「今見せられたすべてのデータは長岡平野西縁断層帯の連続性を物語っている。真剣に考えるべきだ」
今年1月23日、中越沖地震で被災した東電柏崎刈羽原発の耐震安全性などを検討するため、内閣府・原子力安全委員会が設置した地震・地震動評価委員会。東電から地質調査の中間報告を聞いた委員の一人、奥村晃史・広島大教授(自然地理学)がまくしたてた。
地震で原発が停止してから8カ月。運転再開の是非を占う上で重要となるのが、活断層の評価だ。
新たな震災は起こり得るのか--。新潟市沖から小千谷市にかけて伸びる南北約83キロの「長岡平野西縁断層帯」にいま、専門家の注目が集まっている。
中越地震発生のわずか10日前にあたる04年10月13日、政府の地震調査研究推進本部(推本)が衝撃的な発表をした。「西縁断層帯が同時に動いた場合、M8程度の地震が発生する可能性がある」。推本の推定では今後30年間で地震が発生する可能性は2%。国内の活断層の中では「やや高いグループ」だという。
一つの活断層がずれた場合、弾みで周辺の断層が動く場合があるという。推本は過去の地震の事例などから、5キロ間隔以内で活断層が連なる場合は「連動の恐れがある」と分析している。西縁断層帯もその一つだ。
だが、東電はこれまで「鳥越断層、上富岡断層、片貝断層群が同時に活動するとは考えにくい」という立場に固執してきた。三つの断層はいずれも西縁断層帯の一部で、原発に近い長岡市西部から小千谷市にかけて存在すると推定されてきた。
東電が断層の連動について否定的なのは、地下に震動を与え、その反射の仕方から地質構造を調べる探査の結果に基づいている。断層があれば、地層にずれが見える。だが、三つの断層の中間にある上富岡断層で行った地下探査では、地層がほぼ平行しており、「活断層はない」と主張する根拠になった。
しかし、奥村教授は取材に対し「地表近くに明瞭(めいりょう)な切れ目がなくても、変形があれば、地下深くに活断層がある可能性がある。上富岡の場合、地層全体が傾斜し、地震を起こすポテンシャル(可能性)がよく見てとれる」と、東電の見通しの甘さを指摘する。その上で「危険性を前向きにとらえ、必要な耐震補強をする。そういう姿勢が大事ではないか」と主張する。
東電は原発の耐震指針の改訂や中越沖地震を受け、「連動の可能性は改めて検討する」と表明。断層帯付近で計約100キロにわたり地下探査をやり直している。東電の酒井俊朗・土木グループマネージャーは「以前は積極的に連動を考えていなかった」と認めた上で「指針が変わり、活断層の評価方法も変わった。連動についても今後、国から詳細な審議を受けることになる」と述べた。
東電は27日、地質調査について新たな中間報告を出す。専門家や地元も注視する中、中越沖地震の教訓はどれだけ盛り込まれているだろうか。
中越沖地震で想定を超える揺れに見舞われた柏崎刈羽原発。機器の点検や地質調査が急ピッチで進むが、いまだに運転再開の行方は見えない。再開に向けて浮かび上がってきた課題を報告する。=つづく
毎日新聞 2008年3月27日 地方版