現在位置:asahi.com>社説 社説2008年03月31日(月曜日)付 希望社会への提言(23)―「わいわい共同体」をつくろう・地域文化を発信して「連帯型社会」をつくる ・「よそ者」の視点を取り込み、地域を元気に 少子高齢化やグローバル化の時代に日本を希望社会に変えるには、地域へ主権を移すしかない。このシリーズはそんな方向で未来像を描いてきた。 各論の最後に、いかに地域を元気にするかを考えたい。大きな力になるのが、情報化の潮流だ。 デジカメやビデオで撮った映像をインターネットで送る。そうした情報発信を誰でもやれる時代になった。それを個人の趣味にとどめず、高齢者も若者も子供も、一緒にわいわい楽しく作って発信する。そんな「わいわい共同体」を日本中に広げたい。 昔の村落共同体と違って、「わいわい共同体」は誰でも参加できる。どこにでも発信し、ネットワークでつながる。そんな開放性を力にしたい。 うねりはすでに起きている。 その一つが、各地で活躍する「住民ディレクター」だ。「テレビは見るもんじゃなか。出るもんばい」。発祥の地、熊本県山江村の合言葉通り、住民たちが出演者、制作者となって地域の素顔を映す番組を作り、インターネットやケーブルテレビで流す。そんな試みを始めた地域がざっと20はある。 地方だけではない。東京都杉並区の住民ディレクターたちは「都市の村おこし」をテーマに番組を作っている。地元農家を訪ねる「つなげていきたい杉並の農業」、大都市ならではの「私の好きなコンクリートの川」……。福岡県東峰村の住民ディレクターたちとテレビ会議もする。 火付け役として各地を飛び回る熊本の元民放ディレクター岸本晃さん(54)は、地域が全国ネットワークでつながる時が来たと感じている。 みんなで作ると何が生まれるか。まず、地域内の連帯感だ。地域づくりに必要な企画力、取材力、広報力なども鍛えられる。番組の裏側を考えながらテレビを見る習慣も身につく。 別の地域とつながれば、可能性はもっと広がる。似た悩みを抱えているとわかり、解決策を出し合う。雑草の映像を見て草刈りに行く。若者がいなくて困ると聞いて移住する。そんな農村再生の道も開けていく。 決め手はやはり「人」だ。地域を元気にする「よそ者、若者、ばか者」という言い方がある。情報発信でこそ、この三者の協力が欠かせない。 岸本さんのような「よそ者」が制作や発信のノウハウを持ち込む。「若者」が加わって活気づかせ、「ばか者」扱いされるほどの情熱や行動力がある人たちが推し進めていく。 「よそ者」については、もう少し深く広く考えてみたい。 地域の魅力に、自分たちは気づきにくい。「よそ者」の目によって発見されることが多いのではないか。 実例をあげよう。北海道テレビは97年、「北海道アワー」という番組を東アジア向けの衛星放送で流し始めた。すると、台湾で人気が爆発した。雪、牧場、温泉、クマの親子……。素朴な映像が、雪や広大な自然にあこがれる南島の人々の心をとらえたのだ。 北海道テレビの樋泉実常務は「あれで地域文化の発信には外からの視点が不可欠だと確信した」と振り返る。97年に5万人だった台湾から北海道への観光客は今や27万人。韓国や中国など東アジア全体も急増している。 映像による魅力の発見が観光に結びつけば、関連産業が潤い、外の目を意識した地域づくりも進む。しかし、別の効果にも目を向けたい。 韓国の徐淵昊(ソ・ヨノ)・高麗大名誉教授は最近、「日本文化芸術の現場」という本を出した。日本各地を歩いて文化の多様さに驚き、韓国も参考にした方がいいと思うようになったからだ。 例えば宮崎県の旧南郷村には、韓国ですたれた祭りの原形が残っている。岩手県遠野市には、柳田国男の「遠野物語」の世界が生きている。「地域の人が文化を生活の一部として守っていて感心する。その魅力をもっと発信したらいいのに」と話す。 韓国や中国には、かつての侵略国、日本への反感が根強い。だが、地域に主権を移して各地の文化を発信すれば日本像も大きく変わるだろう。 地域の「夢見る力」を応援する。地域のための情報を発信し、みんなで地域をつくる。先の北海道テレビはそんな宣言をした。地上デジタルのデータ放送には、釧路新聞、十勝毎日新聞など地域紙や、道内各地の自然通信員らが届ける情報ものせている。 3年後には地上波テレビもすべてデジタルへ移る。その特徴を生かして地域文化の発信を競い合う。そんな時代にしたい。チャンネルを増やせるのがデジタルの良さだから、「わいわい共同体」に電波の一部を開放して、海外へも発信すればいい。 デジタル時代を「わいわい共同体」の味方にして、元気な地域連帯型の日本に変えていく。そして、東アジア地域の連帯社会化もめざす。 この方向に徹すれば、おのずと希望社会に突入することができるだろう。 PR情報 |
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