「『三丁目の夕日』に感動したら韓国へ」への違和感

路地裏の雑踏は実生活の韓国ではない

長迫 厚樹(2008-03-31 15:00)
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このような雰囲気は、韓国の1つの側面に過ぎない=1月17日、ソウル・南大門市場(ロイター)
 3月27日、関口治記者による「『三丁目の夕日』に感動したら韓国へ」という記事が掲載された。私も韓国に語学留学して1年半をすごしたことがあるだけに興味深く読んだ。しかし全面否定するわけではないが、言葉が分からない旅行者と実生活経験者の差であろうか、違和感を抱かずにはいられなかったのである。

 この記事によると、訪れた場所はソウルの東大門市場のようである。おもにそこで見た風景、特に屋台での出来事を中心に書いておられる。それは実際に見たことであるから事実であろう。

 関口記者の記事では、そこにある種のノスタルジーを求めているようである。だが、東大門市場や南大門市場のような場所はあくまで観光客向けの場所である。余談だが、物ごいをする障害者の話も出てきたので一言。韓国人の友人の話を聞くと、中にはわざと物ごいをしている人もいるらしい。そのため一般の韓国人はお金を出さないが、われわれ、日本人観光客や欧米人などは、簡単にお金を出してしまうという(私も昔100ウォンを出したことがある)。

 もっと極端なことを言えば、そのような屋台や露店というのは社会の下層の人たちの場所と言っていい。決してそれがソウル市民の生活すべてではない。当然、日本と同じように学生には学生生活、サラリーマンにはサラリーマン生活、主婦には主婦の生活が存在する。

 朝のラッシュ時に地下鉄やバスに乗れば、疲れきった表情のサラリーマンたちが乗っているし、朝9時前の大学周辺では大学生たちがごった返している。そういった風景は日本の普通の大都市と変わるところがないのである。ソウルは人口1000万人の大都会であり地下鉄路線の総延長も200キロを超えるが、これは世界3番目だそうだ。私のような広島生まれの人間が見ると、東京のような街を連想してしまう。

 屋台の話が出てきたのでこれにも一言。もちろん、旅行者は屋台で食事をしたがるものだが、だからといってそれが韓国人の平均的な生活ではないのである。私が住んでいたのはソウルの西側にある新村という場所だが、ここは周辺にいくつもの大学があるため学生街して知られている。学生向けの安い食堂や居酒屋が並んでおり、私も何度も利用したが、日本円で9000円も取られることはない。ちゃんと値段入りのメニューが存在するし、数人で行けば1人あたり1500円ぐらいで済んでしまう。もちろん、われわれ留学生は韓国語を話せるということもあるがボッタクリにあったことはない。

 たまに屋台で食事することもあったが、ボッタクリが怖いので必ず最初に値段を聞いていたし、新村周辺の屋台にはメニューには値段が書いてあった。

 実際のところ、ソウルはいろんな意味で東京のような街だと言っていい。東京都民のようにソウル市民の多くも地方出身者である。小針進氏の『韓国と韓国人-隣人たちのほんとうの話』(平凡社)という本にはそのデータが載っている。

 私が見たことを話すと、私は留学中、下宿生活をしたのだが、下宿のおばさんもほかの下宿生たちも当然のことだが、他地方の出身者だった。それだけではなく、韓国人の友人たちの話を聞くと、多くは地方出身者である。あるいは本人はソウルやその周辺の都市の生まれでも、親は地方出身者というケースが多い。ソウルでも映画『男はつらいよ』シリーズに出てくるような、古くからの共同体や江戸っ子の下町情緒は一部にしか存在しないのではないか。

 韓国は日本以上に一極集中が激しい国である。韓国の総人口は4900万人だが、ソウル市民は1000万人、周辺の京畿道(関東地方のようなもの)も1000万人、つまり総人口の半分近くが首都圏に住む計算になる。ほかにも地方へ行くと、釜山、大邸、大田、光州などの大都市に人口が集中する傾向がある。ソウルの周辺都市でも次々と高層マンションが建つなど急速に宅地開発が進んでいる。つまり日本の大都市と同様の都市化が進んでいるということだ。

 ところで関口記者の記事を読んでいて感じたのは、やはり日本人がアジアに対して持つある種の固定的イメージだった。「貧しくともたくましく生きる韓国の人々」というメッセージを発したかったようだが、先に書いたとおり、屋台の人たちがソウル市民すべてではない。韓国人に聞いてもおそらく、私と似たような答えが返ってくるのではないか。

 もちろん、相手に対する思い込みは韓国人の側にも存在する。「優しい日本人女性像」がそれである。韓国にいる間、韓国人男性からは「もし結婚するなら日本人女性がいい」という声を聞いた。実際、韓国人男性と日本人女性のカップルをよく目にしたものである。日本人女性は表面的には韓国人女性よりもおとなしく見えて親切なので男に対して従順だといういイメージがあるようだが、これも言ってみればある種の願望である。つまり、日本人は韓国を見て昔ながらの下町情緒を求めるように、韓国人は日本人女性を見て昔ながらの女性観を求める、と言えようか。

 韓流ブームの火付け役となったものに日韓合作ドラマがあるが、その代表作はウォンビンと深田恭子主演の『フレンズ』である。あそこに出てくる深田の役は、韓国人がイメージする(もっと言えば理想とする)日本人女性像である。「優しくて愛嬌がある」というものだが、ドラマは現実ではない。

 もっと言えばメディア報道がリアルな現実とは限らない。韓流ブーム開始間もないころ、「韓国人男性にあこがれる日本人女性」といった報道をよく見たが、そういう人たちの多くは実際に韓国人男性と住んだことがない人か、あるいは付き合い始めて間もない日韓カップルの話ばかりだった。

 関口記者には今後も韓国を訪問していただきたいし、次は韓国語を覚えて行き、いろんな場所を見て回っていただきたい。可能であれば短期でもいいので語学留学にもチャレンジしていただきたい。そして自分の目と足でいろんな場所を見て回ってほしいと思う。そう思って評価ボタンを押させていただいた。

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