小学校は二〇一一年度、中学校は一二年度に完全実施される新しい学習指導要領が告示された。見逃せないのは、二月十五日に公表された改定案と比べ、基本的な方針を示す総則に「我が国と郷土を愛し」との文言を書き加えるなど、告示された新指導要領が愛国心教育を強調していることだ。
愛国心をめぐっては、押し付けになるのではないかと懸念する声が根強い。国や郷土を愛することは大切だが、強制的な意図が感じられるようでは反発を招き、逆効果になりかねない。より慎重に取り扱うべきテーマであろう。
文部科学省は改定案への加筆について「改正教育基本法の趣旨を明確にするためであり、さらにパブリックコメント(意見公募)や与党とのやりとりを踏まえて修正した」と説明する。〇六年に成立した改正教育基本法には「我が国と郷土を愛する態度を養う」と明記されている。ただ、当時の安倍晋三首相は「国を愛する心情を内面に入り込んで評価することはない」と述べていた。
愛する態度を、子どもたちの内面の自由を尊重しながらどうすればはぐくむことができるか。困難な課題であるだけに、教育現場を中心に知恵を絞り、工夫を重ねながら丁寧に取り組んでいくことが何よりも重要ではないのか。
改定案の総則は「伝統と文化を継承し、発展させ」と控えめな表現にとどめ、「国を愛し」の文言は現行の指導要領通り「道徳」の項目に納めていた。押し付けや強制を抑える配慮だったと思われる。文科省は、告示段階での修正は「特に重要な部分はない」とするが、賛否のある愛国心教育に関する文言をあえて総則に盛り込んだのだから、教育現場へは大きな影響を与えよう。
総則だけではない。例えば小学校音楽では、改定案が現行指導要領の「『君が代』はいずれの学年においても指導する」を踏襲していたのに、新しい指導要領は「歌えるよう指導」と踏み込んだ。
渡海紀三朗文科相は「新指導要領の趣旨をあらゆる場面を活用して教師など教育関係者はもとより、保護者や広く社会に対してしっかりと説明する」と強調する談話を出した。
これからの学校教育は、家庭や地域社会との連携を強化することがますます重要になってくるだけに、十分な説明は当然だ。だが、告示段階で唐突に愛国心教育を強めるような密室、独断的な手法を取っていては決して理解は広がるまい。
二〇〇六年に改定された原発の耐震指針に基づいて安全性の再評価を進めていた中国、四国など三電力会社が、経済産業省原子力安全・保安院に検討結果を提出した。いずれも設計時に想定した最大地震による揺れの強さ(基準地震動)を引き上げる内容となっていた。
耐震指針は原発の設計基準となるもので一九七八年に策定された。その後、阪神大震災などを受けて二十八年ぶりの本格的改定となった。新指針は調査対象となる活断層を従来の「五万年前以降に活動」から「十三万―十二万年前以降」に拡大するなど基準を強化し、各電力会社が再評価に取り組んでいる。
中国電力は島根県の島根原発近くを走る宍道断層(鹿島断層)の長さを約十キロから約二十二キロと大幅に見直した。これに伴い想定される最大地震の規模をマグニチュード(M)7・1とし、基準地震動は最大四五六から六〇〇に引き上げた。
「主要機器の安全性には十分余裕がある」と中国電力はいうが、宍道断層の長さが二倍以上とは驚く。かねてから研究者らの指摘もあったのに、なぜ把握できなかったのか。地元などへの経緯の説明と安全確保のたゆまぬ取り組みが必要だろう。
〇七年版「原子力白書」は、地球温暖化防止対策としての原子力エネルギーの有効性をアピールした。一方で、昨年七月の新潟県中越沖地震による東京電力柏崎刈羽原発の被災などを挙げ、国民の信頼を得る努力を国や事業者に求めている。
今回の再評価で安心はできまい。電力会社や国など関係機関はチェック体制を強め、問題があれば迅速に対処するとともに透明性を高めることが欠かせない。安全と信頼を欠いた原子力エネルギーの環境面での有効性はあり得ない。
(2008年3月30日掲載)