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神尾寿の時事日想:
ANAが国産小型ジェット機「MRJ」を導入する理由
三菱重工業が開発中の国産初のジェット旅客機「MRJ」を、全日本空輸が25機発注すると発表、ローンチカスタマーとなった。ボーイング787の時もローンチカスタマーとなり開発計画に参画していたANA。なぜ同社はこれほど、新型機導入に熱心なのだろうか?
[神尾寿,Business Media 誠]
3月27日、全日本空輸(ANA)が三菱重工業が開発している国産初のジェット旅客機「MRJ (三菱リージョナルジェット)」の開発が決定した場合、これを購入すると発表した(プレスリリース)。購入規模は25機。これによりANAは、MRJの初めての発注会社(ローンチカスタマー)になる。
MRJは全長35.8メートル、全高10メートル、全幅30.9メートルの小型ジェット旅客機で、座席数は86〜96席。航続距離は1630キロメートルと短いが、短距離離発着性能に優れており、省燃費性能の高さによる経済性や快適性の高さが重視されているという。低騒音で環境性能も高い。ANAでは主に地方都市同士を結ぶ国内線に就航させる模様だ。
先手を打つANAの「フリート戦略」
ANAといえば、次世代の中型ジェット旅客機「ボーイング787」においても、世界各国の航空会社に先駆けてローンチカスタマーになった(参照リンク)。ローンチカスタマーは新型機の開発に加わり、仕様や規格の策定に発言権を持つほか、取得に関する優先権も持つ。例えば、ボーイング787の開発にあたっては、日本国内の基幹路線での就航も想定して多頻度離発着性能の強化などを要求したと聞く。
最近のANAは、積極的に最新鋭機の開発でローンチカスタマーになり、自社の保有する航空機を入れ替えている。通称ジャンボジェットと親しまれているボーイング747の退役を進める一方で、中型機・小型機を中心に新型機導入を推し進めている。好業績だったホテル事業をインターコンチネンタルグループに売却してまで、新型機購入費用を捻出するほど、新型機導入に熱心である。
なぜ、ここまで新型機導入に積極的なのか。
その最大の理由は、新型機による燃費性能の向上とCO2排出量の削減だ。世界的に航空燃料の高騰は続いており、燃費性能の高い新型機のいち早い導入は他社とのコスト削減競争において有利になる。ローンチカスタマーには取得時の優先権があるため、燃費のよい新型機に需要が殺到した場合には、ライバルとの競争関係はさらに有利になる。特に“燃費の悪い”離発着回数の多い日本の航空会社にとって、燃費性能向上への先行投資は有効だ。
ほかにも、ローンチカスタマーには、自社の就航便で必要とする機能や装備を“標準装備”させることができるので、オプションの購入費が浮くという副次的なメリットもある。
国内線の“隙間を埋める”MRJ
ANAでは国際線と国内基幹路線の主役をボーイング787と設定している。一方、今回購入表明をしたMRJは、地方都市間や離島便などに使用される模様であり、そこには燃料高騰化でも国内路線網を維持しようというANAの戦略が見て取れる。特に短距離便は、昨年からプロップ機(プロペラ機)のボンバルディアDHC8-300/400で構造上のトラブルが相次ぎ、本来の搭乗率からするとオーバースペックなボーイング737が就航するケースが増えていた。こうした“隙間を埋める”上でも、MRJに期待するところは大きいだろう。
国産初のジェット旅客機がどれだけ活躍するか、期待したい。
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