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モットーは「旅人が平和を創る」

世界初のパクチー料理専門店

吉川 忠行(2008-03-31 21:40)
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 コリアンダー、シャンツァイ(香草)、ダニャ。英語、中国語、ネパール語と呼び名は異なるが同じものを指す。香りが「カメムシみたい」だと揶揄(やゆ)されるのが、パクチー(タイ語)だ。好き嫌いがハッキリ分かれるパクチーで世界初の専門料理店「パクチーハウス東京」を2007年11月、東京・経堂の商店街に開いた人がいる。この店の店長で同店の運営会社「旅と平和」(東京・世田谷)の社長である佐谷恭さん(33)だ。

 佐谷さんは、富士通の人事担当を経てベンチャー企業の立ち上げに参加後、イギリスの大学院で平和学を学び、帰国後はポータルサイトの独自報道部門で記者を経験した。大学時代から50カ国以上を訪れた旅好きの佐谷さん。しかし、なぜパクチー料理なのだろうか。
店のオープン直前に行われたレセプションには2日間で100人近いパクチー好きが訪れた=07年11月、東京・経堂で(撮影:吉川忠行)

飲食はバイトもしたことがない

 パクチーが嫌いな人のブログに「絶対に行きたくない店」と書かれるほど、好みがハッキリ分かれるパクチー。それゆえ、パクチーで何かを始めれば、これを肴(さかな)に話が盛り上がるだろうと考えた。店の前身は2年前にパクチー好きが集まって立ち上げたコミュニティー「日本パクチー狂会」で、当初はパクチーを大量に使った料理をメンバーで食べるイベントなどを行っていた。

「本当に自由に店を使うなら自分でやるしかない」と決断した店長の佐谷さん=08年3月(撮影:吉川忠行)
 以前から飲み会を企画するのが好きだった佐谷さんは、いつでも融通の利く店を探していた。しかし、飲んで自由勝手に楽しめる店は飲食だけの店ではほとんどなく、値段に見合った店も少ないと感じたことが、起業するきっかけのひとつだという。

 06年10月ごろに起業の準備をはじめた当初は、店の企画のみを担当し、誰かにやってもらうつもりだった。ところが、1年前の3月、飲食関係のイベント「居酒屋甲子園」で、出場者が自ら店で取り組んでいる事例を語る姿を見て、

「本当に自由に店を使うなら自分でやるしかない」

と決断。飲食関係はバイトすらしたことがなかったが、パクチー狂会が「パクチーの日」と呼ぶ8月9日に店の運営会社「旅と平和」を起業した。同社のモットーは「旅人が平和を創る」。これは佐谷さんがイギリス留学時に書いた修士論文に基づいており、店内を利用して地域活性化や NPOやNGO支援、子どもの教育などにも取り組んでいる。

同じ日に同じ店に来るのはすごい偶然

 当初は8月9日に店をオープンしたかったという佐谷さんが、実際にオープンさせたのは11月20日。17日と18日に行われたレセプションには2日間で 100人近いパクチー好きが訪れた。好き嫌いが分かれるパクチー料理の専門店とあって、オープン前から取材が入り、4カ月間で約35件の取材に応じたという。

 雑誌やラジオの取材対応だけではなく、パクチーのことを書いているブログやmixiのコミュニティーには、検索してコメントを残したという。

「興味を持ってくれている人には会いたいし、直接話したいからです。店には関東が中心ですが、大阪・名古屋・福岡・愛媛からも来てくれました」

と語る佐谷さんは、自らの誕生日など、何かと理由を付けて立食パーティーを店で催している。これもその時々のキーワードに呼応して人が集うことが楽しいからだという。

「(イベント当日は)やることはありません。(自分が)飲むことだけですよ(笑)」

 また、従来の店主と客の間柄とは違った関係作りをしたいという。

「店主がお客さんとお客さんの間を取り持ったりするような関係だと、(店主中心の)中央集権的な感じがしました。人は皆、基本的におもしろい要素を持っているから、自由な場所があれば発揮できるんです。店主の資質ではなく、自由に集える空間を提供することが大切かなと。それに、同じ日に同じ店に来るのは、すごい偶然なんですよ」

と熱く語る。飲食店を経営する立場になり、昔からの知人に「華麗なる転身」と言われることがあるという。しかし、佐谷さんの中では、人と人が出会う場を提供するという意味で、人事担当時代から今までまったく変わってないそうだ。

残飯を前に「何やってるんだろう」

 飲食未経験者にもかかわらず、オープンから4カ月ほどで多数の取材を受けるなど、飲食業で起業を目指す人の中にはうらやましく感じる人もいるだろう。しかし、未経験故にオープン当初悩んだのは、食材が余ってしまうことだった。同店は冷凍食材などを使用していないので、発注量の見込み違いがそのまま食材のロスになる。

入口ドア上部にある塗り残しは「いつまでも未完成だから」=08年3月(撮影:吉川忠行)
「おもしろい世の中を作るために店を作ったのに、食べようと思えば食べられるものを処分しなければならず、つらい時期がありました。何やってるんだろう、と思いましたよ」

 やがて、曜日や時間ごとの注文傾向などを徐々に把握していくことで、年が明けてからは、スタッフにまかないのご飯が出せないほど適量になったという。それでも、残飯とは別の問題として、一番の売り物であるパクチーがなかなか届かない日があるなど、生の食材を多く使うことによる悩みはつきない。

 とかくパクチーという食材に注目が集まる同店。30品目あるメニューには「本日の実験」と題したものがあり、1日1つ知恵を絞った試作品を披露している。しかし、常に変化しているのはメニューだけではないようだ。店内を見渡すと、入口の上にはオープン以来ペンキが塗られていない一角がある。理由を尋ねると、

「パクチーハウスはいつまでも未完成だからですよ」

と返ってきた。旅を「人が自発的に、他人に会いに行くこと」という佐谷さんのパクチーの旅は“交流する飲食店”とともに今日も続く。

■関連リンク
パクチーハウス東京
日本パクチー狂会

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