「遅くても03年には中越沖地震と同規模の地震を予測できたはずだ」。先月末、原子力安全委員会などが東京都内で開いたシンポジウム。産業技術総合研究所(産総研)の杉山雄一・活断層研究センター長が過去の東電の活断層評価を批判した。
東電が想定される地震を甘く見たのは、原発の建設時だけではない。中越沖地震の震源断層とみられる「F-B断層」についても、東電は03年に「長さ約20キロで活断層の可能性がある」と再評価したにもかかわらず、この結果を非公開にした。「予想される地震動は設計段階の想定を下回る」との理由からだ。
だが実際には、最大で設計値の3・6倍もの揺れが観測されている。東電が地震動の想定を誤った要因は、その計算方法にあった。
国の耐震指針は06年の改訂以前、地表や海底に現れる断層の長さや原発との距離を基に地震動を計算する手法を取っていた。地表の断層の真下に震央があると想定したもので、東電もこれにならって計算した。
しかし実際には断層は地下で傾斜し、震源が原発の直下に近づいている可能性もある。このため学会では、地下の断層の形状や面積などを基にして計算する「断層モデル」という手法を取るのが半ば常識化していた。「もし東電が03年に情報を公開していれば、地震動の過小評価を指摘できた」と杉山センター長は悔やむ。
実は、急速に発展する活断層の研究と原発周辺の活断層評価とのかい離は今に始まったことではない。
活断層の研究が本格化したのは70年代の後半。柏崎刈羽原発の建設が始まった時期と重なる。研究は急速に進んだが、原発の耐震指針は約30年間、改訂されることはなかった。F-B断層の場合も、産総研が94年に約20キロの断層と評価していたにもかかわらず、東電はその指摘を03年まで10年近くも反映させてこなかった。
27日の報告で、地震後の地質調査の結果はほぼ出そろった。今後の焦点は、柏崎刈羽原発の運転再開に向けた新たな基準地震動の策定に移りつつある。
「作業はこれからだが、原発建設時に策定した数値を上回るのは間違いない」。東電の担当者はそう見通す。しかし、今回策定し直す基準地震動の値が、再び固定・硬直化するとも限らない。杉山センター長は「間違いが判明した時に、すぐ反映する仕組みが必要」と指摘する。長らく原発の安全審査に携わってきた東京工業大の衣笠善博教授(地震地質学)も「設置許可を車検のように定期的に見直すような制度が求められる」と話す。=つづく
毎日新聞 2008年3月31日 地方版