日本が報道される世界のトップニュースを、日本人は自ら見ることができない日銀総裁人事をはじめ、すべての重要問題を先送りにする日本は海外から「JAPAiN」(痛々しい日本)といわれて孤立している。


捕鯨の妨害船に乗船していた日本人女性は英雄扱い

「あなたは日本人ですか?」
「そうです」
「それじゃ、あなたを調査するために殺します」「バーン、バーン」

 指をピストルの形にしたインタビュアーは、そう言って、日本人観光客に銃を撃つ格好をした。日本人観光客は困ったような顔をして、笑いながら去っていく。

 ここは、オーストラリアの国際空港。豪州の大手テレビ局によって、日本人観光客を狙った、こんな突撃取材が行われている。

「調査捕鯨」――。反捕鯨大国、オーストラリアでは、連日、このニュースでいっぱいだ。つい先日も、日本の捕鯨調査船が港を出港したというニュ-スが、トップニュースとして放送されたばかり。シーシェパードの一員が、日本の捕鯨調査船を妨害したということで、大きく報道されている。その上その妨害船には、日本人女性も乗船していたということで、英雄扱いされているという。

 調査捕鯨とは、調査のために鯨を殺して生態系などをいろいろな事柄を調べること。国際的にも認められたことなのだが、反捕鯨派からするとそんな野蛮な行為は許されないと、「 人間=日本人 」を例えとして冒頭のシーンにたどり着くわけだ。

 一方日本国内では、こんな批判的なシーンはまったく報道されず、画面に映るのはシーシェパードの妨害行為ばかり。

 ある評論家は、「 日本はなめられているので、こんな妨害行為がくり返されるのだ。もっと強硬手段に訴えてもよいのではないか」 という。

調査捕鯨で本当に得をする人たち

 現在捕鯨を行っている国は、世界で日本とアイスランドだけ。そんなマイナーな行為が、はたして世界的な理解を得られるのか。国内でも、一般的な日本人が鯨を必要とするのは、居酒屋で「鯨ベーコン」を注文するときくらいか。それも、ひとりせいぜい一年に数回だろう。

 鯨肉が、学校給食で貴重なタンパク源として供給されていた数十年前とは違って、現在では身近に感じる人もほとんどいなくなっている。全世界的には、環境保護の視点から捕鯨禁止が叫ばれており、日本をはじめとする捕鯨国は少数派だといってよい。

 もはや捕鯨で得するのは、国内の一部の関係者だけといってよいだろう。日本の調査捕鯨を続けるために、シーシェパードなどの妨害行為を、大々的に報道するのは国益にかなっているどころか、世界中のジャパンバッシングを煽っているとしか考えられない。

 このように、いま日本人の知らないところで、ジャパンバッシングが盛んに行われている。実はこんな行為が、経済的にも“日本売り”につながっていくのだ。

報道されない「JAPAiN」(痛々しい日本)

 以前私は過去のような記事で語られない日本の実態について述べてきた。

絶望的“富のかすめ取り”社会の到来
現代における「天国」と「地獄」 到来した格差社会
貧困スパイラルと下流食いビジネス
サブプライムローンは米国流「下流食いビジネス」だった

 今回は格差問題ではないが、深刻な日本の問題であることには間違いない。海外から見た日本はどうなのか? ここにもう1つ日本に関する海外メディアの報道がある。

 最近英国の権威ある経済誌『エコノミスト』が日本特集を行った。タイトルは、「JAPAiN 」

 JAPAiN――痛々しい日本、とでも訳そうか。つまり「JAPAN」+「Pain」(苦痛)で、「JAPAiN」となり、経済の低迷に苦しむ日本の現状を揶揄している。日本の失われた十年の亡霊が、またよみがえってきたという。90年代々のバブル崩壊で膨大な不良債権を抱えて苦悶してから、再び着実な成長路線に行き着くまで、12年も要したが、まさにいまその悪夢がよみがえろうとしているのだ。(※写真はイメージ)

 それは、世界第二の経済大国にありながら、政治経済にかかわる諸問題を先送りにしてきたからだ。その結果、経済効率は低下して、生産性の低さは顕著で、新規の投資リターンは米国の半分程度に落ち込んでいる。

 国の根幹を支える高級官僚のトラブルが続出して、国民の信頼を失い、国家的な機能マヒに陥っている。その証拠に、日本経済の根本を総括する日銀総裁の人事も混乱している。

 この混乱ぶりを、各国メディアはこぞって取り上げている。
「政治による日銀の虐待」(仏・ルモンド紙)
「嵐の中のトップ不在」(独・南ドイツ新聞)

 さらに、
「外国人投資家の間に厳しい悲観主義が現れている」(米・ニューヨークタイムズ)
「『福田丸』は暗礁に乗り上げている」(中国・外交専門誌「世界知識」)

など。日本バッシングどころか、終戦(あきらめ)ムードさえ漂っているのだ。このような責任のすべては、政治家が負っているといってよいだろう。

「世界中の投資家や政治指導者は、いまの日本をひと目見ただけで、あの国の政治家は何も決められないのだと、歩くときにどちらの足を出すのかさえ決められないのだと考えるに違いない」

 こういったのは、自民党・大島理森国会対策委員長だが、この言葉は今の政治家では、この難局を乗り越えていくのは無理だと自らが白状したものだろう。

「失望させることにかけては超一流」の国の責任は?

