チベット問題で欧州の一部首脳が八月に開催される北京五輪の開会式参加を見合わせるなどの動きが出ている。暗雲を払うためにも中国政府はダライ・ラマ十四世との対話に踏み切るべきだ。
ポーランドのトゥスク首相とチェコのクラウス大統領は欧州のメディアに対し、五輪開会式に参加しない意向を明らかにした。
フランスのサルコジ大統領も開会式ボイコットを「選択肢」の一つに挙げている。ブッシュ米大統領は中国の胡錦濤国家主席との電話会談で五輪には言及しなかったが、ダライ・ラマ十四世との対話再開を促した。
北京五輪はアジアで東京、ソウルに続いて開かれる。中国の復興ばかりでなく、アジアの歴史的な台頭を象徴する世紀の祭典だ。
チベット問題の影響で開会式ボイコットの動きが広がり、ギリシャで行われた聖火採火式まで妨害され、聖火リレーの安全も脅かされるのは残念というほかない。
しかし、中国政府が主張するようにチベット問題と五輪は関係がないとは言えない。事件後初めてチベット入りした外国メディアの前で、僧侶たちは当局の厳しい規制にかかわらず「自由がない」と涙ながらに訴えた。
インド北部ダラムサラにあるチベット亡命政府は当局の鎮圧による死者数は約百四十人に達したと発表した。中国政府は「暴動被害」で十九人が死亡したとしているが、参加側の死者には触れていない。
チベットで過酷な弾圧が行われ真相も明らかにされないとすれば、五輪の開催を、わだかまりなく祝う気にはなれない。開会式で「中華民族の団結」がうたわれても白けた気分になるだろう。
中国は五輪成功のためにも進んで外国機関に現地を開放し真相を明らかにすべきだ。国際社会の懸念を解消するためにはダライ・ラマ十四世との対話再開が必要だ。
同十四世は自らの地位をかけて双方に暴力停止を迫り、独立を求めず五輪を支持すると明言した。中国が暴動の元凶と決め付け、あくまで対話を拒絶するのは理解に苦しむ。同十四世の影響力は事態の沈静化に欠かせない。
五月上旬に予定される胡錦濤主席の来日は事件後、初めての中国首脳による西側訪問になる。福田康夫首相が、この問題に沈黙すれば各国から人権感覚を疑われる。事前に懸念を表明し日本側の立場を明らかにする方が、首脳会談の成功につながるのではないか。
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