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クローズアップ2008:B型肝炎集団提訴 国の放置に憤り

 ◇「予防接種原因、認めよ」

 推定約350万人に上るウイルス性肝炎感染者のうち、血液製剤で感染したC型肝炎患者に続き、予防接種を原因とするB型肝炎患者らも28日、国を相手に集団訴訟を起こした。背景には、最高裁で責任が確定しながら被害実態すら調べず、B型肝炎を置き去りにした肝炎対策を進める国への憤りがある。医療行為などで感染が広がった肝炎を長年放置してきたツケが厚生労働省に重くのしかかり、肝炎問題の解決を遠のかせている。【清水健二、芳賀竜也】

 「裁判所が行政にばかにされているようなもの。これは司法の権威を回復させる闘いでもある」。北海道弁護団の佐藤哲之団長は札幌地裁への提訴後、06年6月の最高裁判決で勝訴しながら、集団訴訟で再び国と争う意義をこう説明した。

 B型肝炎ウイルスが体内に残る持続感染者(キャリアー)になるのは、0~6歳ごろまでに感染した場合に限られる。89年に5人が提訴した前回の訴訟で、原告側は「母子感染ではなく幼少期の輸血や性行為の経験もないので、集団予防接種時の注射器使い回ししか原因がない」という消去法での立証を試みて、最高裁も是認した。

 しかしその半年後、厚労省との協議で担当者は「最高裁判決はあくまでも5人について責任を認めたもの。患者全体への対策は取らない」と発言した。弁護団事務局長の奥泉尚洋弁護士は耳を疑った。

 厚労省の論理に沿えば、救済を求める被害者は全員が提訴し、予防接種以外に原因がないことを証明しなければならない。弁護団は「国の対応を変えさせなければ」と1年かけて全国を回り、患者に訴訟の意義を説いた。原告に加わった男性(55)は「(被害が)間違ったり勘違いだったら仕方ないが、国が知っていて何もしなかったのなら許せない」と語る。

 国がB型肝炎患者を放置し、薬害C型肝炎訴訟のように一律救済に踏み出さないのは「感染原因の特定が不可能」という理由からだ。厚労省肝炎対策推進室は「数十年前の予防接種の実態は不明で、母子手帳などに記録されてない限り証明の手だてがない」と話す。一方、原告側は「予防接種は94年まで義務化されていたのだから、特段の事情がなければ記録がなくても予防接種が感染原因とみなすべきだ」と主張する。

 前回訴訟では▽当時の医学水準で肝炎感染が予期できたか(予見可能性)▽有効な防止策を取れたか(結果回避義務)▽損害賠償請求できる期間を過ぎているか(除斥期間)--なども争われたが、いずれも原告側に有利な判断で決着した。厚労省も「判例を超えた主張はしない」としており、今後の争点は因果関係に絞られる。原告側は訴訟の早期解決とともに、裁判を通して一般肝炎対策の拡充も訴えていく構えだ。

 ◇有効な治療が助成対象外

 B型肝炎患者が被害補償と並んで「放置された」と感じるもう一つの理由が、4月から始まる医療費助成だ。

 ウイルスを除去するインターフェロン(IFN)治療の一部が公費負担になることで、厚労省は毎年10万人が治療を始めると見込む。しかし日本肝臓病患者団体協議会の高畠穣二事務局長は「C型肝炎患者に向けた制度で、B型への視点が抜けている」と批判する。

 B型とC型は治療法が異なる。厚労省研究班が06年3月に作成した治療ガイドラインでは、B型の場合、35歳未満にIFN、35歳以上は抗ウイルス薬服用を勧めている。IFNで治る確率は約3割しかないが、抗ウイルス薬の効果はここ数年で飛躍的に上がった。若年の感染者自体が少ないこともあり、B型肝炎患者の約9割は助成対象外の抗ウイルス薬治療を選んでいる。

 抗ウイルス薬は自己負担が月1万~2万円。IFN治療の月約7万円よりは安いが、完治はしないため一生服用はやめられない。「低所得層には重い負担で、治療を断念する人も多い」と高畠事務局長。それでも厚労省は「他の疾病とのバランスからもIFNほど高額でない抗ウイルス薬へ助成はできない」との立場を崩さない。

 さらに肝炎対策を推し進める肝炎対策基本法案は今月、与野党の一本化協議が決裂し、成立が絶望的になった。治療費助成は法律の後ろ盾がない単なる感染症対策の色が濃くなり、医療費削減の圧力をはねのけて助成を拡大するのは厳しい。

 B型肝炎患者らの不公平感をくみとらないと、対立はいつまでも続く。治療ガイドラインを作った熊田博光・虎の門病院分院長は「IFN治療の助成は合理的」と評価しつつ、「訴訟の早期解決に向けた政治判断で、助成対象を広げる選択肢はあっていい」と話す。

 ◇C型は徐々に対策進む

 C型肝炎では、血液製剤による感染の責任が争われた薬害肝炎訴訟が1月に和解基本合意に達し、被害者救済法に基づく和解が各地で進んでいる。救済対象は約1万人だが、裁判の過程で医療費助成や無料検査拡充など総合対策も進んだ。

 今月から厚労省と原告側の定期協議が始まり▽恒久対策▽被害者救済▽薬害の検証--の3分野で作業部会の設置が決まった。原告側は国に被害実態の把握を急がせているが、リスト放置が問題になった418人の感染者を含め、解明にはほど遠いのが現状だ。

 同じ血液製剤を使われながら救済対象ではない先天性疾患の感染者、医療費助成を受けられない肝硬変や肝がん患者への対応も未着手だ。舛添要一厚労相は09年度予算案への反映を目指し、7月までに一定の対策をまとめる意向だ。

 また、訴訟の被告になった製薬企業3社は、いまだに和解に応じていない。原告側は「社会的責任を果たしていない」と批判を強めている。

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 ■予防接種とB型肝炎を巡る動き■

1948年7月 予防接種法施行

  50年2月 厚生省が予防接種時の1人ごとの注射針取り換えを告示

  53年   世界保健機関(WHO)が連続注射による肝炎感染を警告する報告書

  58年9月 予防接種実施規則改正で、1人ごとの針の取り換えが明記される

  70年   B型肝炎ウイルスの発見

  88年1月 厚生省通達で注射筒も交換対象に

  89年6月 札幌市内のB型肝炎感染者5人が札幌地裁に国家賠償を求め提訴

  94年7月 予防接種法改正で、接種が「義務」から「努力義務」に

2000年3月 札幌地裁が感染と予防接種の因果関係を認めず患者側敗訴の判決

  04年1月 札幌高裁判決。患者3人が逆転勝訴

  06年6月 最高裁判決。患者5人全員が勝訴し国に計2750万円の賠償命令

  07年9月 与党プロジェクトチームがB、C型肝炎治療の公費助成を決定

  08年1月 薬害C型肝炎訴訟が解決し、国が肝炎医療の恒久対策を約束

     3月 北海道内の5人が札幌地裁に提訴

毎日新聞 2008年3月29日 東京朝刊

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