 実際07年9月に、福田康夫首相が就任して以来、株価が下がり続けている。その背景には、政府の意志決定に、旧世代の大物政治家たちが再び影響力を持ち始めたことだ。いまや陰の首班指名役といわれる森喜朗元総理や中曽根康弘氏などが復活することで、構造改革や経済改革にブレーキがかかり、日本経済停滞の原因になっている。

 一方、政権交替を狙うはずの民主党も、ワンマン体制の小沢一郎氏のもとでほころびが見え隠れする。小沢代表の独断で専行した大連立構想は党内の反対で潰され、日銀総裁の承認決議でも、党の方針に逆らって棄権者が出るなど一枚岩ではない。自民党に変わる政権担当能力は未知数で、やってみなければわからないでは、国民はたまったものではない。

 しかし、このような日本の体たらくの原因は、単に政治家だけにあるのではない。その責任の一端は、日本の有権者にもあるのだ。

エコノミスト誌は十年前、
「失望させることにかけては超一流」 と日本を揶揄した。そのとき、ある日本の議員がこう反論したという。
「失望しないことにかけては超一流の日本の有権者」と。

 これが、日本の内外を取り巻く現状なのだ。エコノミスト誌の日本特集は、日経新聞以外ほとんどの新聞やテレビなど、多くのマスメディアが無視した。この姿勢こそ、いまの日本を象徴する「事なかれ主義」、「責任放棄主義」、「自分第一主義」の一端かもしれない。

隠されている、心の底から病んでいる日本

 自国の現実、真の姿を見たくない、見るのが恐いというのも、日本人の特性だ。日本は自殺者が多いことでよく知られている。WHO(世界保険機構)の調査によると、日本では毎年10万人に男性36人と女性14人が自殺するという。この数字は、オーストラリアの約2倍(男性21日、女性5人)、英国の約3倍(男性11人、女性3人)である。

 ちなみに、日本より自殺率が高い国は、旧ソ連やスリランカなど国内に大きな問題を抱えた国だけである。一方、自殺とつながりが深いとされる精神病の発生率は、100人に3人ほどで、精神医療の発達した西欧諸国(例えば、オーストラリアは100人に6人以上)と比べて低くなっている。

 なぜこのような乖離現象が起こるのだろうか。
 そもそも日本では、精神病を医学的に病気だと認めないことが多かった。いったん精神病と診断されると、職場や自宅で周囲の態度が一変したり、あらぬ差別を受けたりして、不幸な状況に陥るからだ。したがって、完全な精神病の鬱状態であっても、すこし心が乱れているだけだとして、内々に処理しようとしてきた。ある精神科医は、
「もし、精神的な悩みを抱えていることを口にすれば、その人自身はもとより、その人の家族や会社まで、大きな恥とみなされることになる。だから、表に出てこない潜在患者はとても多い」
と証言している。日本では、個人よりも家族や社会集団が優先されるからだ。

世界一の薬消費大国は、精神治療の後進国だった

 そんな状況と裏腹に、精神病に関するテーマの本が多く出版されて、よく売れているという。また、抗鬱剤はここ数年で、3倍以上の売れ行きを示している。

 しかし現在の日本で、精神疾患の治療薬の承認を受けることは極めて難しいという。精神病の治療薬として有名な「プロザック」は、まだ日本では使用できないことになっている。製造元の米国の製薬会社が、日本を有望な市場と考えていなかったからだ。

 例えば、もっともポピュラーな精神病といわれる鬱病は、1990年代まで、本当の病気とされていなかった。その証拠に、鬱病の治療薬として世界でもっとも使用されている、ファイザー製薬の「ゾロフト」という抗鬱剤は、最近やっと承認されたばかりである。ちなみに、オーストラリアでは、すでに10年前には認可が下りているのだ。

 日本は、米国の2倍、毎年約8兆円以上を薬に費やす、世界一の薬消費国でありながら、精神病治療については後進国といえるのだ。

 日本では、精神病が病気として認められにくいのと並行して、市場の閉鎖性が指摘されている。新薬の認可はなかなか下りない。新薬の承認には、新薬の安全性とともに、既存薬との優位性を示さなくてはならないなど、極めて高いハードルがあるからだ。

 一方で医者にかかれば、胃腸薬からビタミン剤まで、少なくとも3~4種類、あらゆる薬を調合してくれる。そのうち、本当に必要な治療薬はただ1つだけ。まさに「薬漬け社会」といってよい、こんなふざけた状況が、防衛予算や米に費やす予算の2倍近くにもなるという。

