給も始まった。 さらに東京都は独自に来年度から、塾費用なども支援する。都の決定に先立ち、小金井市は〇六年度から塾費用を援助。〇七年度からは板橋区、北区、西東京市、武蔵野市も始めた。 板橋区の場合、中学三年生のいる保護世帯の希望者に年十九万円を支給している。同区の生活保護世帯の子どもの全日制高校進学率は74%で、全国平均より二割も低い。同区のケースワーカーは「高校受験のために塾に行くのは今や常識。高校進学で就職率が高くなるだけでなく、人間的にも成長できる」と話す。 しかし、自立支援や就学支援は「世帯の抱える問題の把握」が前提。自治体ごとに取り組みの“温度差”が違い、ケースワーカー不足が暗い影を落とす。森川弁護士は「国は財政難の自治体を助け、ケースワーカー増員を支援することが重要」と訴える。 (渡部穣)
|