◎企業市民宣言千社超 県外進出企業は積極参加を
金沢経済同友会が提唱した「企業市民宣言」に千百六十六社が賛同して会員組織が発足
したことは、「企業市民」活動をこの地に根付かせる大きな一歩と言える。
「企業市民」という言葉は決して目新しくはないが、その理念に誰もが賛成しながら、
いざ実践となると容易ではない。「まちづくり」への貢献という具体的な宣言を出し、その旗印の下に千社を超える企業が集まったことは、それ自体が一つの成果であり、大きな前進である。北陸新幹線開業へ向けた地域づくりの大きなうねりとするために、賛同の輪を広げ、県外からの進出企業の積極的な参加を望みたい。
「企業市民宣言」は企業も地域を構成する重要な一員として、経済合理性だけを追い求
めるのではなく、「まちづくり」に貢献するとの方針を掲げる。▽地域を学ぼう▽地域について語り合おう▽地域の活動に参加しよう―の三指針が示されている。それに賛同した企業で発足したのが「企業市民宣言の会」である。
利益を追求することは企業の基本的な性格である。だが、もうからないことはやらない
、やるべきでないと経済合理性だけを求めていけば社会の常識は見えにくくなる。決算粉飾や賞味期限改ざん、製品事故隠しなど相次ぐ企業不祥事がそのことを物語っている。「企業市民」意識は地域や社会の常識をわきまえ、経済合理性追求の落とし穴に陥らないための座標軸でもあろう。
県外からの進出企業の中には本社ばかりに目を向け、「地元意識」が希薄な傾向もみえ
る。納税や雇用、サービスや商品を通じて社会貢献しているとの意識もあろうが、そうした本業を通じた貢献は特別なことでなく、むしろ当然である。支店や工場を単に末端の生産拠点、利益追求の場と割り切っているようでは地域の一員とは言えまい。新幹線開業へ向け、小売業やホテルなど県外資本の進出が相次いでいるが、地域が繁栄することを真剣に考える企業こそ住民が評価し、大事にすることを認識してほしい。
「企業市民宣言の会」の具体的な活動例としては、金沢城辰巳櫓の復元で基金が設置さ
れれば、それに協力する案が出ている。「企業市民」活動の広がりは、この地域を変える大きな力となる期待感を抱かせる。
◎現代美術展 真剣勝負の気迫感じたい
きょうから金沢21世紀美術館で開かれる現代美術展の応募数が、昨年に引き続き過去
最多を更新した。これは、主催する財団法人石川県美術文化協会に、会員に準ずる「会友」のポストが新設されたことも刺激になったと言え、現美が中央展への登竜門などではなく、石川の地で美術作家としての評価を確立する真剣勝負の場であることをあらためて証明するものであろう。石川の美の担い手たちは、芸術の力で地域に貢献する「文化市民」の意識をもって、現美の舞台で研さんを積んでもらいたい。
美術界は、政治の世界以上に中央集権的な傾向が強いと言われるが、近年、県内では芸
術の地方分権とも言える改革が見られるようになってきた。書道家でつくる県書美術振興会の「石川の書展」は、それまで会員による作品展で、中央追随の感が強かったが、二年前に一般の部を設けて公募制とし、賞制度を導入した。これが書道家の制作意欲を刺激し、出品数が飛躍的に増えたのである。こうした改革も、現美という地方分権の先駆的な総合美術展の存在を抜きにしては語れまい。
その「本家」に導入された会友は、現代美術展の一般の部で入選十回もしくは最高賞を
受賞した作家が対象となり、これまでに三百十人が決まった。一般出品から会友、そして会員へと駆け上がるステップアップの階段があることが、制作への緊張と作家同士の競い合いを促し、良質な作品制作につながる。
今回、最高賞をめざす一般の部の出品作の中に、とりわけ力の込もった作品が目立った
のも“会友効果”と言えるのではないか。
もちろん日本芸術院会員と人間国宝が就く名誉顧問を筆頭に、作品の質、量ともに「地
方」の域をはるかに超え、重鎮と若手が会派の別なく作品を並べられる稀有の展覧会であるとの評価は、今や全国に定着している。鑑賞者も「中央展なにするものぞ」の気迫を感じ取ってほしい。
北陸新幹線の開業を控え、現美を美術ファン必見の展覧会として、県内のみならず近隣
県や首都圏からも、それこそ「逆ストロー」で来場を促す価値ある舞台に高めていかねばならない。これも美術王国の文化市民の役割であろう。