健康にも「勝ち組・負け組」〜検証<健康政策に異変>(後編)

 「A市の国民健康保険に加入している住民は、B市の医療機関で受診できない。社会保険の家族は、居住地の保健所・保健センターでは健診を受けられない。メタボ健診の導入で、こんなことが起きる心配がある」
 東京社会医学研究センターの門田裕志さんは、新制度で健診の主体者が従来の市町村から国保や社保などの医療保険者に変わることで、想定される事例を挙げる。

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検証<健康政策に異変>(前編)

 こうした問題の背景には、メタボ健診に課せられた各保険者への「目標」が関係しているという。
 健診の対象者は40歳から74歳で、保険者ごとにクリアしなければならない基準があらかじめ設定されている。例えば、市町村国保の場合は、対象者の65%に健診を実施し、その中からメタボの該当者または予備群の45%に保健指導を行って、さらに2012年度に08年度時点の該当者・予備群を10%減らす−という3つの基準を満たさなければならない。

 もし、いずれか1つでも達成できなければ、メタボ健診が始まる08年4月1日と同じ日から施行される「後期高齢者医療制度」に対する各保険者の支援金が10%の間で加減される。うまくいかなかったら最大限で10%の増額、逆にうまくいけば10%減額されるという仕組みだ。

 しかし、「従来の住民健診の受診率は高い地域でも50%程度、ほとんどが20%〜30%に止まっており、国保の場合は多くの市町村が12年度に65%を達成することは極めて厳しい」と、門田さんは指摘する。3つの基準を満たさなければ支援金にペナルティー≠課せられるため、国保以外の健診はやらないという自治体が既に全国の6割近くにも上っている。

 このような事態について、門田さんは「国保の加入者を対象に健診・保健指導する場合と、住民全体を対象にする場合で、市町村国保の3つの基準に対する到達率は大きく変わってくる。社保の家族の健診や保健指導をいくらやったところで、国保に課せられた基準にはカウントされない」と説明。
 問題の本質として「課せられた3つの基準があるため、社保の家族を含めて健診や保健指導を増やしたとしても、利益を得るのは社保の方で、そのために国保は目標に届かない可能性もある。すると、拠出する支援金が増やされるから、その分をどうするかというと国保料を上げざるを得なくなる。国保が社保の家族の健診もやって、社保は健診率が高まるから支援金が減って保険料を下げられるのに、逆に国保は上がる。そんなおかしな話はないでしょうということです」。
 こうした中、社保などの家族の健診は制度の導入を目前にしながら、いまだにどのように実施するか具体的には定まっていない。

 医師で労働衛生コンサルタントの服部真さん=(前編)参照=は、「支援金の加減額の試算は加入者1人当たり年間約1万円で、各保険者にとって膨大な額になる。メタボ健診によって、組織的に統一した形で健診を進めることができて目標を達成しやすい大企業の組合健保は支出が減る一方、中小企業の健保や国保などは支出が増える。このように健康保険によって格差≠ェ拡大する制度になっている」と明かす。

 加入している保険で受けられる健診が異なることについて、門田さんや服部さんら多くの関係者は不信感をあらわにする。
 「問題点が多いメタボ健診を国が導入した背景には医療費の削減が大前提にある。しかし、健診などの健康対策は医療費削減のためにあるのではない」と批判。そのうえで健康政策の在り方に言及する。
 「保健予防を徹底すれば、医療費は下がる。従来の住民健診でメタボだけじゃなく、さまざまな病気を発見できていた。だから、もっと健診や保健予防を充実し、誰もが受けられやすい仕組みをつくることが求められているのではないか」


更新:2008/03/31 19:33     キャリアブレイン

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08/01/25配信

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医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。