MSN Japanのニュースサイトへようこそ。ここはニュース記事全文ページです。

ニュース: 文化 皇室学術アートブックス囲碁将棋写真RSS feed

【正論】国学院大学教授 大原康男 改めて“皇室外交”を考える

2008.4.1 02:59
このニュースのトピックス正論

 ≪政治的な利用の事実≫

 去る2月25日、衝撃的なニュースが伝えられた。天皇陛下が前立腺がんのホルモン治療による副作用のために骨密度が低下し、このまま放置すれば骨粗鬆(こつそしょう)症になる可能性があるので、新たに運動療法を始められることになり、また、ご高齢であることも考慮してご公務の日程の見直しを進めることになったと宮内庁が発表したからである。

 陛下のご療養が順調に進むことを心より願うが、ご公務が過密であることはかねて知られていたところ、その中でもまず取り組まねばならないのは、最もご負担が大きく、ご即位になってから14回(23カ国)にも及ぶ外国ご訪問の大幅な削減であろう。

 一般に天皇・皇族による公的な外国ご訪問は“皇室外交”と呼ばれるが、天皇は憲法で「国政に関する権能を有しない」とされており(皇族もこれに準ずる)、宮内庁はこの語を使うことを慎重に避けて「外国交際」と称してきた。したがって、それは「現実の国際政治の次元を超えたところでなされる友好と親善」でなければならない。

 これまで“皇室外交”が多大な成果を挙げてきたことは内外で高く評価されているが、一方、それは時の政権によって国際政治の方策として政治的に「利用」される危険が常に潜在する。その危惧(きぐ)が現実のものとなって大きな禍根を残したのが平成4年秋に行われた天皇皇后両陛下の中国ご訪問である。

 ≪「最も弱い部分」照準≫

 当時、日中間には古くは教科書記述・靖国神社参拝問題、近くはPKO法案への反対・尖閣諸島の領土編入・東シナ海での油田採掘問題など両国が対立する懸案が山積し、ぎすぎすした空気が満ち満ちており、政府はまずこのような政治的課題をきちんと処理することが先決だとする慎重論ないし反対論が国民各層に広がっていた。

 とりわけ、その3年前に起こった天安門事件に対して欧米の世論は極めて厳しく、日本が突出して高いレベルの相互訪問を再開することに強い懸念が寄せられていたのである。

 しかるに、宮沢喜一首相は表面的な「日中友好」というお題目を唱えるだけで、国論を二分した熾烈(しれつ)な論争を収拾して国民的合意を得るという努力を全くせず、隠密に計画を進め、強引に実現してしまった。

 その結果、日中両国の関係はどうなったか。友好的な雰囲気が醸成されるどころか、逆に、これまでの未解決の課題に加え、サッカーアジア杯での反日騒動、瀋陽総領事館への中国官憲の乱入、日本の国連常任理事国入りへの反対、さらには偽造商品の氾濫(はんらん)から大気・海洋の汚染や食品の安全性に至るまで両国間には新たな問題が続出、しかも、その大半は中国側の身勝手で傲慢(ごうまん)な対応によって解決の目途もたっていない。

 その上、平成15年秋にはもう一つ驚愕(きょうがく)すべき事実が判明した。先のご訪中は中国が天安門事件による孤立化の打破を狙って進めたものであると当時の銭其●外相が回顧録で明言したからである。「中国に制裁を科した西側の連合戦線の中で最も弱い部分」である日本の「天皇訪中は西側の対中制裁を打破する上で積極的な効果」があった、と。

 ≪温家宝首相の招待報道≫

 当時の我々もそのような意図があるのではないかと憂慮していた。しかし、何よりも恐ろしいのは、このようなことを平然と書かれながら、なお黙ったままでいる我が国の不甲斐(ふがい)なさである。少なくとも、この点のけじめがついていない限り、皇室による中国ご訪問は当面控えられるべきではないか。二度と16年前の過ちを繰り返さないために。

 気にかかるのは、昨年4月に来日した温家宝中国首相が北京五輪の開会式に天皇陛下のご出席を求めたという一部の報道である。また、陛下ではなく皇太子殿下をご招待するとのニュースもある。陛下のご健康状態から考えて陛下ご自身のご訪中はないとしても、皇太子殿下の場合でも形は陛下のご名代である。同様に慎重な配慮が望まれよう。

 時あたかもチベットで流血事件が起こり、スーダンのダルフールでなお続いている住民虐殺への抗議とも重なって、欧米諸国では北京五輪をボイコットしようとする動きが激化。チベット問題に関心の深い英国のチャールズ皇太子は既に出席しないことを明らかにされたという。

 このような中で人権弾圧国家・中国がその包囲網打破のために「最も弱い部分」である日本を再び利用することは十分考えられる。

 早々と「靖国神社には参拝しない」と発言し、毒入りギョーザ事件をうやむやにしようとする中国政府を「非常に前向きですね」と評価する首相が健在である限りは…。(おおはら やすお)

 ●=王へんに探のつくり

このニュースの写真

PR
PR
イザ!SANSPO.COMZAKZAKFuji Sankei BusinessiSANKEI EXPRESS
Copyright 2008 The Sankei Shimbun & Sankei Digital
このページ上に表示されるニュースの見出しおよび記事内容、あるいはリンク先の記事内容は MSN およびマイクロソフトの見解を反映するものではありません。
掲載されている記事・写真などコンテンツの無断転載を禁じます。