「お豆腐が病気になりましてなあ」。パソコンの画面をクリックすると、おばあさんの柔和な語りが聞こえてきた。岡山弁たっぷりに。
岡山県立図書館がホームページで始めた「岡山の昔話」を聞いてみた。県立博物館収蔵のレコードをデジタル化した約百二十話。岡山市在住の稲田浩二・京都女子大名誉教授らが「消えゆく岡山の昔話を残そう」と一九六四―七四年に県内を回り、お年寄りたちから録音した貴重な資料だ。
「豆腐の見舞い」は病気の豆腐が見舞いに来た大根に感謝しつつ語る。「もう元のマメにゃあ戻れません」。豆と丈夫な体を掛けた。こうした言葉遊びのほか動物の恩返しや勧善懲悪、知恵比べ、苦難克服など昔話の内容は多彩だ。
お年寄りたちの語りに洗練さはないが、素朴な温かさが話を引き立てる。口伝えで受け継いできた実績だろう。かつて子どもたちは茶の間で、あるいは布団の中で祖父母が語る世界に浸り想像を膨らませたものだ。
核家族化の進行や興味を引くものが多くなるに連れ、昔話から子どもたちは遠ざかり、語り手も減っていった。しかし、地元へ目を向ける手だてとして期待する動きもあるという。
時を超え再現されたお年寄りたちの昔話は、世代間の結び付きや地域の大切さをあらためて問い掛けているようだ。