入社から6年間、人事部に籍を置いた木田守都が営業部へ異動したのは2004年春のことだった。入社時に希望していた部署とはいえ、慣れ親しんだ仕事から離れることに不安を覚えながらのスタートだったが、今では新たな市場を開拓していく営業の面
白さにすっかりはまっている。
現在、木田が所属しているのは東京都内に拠点を置く営業1部グラフィック課だ。販売するのは、カラーマネージメント液晶モニター「ColorEdge」である。この商品は、印刷や製版、広告制作を手がける企業のほか、デザイナーやカメラマンなど、正確な色の表現を必要とするプロ向けのモニターだ。従来の液晶モニターに比べ、より多彩
な色合いやより細やかな色の階調を表現できるのが特徴であり、デザインや製版など、印刷に至るまでのワークフロー上で一貫したカラーマネージメントを行うことで、品質の向上やコストダウン、効率化が期待できる。
とはいえ、2003年に商品が発売された当初は顧客に見向きもされなかった。なぜならば、カラーマネージメントという考え方そのものがまったく新しいものだったからである。そのため、木田をはじめ営業スタッフは、商品を売る前にカラーマネージメントの考え方を浸透させるため奮闘を続けてきた。
木田は、あるときは販売代理店からの情報をもとに、またあるときは印刷・グラフィック機器の展示会で得たネットワークをたどって営業を展開していった。顧客は東京に限らない。営業の必需品はモニターとパソコン。印刷やデザインの現場ではMacが使われているため、常時PowerBookを持ち、1カ月の半分は全国各地を飛び回る。営業に配属されるまでWindowsしか使ったことがなかった木田は、商品知識はもちろん、Macの操作やグラフィックソフトについても一から勉強した。
現場では手早くセットアップを済ませ、商品の特性や使い方を説明する。その後、実演してみせ、モニターに表示される色と実際に紙に印刷された時の色がきちんと合っていることをその目で確かめてもらう。
色の表現にこだわるプロたちが顧客となるだけに評価はかなりシビア。中には「液晶モニターの色なんか信用できるの?」と懐疑的な見方をする人もいる。しかし、木田は商品力に絶対の自信を持っている。後はどれだけ自分がうまく顧客のニーズに合わせて説明できるかにかかっているのだ。
デモンストレーションを終えると、ほとんどの顧客は製品を高く評価してくれる。木田にとって、充実感で胸が満たされる瞬間だ。もちろんそのまま商談がまとまるケースも多々ある。しかし、量
販店などのセールスとは違い、木田の仕事は「売ったらそれで終わり」ではない。顧客によって使用するソフトのバージョンやスキャナー、プリンターといった周辺機器もさまざまであり、それぞれの実情に応じて継続的にコンサルティングを行う。
また、木田が営業としての重要な役割と強く意識しているのが、メーカーの一員として最前線でキャッチしたユーザーのさまざまなニーズを開発にフィードバックすることである。顧客からもたらされた不満や不安を商品のバージョンアップや新商品の開発に結びつけてほしいという一心で、こまめな情報提供を心がけている。
日頃の営業活動や展示会などへの出展を通して、カラーマネージメントのメリットや「ColorEdge」について認知度が高まり、営業の土壌は整いつつある。木田は「まだまだ手付かずのところが多いので、とにかくがむしゃらにやる」と意気込みをみせている。
|
 |