 こんな無駄の多い「薬漬け社会」を、日本のマスメディアはいっこうに報道しようとしない。それは、製薬業界がテレビや新聞などマスメディアの大きなスポンサーであるからだ。だれも、「無駄な薬を調剤したり、使用したりするのをやめよう」とはいわない。

 ここにも、「建て前の主義」、「ご都合主義」の日本が垣間見える。

世界の投資家たちよ、「それでも日本を買いますか?」

 はたして、こんな日本は投資に値する国だろうか? 実は低迷する株価と裏腹に、世界有数の利回りを誇るものがある。それは「不動産」である。

 日本一の繁華街、東京・銀座では、ここ数年、外資系や独立系のファンドが優良物件を買いあさっている。

・ティファニー銀座本店 
→ 米ゴールドマンサックスが380億円で取得

・松屋銀座本店
→ SFPバリュー・リアライゼーション・マスターファンドが株式の12・5%を保有

・サッポロ銀座ビル 
→ 所有者のサッポロホールディングスの筆頭株主、米スティールパートナーズが、有効活用を要求。同じく割安株投資で有名な米サード・アベニュー・マネージメントもサッポロ株を保有

など、多くの投資家たちが「東京の高級商業地は世界と比較して、まだまだ割安」といって、虎視眈々と狙っているのだ。

 世界有数の不動産投資会社、モルガン・スタンレー・キャピタル社長のフレッド・シュミット氏によると、「日本買い 」の投資先に次の4つを考えているという。

1. 企業が持つ不動産の買い取り
2. 自社独自の不動産開発
3. ハイリスク・ハイリターンの不動産向け投資
4. REIT(不動産投資信託)や不動産を有する上場企業への投資

 この4つを柱として同社は、今後2兆円以上の投資を予定している。実際に、本年2月に、東京・天王洲のシティバンク銀行本店ビルを480億円で取得している。また3月13日には、東京・内幸町の新生銀行本店ビルを1180億円で買収すると発表している。

たちまち暗黒の大不況に戻りかねない

 ゼネラル・エレクトリック系の不動産投資会社、GEリアルエステートも、日本における不動産事業を3倍に拡大すると発表している。07年末には、東京・南麻布の高級マンション「Qiz広尾」を100億円で買収するなど、積極的な投資活動を続けている。

 こんな状況を見て、「株は不安だが、まだまだ日本は捨てたものじゃない」と安心していてよいのだろうか。投資対象のバリュー(割安感)感がそのまま長期間継続されれば、ファンドは不動産から退去して、たちまち暗黒の大不況に戻りかねないのだ。

 国内経済も、構造改革による一時の起業ブームが一段落して、オフィス需要も減り、少子高齢化社会で新規の住宅需要も見込めない中で、1人勝ちするのは大企業だけで、中小企業は先行きに大きな不安を抱えている。

 また、サブプライムローン問題で、ゴールドマンサックスやモルガン・スタンレーなど米国の大手証券会社も、前年度の同期に比べて利益が大幅に減っている。リスクの高い「レベル3」と呼ばれる資産を多く抱えることによって、先行きがますます見えなくなることは避けられない。

 こんな状況では、世界の投資家たちがこぞって、日本売りから日本買いに転換するとは考えられない。日本経済の先行きに不安を感じる投資家やファンドが、長期的に不動産を運用するはずがない。おそらく、ある程度の利回りが確定すれば売却することは十分に予想できる。

 いま 「それでも日本を買いますか?」 と問われて、「もちろん 」といえる投資家は、世界中にどれくらいいるだろうか。マルコポーロが夢見た黄金の国 「ジパング」 は、あらゆる分野で停滞する“灰色の国”になってしまったようだ。

【参考文献】
日本経済新聞
日経ヴェリタス
「プリンセス・マサコ」(ベン・ヒルズ著)

次の記事



関連記事
東芝のHD-DVD撤退は本当に正しかったのか  [2008年03月29日]
日本人が知らない「日本売り」や「ジャパンバッシング」  連日、豪州のテレビを賑わすトップニュースとは [2008年03月28日]
ついに起こってしまった史上初の日米逆転 [2008年03月23日]
なぜ、騙された被害者は泣き寝入りするのか [2008年03月22日]
あの有名ホテル従業員の年収を大公開 年収とホテルのランクとサービスの良さは比例するか [2008年03月17日]
あの有名ホテル従業員の年収を大公開 「年収とホテルのランクとサービスの良さは比例するか」 [2008年03月17日]
原料高の影響による倒産、過去最多に 帝国データバンク調べ [2008年03月13日]
日本は「中国食中毒」にかかりつつあるのか? [2008年03月12日]



FX・外為 もっと見る

経済・社会 もっと見る

マンガ もっと見る