中国の筋書きはチベットの民族対立を隠せず――フィナンシャル・タイムズ
2008年3月31日(月)15:39(フィナンシャル・タイムズ 2008年3月27日初出 翻訳gooニュース)チベット自治区ラサ=ジェフ・ダイヤー
中国政府はこのほど、チベット自治区ラサに報道関係者数名を招き入れた。政治的な調和と協調がこの街に戻ったと、そう強調するためだ。
ラサでは4日間の抗議行動の後、3月14日に暴動が発生。それがいくつものチベットの都市に飛び火した。そうした状況を経て中国当局は、事態の沈静化を対外的にアピール。チベット地区が反中感情に覆い尽くされたわけではないと強調しようとしていた。
自治区政府のペマ・チリン副主席は、「全ての民族はひとつになって団結し、こうした犯罪行為を取り締まる」と発言。暴動の背景には民族対立があったのではないかとの指摘はいずれも「民族間の対立をかりたてようとしている」ものだと批判された。
記者団のラサ訪問はスケジュールが厳しく制限され、記者たちは個別の独自取材などほとんどできない状態だった。それだけに中国当局の戦略はあからさまで、話題にすべきは3月14日の暴動のみ(暴動の被害者のほとんどは漢族の中国人だった)。そして暴動は、ダライ・ラマと結託して騒乱を引き起こした「犯罪分子」のせいだと批判することが、彼らの狙いだった。
湖南省から移り住んできたという漢族の中国人、ヨン・ホンタオさんは手の傷を私たちに見せた。刃物をもった暴徒との小競り合いで、負ったものだという。「なぜダライ・ラマがああいうテロリストたちを支援しているのか。あなたたちはそのことを質問すべきだ」とヨンさん。
しかし一日半かけて暴動について取材して回った結果(そして多くの取材は中国当局がセッティングしたものだったが)、浮き彫りになってきたのは、全く別の話だ。政治的な成り立ちそのものが大きくきしんでいる街の姿が、取材を通じてあからさまになったのだ。チベット人の多くは中国当局に対してひどく反発している。そしてそれ以外にも、チベット人住民と漢族の中国人、そしてイスラム教徒の回族との間にも、緊張関係があるのがよく分かった。またチベット族同士の間にも政治的な対立の兆候が、見て取れた。
そして招かれた報道陣が筋書きを外れて行動したとき、調和と協調がいかに欠けているか明らかになった。たとえば私たちがジョカン寺で取材していると僧侶30人がいきなりやってきて、「チベットに自由を」などとスローガンを叫び始めた。ラサ市内の寺院に未だに根強く脈打つ激しい反感が、たちまちあらわになった瞬間だ。
もちろんその一方で、当局が用意した筋書きをあまりにきっちり守りすぎるあまり、全てが演出だという印象しか与えない場面もいろいろあった。たとえば、シジさんというチベット族の看護師は、救急車の隣にいてそこで記者団と話をしてくれた。救急車は10日前に暴徒に襲われたもので、その証拠に10日たったその時でも窓は壊れたまま、車内には石が転がっていた。僧侶たちが主導する抗議行動をどう思うかという質問にシジさんは、こう即答した。「マルクス主義が私にとっての宗教です」
そして何より、当局がセッティングした取材相手のほとんどは、暴動はふつうの犯罪者による偶発的な犯罪行為ではなく、非常に計算され、民族的あるいは政治的意図をもって襲撃対象を選んだ行動だと主張していた。
暴徒に住まいを破壊された何十人もの人たちが身を寄せていた避難所では、回族コミュニティー(ラサの旧市街で商業の中心的役割を担っている)の数人が、自分たちは意図的にねらわれたのだと話した。
ジョカン寺院の近くに住み、小さな中華麺店を開いている回族のマ・シチャンさんは、放火で家を燃やされた、自分と息子は幸いにして逃げられたと話した。自宅に火の手が上がると、チベット人を中心に約200人が集まり、「口々に、自分たち回族ばかりが金もうけしていると繰り返していた」のだという。
ほかに狙われたのは、中国政府とつながりのある施設だったという。たとえば北京路の中国銀行支店は放火され、焼け残ったのは、「2008年五輪を応援します」というプラカードだけだった。副支店長のヤン・チェン氏は、北京五輪を攻撃する手段として中国銀行が狙われたのだと思うと話した。中国国営の新華社通信の支局もひどい被害を受けた。
暴徒たちはさらに、中国政府と近い関係にある主要チベット系施設をねらったのではないかと思われる。たとえば暴徒たちは、ある学校を襲撃。ここの生徒の85%はチベット人だが、授業に使われるのは中国語だ。政府系機関の援助を受けて作られたホテルも、放火された。
とはいえ、ラサのチベット系住民のほとんどは、暴動について、そしてもっと大きな政治の問題について、私たちには話したがらなかった。このためこうした襲撃の動機について、はっきり断定的なことをいうのは難しい。
自治区のペマ・チリン副主席は、ラサは政治的協調の街だという印象を我々に与えようとした。しかし本人が示した統計数字そのものが、チベット住民の間の不満や憤りがいかに高いか、示してしまっている。というのも、4日間にわたる騒乱に参加したとして逮捕された414人のうち、大半はチベット人だったというのだ。
