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2008年04月01日(火曜日)付

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立ちすくむ政治―この機能不全をどうする

 新しい年度が幕をあけた。政治の世界には驚くべき景色が広がっている。

 新年度予算は成立したものの、その裏づけとなる歳入にはぽっかりと大きな穴があいたままだ。30年以上も続いたガソリンの暫定税率が、政府・与党の方針に反してなくなってしまった。ガソリンの値段が下がる。

 国民の多くは、政治の混迷を嘆きつつも、自民党の永久政権時代にはありえなかった変化を実感していることだろう。週末にかけて朝日新聞が聞いた世論調査では、72%がガソリン税が下がることを歓迎している。

 昨夏の参院選で民主党が大勝し、野党が過半数を握った。そして生まれた「ねじれ国会」がこの8カ月でもたらした激変である。

 だが、歓迎すべき変化ばかりでないのは明らかだ。暫定税率がなくなった後の2.6兆円という税収の穴をどうやって埋めるのか。予算はできたのに執行できないというのでは、日本の政治は機能マヒに陥ってしまう。

 過渡期にある日本の政治の、払うべきコストであると言うのはその通りかもしれない。だが、実際の国民生活や企業活動などに深刻な影響を及ぼすとなれば、そうとばかりは言っていられまい。

■自民と民主への不信

 福田首相はきのうの記者会見で、暫定税率を元に戻すことに強い意欲を表明した。衆院での3分の2の多数を使って再可決しようとの腹づもりなのだろう。そうなれば、いったん下がったガソリン代がまた上がる。末端の市場や運輸業界などでの混乱は避けられないだろう。

 世論調査では、ガソリン税をめぐる混乱の責任は与野党のどちらにあると思うかとの設問に対し、「政府・与党にある」は22%、「野党にある」が13%だった。59%の人々が「両方同じぐらい」と答えた。

 政治に対する不満は、与野党双方に向けられている。しゃにむに暫定税率の廃止に突き進み、ガソリン値下げを実現させた民主党なのに、その支持率は低迷したままだ。

 いまの2大政党は、ともに機能を失っている。国民の多くはそう感じているのではないか。

 「道路」をめぐって、首相は年度末ぎりぎりになって特定財源の仕組みを廃止し、09年度からすべて一般財源にする、と提案した。画期的な決断だが、政府・自民党では幹部たちが形ばかりの支持を表明するだけで、本当に実現できるはずがないと言わんばかりの冷ややかな空気が広がっている。

 衆院での審議を通じて、道路特定財源のむちゃくちゃな使い方が明らかにされた。これが政官業癒着の温床になってきた、との反省は自民党内でも聞かれる。財政難のなかで社会福祉や教育などにもっと財源を振り向けるべきだという意見ももちろんある。

 だが、強力な道路族議員の締め付けでそうした声はかき消され、古い「土建政治」を続けようとしている。首相の孤立状態が、旧態依然の自民党の姿を象徴している。

 一方の民主党。当初は「ガソリン値下げ隊」をつくり、暫定税率の廃止を大宣伝したが、途中から特定財源の廃止、一般財源化に力点を移した。

 あまりガソリン値下げを前面に出しては、人気取り政策との批判を浴びかねないと懸念してのことだった。

 その一般財源化で首相が大胆なカードを切ってきた。妥協するか、なおガソリン値下げにこだわるか、民主党にとって大きな決断だったはずだ。

 特定財源を廃止することは、日本の政治のかたちを変える突破口になりうる。そう考えて、妥協を唱える向きが党内にないわけではない。だが、小沢代表は対決の道を選んだ。

■最後は説得力の勝負

 昨秋、小沢氏が踏みこもうとした大連立は党内の総スカンを食って頓挫した。一時は辞任まで表明した結果、小沢氏の求心力は揺らぎ、対決路線一辺倒でいかなければ党内をまとめきれないという事情がのぞく。

 日銀総裁の人事では、武藤敏郎前副総裁の昇格を認める考え方もあったのに、しゃにむに反対に突き進んだのもそのためだったろう。

 「ねじれ国会」の行き着いたところが、こんな2大政党の機能不全であり、国民の不信だったというのは残念というよりない。この事態を両党はもっと深刻に受け止める必要がある。

 本来なら、衆院の解散・総選挙で国民の声を聞くべき局面だろう。だが、2大政党への不信がこれだけ膨らんでいる状況で、選択を迫られる国民の方も不幸なことだ。

 この事態を打開するのは容易なことではない。結局のところ、政治を前に進めるために、両党がそれぞれ道を切り開いてみせる以外に方法はないのかもしれない。

 与党が衆院での再可決に踏み切らねば、首相の求心力は失われかねない。かといって、税率を元に戻すことに有権者の理解が得られるかどうか。

 一方、民主党は首相の問責決議案で再可決に徹底抗戦する構えだが、全面的に政治をストップさせることに国民の支持は集まるか。

 再可決が可能になるまであと1カ月。その間に、与野党が大胆に妥協する知恵を出せない限り、どちらの主張がより有権者に説得力を持つか、とことん競い合うしかない。

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