三菱重工業は、初めての国産ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の事業化を決めたと発表した。二○一三年の就航を目指している。日本が独自開発の旅客機を製造するのは、一九七三年に生産中止されたプロペラ機「YS11」以来約四十年ぶりになる。
MRJは七十―九十人乗りの小型ジェット旅客機で、〇三年に官民共同で開発計画がスタートした。価格は一機三十億―四十億円を見込み、開発費約千五百億円のうち、政府が五百億円を支援する。残りはトヨタ自動車や関連商社、銀行などに出資を要請している。
燃費の良さや新型エンジンの導入による低騒音が特長である。小型旅客機クラスでは初めて主翼や尾翼など機体の三割に炭素繊維複合材を使って軽量化し、既存の同型機と比べ燃料費を約二割程度節約できるという。燃料費が高騰している時期だけに追い風になろう。
三菱重工は、昨年から受注活動を開始した。全日本空輸が二十五機購入を決め、日本航空も検討中という。海外では、ベトナム航空が二十機程度の購入で合意する見通しで、オイルマネーで潤う産油国や欧米の航空会社も購入に前向きの姿勢を示している。
国産旅客機の事業化は、日本の製造業にとっても朗報だ。日本の航空機産業の技術は高く、米ボーイング社の大型旅客機B787では、主翼など全体の三割近い部分を日本企業が納めている。国産機開発は日本企業が欧米の下請けの立場から抜け出したことを示すことになる。
先端技術をふんだんに活用する航空機は産業としてのすそ野が広い。部品は自動車の百倍の約三百万点あり、素材や部品メーカーへの波及効果で、日本のものづくり技術の底上げに期待が持てるだろう。
しかし事業が順調に進むかどうか楽観は禁物である。日本が戦後開発したYS11は、性能は優れていたものの、官民もたれ合いの開発で赤字が累積し製造中止となった。コストダウンの努力を忘れてはならない。
小型旅客機市場は、今後二十年間で約五千機の需要が見込まれるとされ、MRJの採算確保のためには、少なくとも三百五十機の受注が必要という。現在はカナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエル社の独占状態にあり、さらに中国やロシアも参入の予定で、ライバルが増えるのは確実だろう。
世界を相手に厳しい競争を勝ち抜かねばならない。日本の国内産業発展のためにも、成功させてほしい。
防衛省は、装備品調達改革に関する報告書をまとめた。商社を介さず海外メーカーとの直接契約を推進することや輸入調達に関するチェック態勢の強化などが柱となっている。
昨年、守屋武昌前防衛次官の汚職事件や防衛商社「山田洋行」が見積書を偽造するなどの手口で水増し請求を繰り返していた不祥事が発覚し、防衛省は国民から大きな不信を招いた。信頼回復のためにも調達改革は急務である。
報告書では、防衛省が直接契約で調達した場合のコスト調査を行うとともに英語版の入札説明書作成などを通して海外メーカーが参加しやすい環境整備を進めるとしている。
チェック強化策としては、輸入調達を総括する専門部署を来年四月以降に新設し、公認会計士や商社OBなどの外部登用を進める。米国に駐在する輸入調達専門官を三人から十人に増員し、水増し請求への違約金を倍増することも盛り込まれた。
欧米諸国の防衛装備品の調達では、日本のように包括的サービスを行う商社を介すケースは少ない。コンサルタント企業が助言し国防省が製造メーカーと直接契約を結ぶのが普通だ。
日本では、装備品の調達情報や貿易実務を商社頼みとしていたため不正を防げなかった。実務に詳しい人材の養成に力を入れ、チェック機能を高めていく必要があろう。装備品選定などで透明性を確保する努力も忘れてはならない。
報告書は、民生技術の活用や一括調達などにより、二〇一一年度までに装備品の開発や調達、維持コストを〇六年度と比較し15%削減する数値目標も盛り込んだ。防衛装備品は製造メーカーも限られ割高な価格になりがちだ。随意契約から競争入札への拡大も必要だろう。
(2008年3月31日掲載)