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李纓(リ・イン)監督インタビュー
いま、日本をはじめ世界各国で注目されているリ・イン。日本在住19年の中国人監督が10年もの歳月をかけて撮った映画『靖国 YASUKUNI』が、ついに2008年4月12日より公開される。国会議員が異例の試写会を行うなど、早くも日本国内で反響があるなか、海外での反応や撮影中の話などをうかがった。
(インタビュー&テキスト:早川すみれ 撮影:U-CO.)
1963年生まれ。1984年、中国中央テレビ局のディレクターとしてドキュメンタリー制作に携わる。1989年に来日し、93年に映画テレビ番組制作プロダクション「龍影」(ドラゴンフィルムズ)を設立。 1999年、孫文の参謀を勤めた後日本に亡命した老人を描いた『2H』では、ベルリン映画祭最優秀アジア賞を受賞し、以来、数々の劇映画と記録映画の全てがベルリン映画祭に招待される。また、東京で中国伝統の味を守り続ける料理店の日本人夫婦を描いた『味』(2003年/NHK/龍影)はマルセイユ国際映画祭エスペランサ賞受賞。その他、日本のテレビ番組を数多く制作。作品に漂う独自のまなざしと感性が、いま世界中で注目されている。
中国人であることや、個人の感情的な部分を超えて描きたかった
─最初、『靖国』というタイトルと監督が中国の方ということで、反日映画だろうと思いました。実際観ると、そうではなかった。私自身が靖国神社について初めて知ったことがたくさんありました。見終わった後に何をどう感じていいのかわからなくて、ずっと頭の中で悶々と考えています。
李纓:それが映画として一番いい。観たら終わりじゃなくて、その後もずっと残るような映画。それに、今回のテーマはそんなに簡単なものじゃないんです。
─確かに簡単ではないテーマですね。監督が「靖国神社」を初めて知ったのはいつですか。
李纓:あんまりよく覚えていないけど、中国にいるときから知ってました。けれど、その場所が日本人にとってどういうところなのか、どんな意味を持っているのかは全然知らなかった。だから初めて日本に来た頃は、花見に行ったり、何かのイベントで行われていた相撲を見に行ったりして、そういう楽しい行事で人が集まる場所だと思っていました。 それが、1997年のことです。九段会館で南京事件60周年シンポジウムが開催されたときに旧日本軍がつくった『南京』という記録映画が上映され、日本軍の南京入城式での国旗掲揚の場面で会場から大きな拍手が起こったんです。若者とかキレイな女性とか、普通の日本人が日本軍の誇りとも言える場面を見て、それを讃えている光景に大変ショックを受けました。靖国神社は戦犯を含め戦争で戦った人を英霊として祀っていて、そういう人たちに支えられていることに気づき、驚きました。これが映画のきっかけですね。
─映画の中で「中国人だ」といって参列者に袋だたきにされる若者がいましたが、撮影中、身に迫る危険はありましたか。
李纓:あの若者は日本人なんです。追悼集会に抗議した若者が中国人だと間違えられて追われている。で、その後ろでカメラを廻している私は中国人。あのときは怖かったですね。だからうまく焦点を合わせられなくて、あの場面はピントがずれてる。その時は私には何もなかったけど、10年のあいだに実際にカメラやテープを取られたこともありました。
─これまでの作品『2H』(1999年)や『味』(2003年)は中国と日本の関係に焦点を当てていますね。
李纓:今回の『靖国』は、日中の関係の話ではありません。中国人であることや個人の感情的な部分を超えて、日本の国や社会において靖国神社とはどういう意味を持つ場所なのか、それを日本社会の内部に入り込んだところからの視点で描こうとしました。 この映画に出てくる軍服を着て参拝する人、日常の会話をしているおばちゃん、参拝に来た遺族たち、合祀取下げを叫ぶ台湾人、星条旗を掲げるアメリカ人、参拝は心の自由だと主張する首相、それに抗議する若者、そして「靖国刀」の刀匠。靖国神社は、それら全てが集団となって作り上げた象徴であり巨大な空間です。『靖国』は、集団的な<記憶>を映した映画なんです。
─そういう8月15日の靖国神社の騒ぎ立てる様子と並行して、「靖国刀」をつくる刀匠の淡々とした鋳造光景が映し出されていますが、その意図はなんでしょうか。
李纓:映画をつくるとき、どの角度からどの視点から撮影するのかを考えます。今回もたくさんの文献を読んだり靖国の歴史など時間をかけて調べ、その段階で気づいたことがたくさんありました。「靖国刀」の存在もそうだし、靖国神社のご神体が刀だという最も重要なことにも気づいたんです。むかしから日本でシンボルとして存在していた刀、この発見で靖国神社を取り巻く全てのことが繋がったような気がしました。すでにもっと発達した技術があったにもかかわらず、なぜ、わざわざ伝統的な手法でつくる日本刀を靖国神社の境内で作らせていたのか。「靖国刀」には侍魂という精神性が象徴されていて、刀は聖なるものであり、戦争を「聖なる戦い」とする歴史から生まれてきたものなのです。「靖国刀」をつくる刀匠を描くことで、靖国神社という空間が持つ「魂」とその意味が何なのか、感じて欲しい、考えて欲しいんです。
─ご神体のことや「靖国刀」の存在を、『靖国』を観て初めて知りました。私たち日本人は、国から靖国神社に関して定義された何かを教えられているわけではありません。義務教育の中で靖国神社がどういう存在であるか、しっかり教えられた覚えがあまりないんです。結局、私たちはテレビのニュースなどで見る終戦記念日の様子だとか首相の参拝をめぐる報道で、靖国神社が他の神社と違う何か特別な場所だと認識している。
李纓:それは非常に面白い話ですね。そこには歴史教育の問題があると思いますが、第二次世界大戦や韓国、台湾との関係にどういう見識を定めていいか、国自体が教えられない状況にあったんじゃないでしょうか。古代史はかなり詳しく教育されるのに、近代史は自分でやれという感じ。
日本は言論の自由を掲げていて、いろんな言論の出版物があるけれど、何を信じていいのか、一体何について議論されているのか定説がありません。
また、日本は戦後、矛盾したふたつの立場をとっています。つまり、対外と対内が違う。国際社会に対しては東京裁判は認めるけれど、対内的にはそれが名誉ある英霊になっています。その矛盾が日本を複雑化しているし、歴史教育のあいまいさを生んでいる。じゃあ、なぜ矛盾したふたつの立場が必要なのか、そこまで問いかけなくちゃだめなんです。それを支えている背景は何なのか。