中国政府はこのほど、チベット自治区ラサに報道関係者数名を招き入れた。政治的な調和と協調がこの街に戻ったと、そう強調するためだ。
ラサでは4日間の抗議行動の後、3月14日に暴動が発生。それがいくつものチベットの都市に飛び火した。そうした状況を経て中国当局は、事態の沈静化を対外的にアピール。チベット地区が反中感情に覆い尽くされたわけではないと強調しようとしていた。
自治区政府のペマ・チリン副主席は、「全ての民族はひとつになって団結し、こうした犯罪行為を取り締まる」と発言。暴動の背景には民族対立があったのではないかとの指摘はいずれも「民族間の対立をかりたてようとしている」ものだと批判された。
記者団のラサ訪問はスケジュールが厳しく制限され、記者たちは個別の独自取材などほとんどできない状態だった。それだけに中国当局の戦略はあからさまで、話題にすべきは3月14日の暴動のみ(暴動の被害者のほとんどは漢族の中国人だった)。そして暴動は、ダライ・ラマと結託して騒乱を引き起こした「犯罪分子」のせいだと批判することが、彼らの狙いだった。
湖南省から移り住んできたという漢族の中国人、ヨン・ホンタオさんは手の傷を私たちに見せた。刃物をもった暴徒との小競り合いで、負ったものだという。「なぜダライ・ラマがああいうテロリストたちを支援しているのか。あなたたちはそのことを質問すべきだ」とヨンさん。
しかし一日半かけて暴動について取材して回った結果(そして多くの取材は中国当局がセッティングしたものだったが)、浮き彫りになってきたのは、全く別の話だ。政治的な成り立ちそのものが大きくきしんでいる街の姿が、取材を通じてあからさまになったのだ。チベット人の多くは中国当局に対してひどく反発している。そしてそれ以外にも、チベット人住民と漢族の中国人、そしてイスラム教徒の回族との間にも、緊張関係があるのがよく分かった。またチベット族同士の間にも政治的な対立の兆候が、見て取れた。
そして招かれた報道陣が筋書きを外れて行動したとき、調和と協調がいかに欠けているか明らかになった。たとえば私たちがジョカン寺で取材していると僧侶30人がいきなりやってきて、「チベットに自由を」などとスローガンを叫び始めた。ラサ市内の寺院に未だに根強く脈打つ激しい反感が、たちまちあらわになった瞬間だ。
もちろんその一方で、当局が用意した筋書きをあまりにきっちり守りすぎるあまり、全てが演出だという印象しか与えない場面もいろいろあった。たとえば、シジさんというチベット族の看護師は、救急車の隣にいてそこで記者団と話をしてくれた。救急車は10日前に暴徒に襲われたもので、その証拠に10日たったその時でも窓は壊れたまま、車内には石が転がっていた。僧侶たちが主導する抗議行動をどう思うかという質問にシジさんは、こう即答した。「マルクス主義が私にとっての宗教です」
そして何より、当局がセッティングした取材相手のほとんどは、暴動はふつうの犯罪者による偶発的な犯罪行為ではなく、非常に計算され、民族的あるいは政治的意図をもって襲撃対象を選んだ行動だと主張していた。
暴徒に住まいを破壊された何十人もの人たちが身を寄せていた避難所では、回族コミュニティー(ラサの旧市街で商業の中心的役割を担っている)の数人が、自分たちは意図的にねらわれたのだと話した。
ジョカン寺院の近くに住み、小さな中華麺店を開いている回族のマ・シチャンさんは、放火で家を燃やされた、自分と息子は幸いにして逃げられたと話した。自宅に火の手が上がると、チベット人を中心に約200人が集まり、「口々に、自分たち回族ばかりが金もうけしていると繰り返していた」のだという。
ほかに狙われたのは、中国政府とつながりのある施設だったという。たとえば北京路の中国銀行支店は放火され、焼け残ったのは、「2008年五輪を応援します」というプラカードだけだった。副支店長のヤン・チェン氏は、北京五輪を攻撃する手段として中国銀行が狙われたのだと思うと話した。中国国営の新華社通信の支局もひどい被害を受けた。
暴徒たちはさらに、中国政府と近い関係にある主要チベット系施設をねらったのではないかと思われる。たとえば暴徒たちは、ある学校を襲撃。ここの生徒の85%はチベット人だが、授業に使われるのは中国語だ。政府系機関の援助を受けて作られたホテルも、放火された。
とはいえ、ラサのチベット系住民のほとんどは、暴動について、そしてもっと大きな政治の問題について、私たちには話したがらなかった。このためこうした襲撃の動機について、はっきり断定的なことをいうのは難しい。
自治区のペマ・チリン副主席は、ラサは政治的協調の街だという印象を我々に与えようとした。しかし本人が示した統計数字そのものが、チベット住民の間の不満や憤りがいかに高いか、示してしまっている。というのも、4日間にわたる騒乱に参加したとして逮捕された414人のうち、大半はチベット人だったというのだ。
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