企業ユーザーがWindows Vistaへのアップグレードを見合わせている主な理由の1つは、このOSが多くの一般的なアプリケーションに対してかなり深刻な互換性問題を抱えているとされていることだ。
読者はこれまでに、Windows Vistaは従来版のWindowsよりもはるかにセキュアだという宣伝文句を耳にしたことがあるだろう。事実、Windows VistaはWindows XPよりもずっとセキュアなOSだ。しかし残念ながら、セキュリティはもろ刃の剣になることもあるのだ。Windows Vistaの新しいセキュリティ機能は、悪党たちを寄せ付けないという点ではなかなか優秀なのだが、既知の互換性問題の多くの原因にもなっている。
こうした問題の多くは、ユーザーアカウント制御(UAC)と呼ばれるセキュリティ機能に起因するものだ。UACの目的は、ユーザーが管理者の許可なしにシステムに特定の変更を加えるのを防ぐことにある。これがWindows Vistaで問題になるのは、Windows XPではユーザーがワークステーションを操作する上でほとんど制約がないからだ。実際、ソフトウェアベンダーは何年もの間、こういった制約のない環境でアプリケーションが実行される前提でソフトウェアを設計してきたのだ。
しかしWindows Vistaのセキュリティ機能の仕組みにより、一般にアプリケーションには、それを実行するユーザーと同じ権限しか与えられない。基本的に、ユーザーに制約を課せば、アプリケーションにも同じ制約を課すことになってしまうのだ。Windows XPのセキュリティメカニズムもこれとまったく同じ仕組みだが、Windows Vistaで採用されたセキュリティモデルには1つの根本的な違いがある。Windows Vistaでは、管理者でさえも一般のユーザーと見なされるのだ。言い換えれば、ローカル管理者としてログインしても、Windows Vistaが管理者アカウントによる無制限のフルアクセスを許可していないために、一部のアプリケーションを実行できない可能性があるということだ。
とはいえ、今日ではWindows Vistaの互換性問題は、以前と比べると大幅に改善されている。同OSが登場してもう1年以上になり、大多数のソフトウェアベンダーがそれぞれのアプリケーションのWindows Vista対応版を開発したからだ。もちろん、Windows Vistaへのアップグレードを検討しているのであれば、利用しているアプリケーションのどれがWindows Vista上で動作可能なのか確認することが重要だ。多くのソフトウェアベンダーは自社製品をWindows Vista上で動作させるためのパッチを提供しているが、アップデート版の購入を求めるベンダーもある。このため、Windows Vistaへのアップグレードに際してかなりの出費を強いられるケースもあるだろう。
基本的には、Windows Vistaの互換性問題でトラブルが生じる可能性があるのは、アップデートが提供されていないレガシーアプリケーションやプロプライエタリアプリケーションを動作させる場合がほとんどだろう。こうしたタイプのアプリケーションが引き起こす問題に対処する方法としては、シンクライアント環境や仮想マシン内でそれらを運用するといった選択肢も考えられる。
Windows VistaのService Pack 1(SP1、2008年3月にリリースされた)で互換性問題が解決されるといううわさが広がっていた。しかしMicrosoftが最近リリースしたホワイトペーパーによると、基本的にSP1は互換性問題を修正するものではないとしている。
つまり、現時点で朗報といえるのは、ほとんどのソフトウェアベンダーがそれぞれの製品のWindows Vista対応版を開発したということだけだ。しかし、こういったアップデートが提供されていない場合でも、さまざまな対処法が存在する。これらの対処法、ならびに互換性を検証する手法については、あらためて取り上げる予定だ。
本稿筆者のブライエン・M・ポージー氏は、MCSE(マイクロソフト認定システムエンジニア)の資格を持ち、Windows 2000 ServerおよびIISに関する仕事でMicrosoft Most Valuable Professionalの認定を受けた。全米規模の病院チェーンでCIOを務めた経験があり、フォートノックス(ケンタッキー州にある米軍施設)のITセキュリティを担当したこともある。フリーランスのテクニカルライターとして、Microsoft、TechTarget、CNET、ZDNet、MSD2D、Relevant TechnologiesなどのIT関連企業に記事を寄稿している。
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