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社説天声人語

天声人語

2008年03月28日(金曜日)付

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 熱いご飯に卵をのせ、しょうゆをたらす。簡単でうまい「卵かけご飯」だが米国に在勤中は食べなかった。生卵は危ないと聞いたからだ。帰任後、国産の卵を割って、味わったものだ▼おいしい日本の卵だが、実は、自給率は1割しかない。国内の鶏は飼料の9割を輸入に頼っている。輸入のエサを食べたら、産んだ卵も「自給外」と色分けされる。赤い鳥、小鳥、なぜなぜ赤い、赤い実を食べた……。童謡さながらに、卵は「輸入色」に染まってしまう▼同じ理屈で牛肉は11%、豚肉5%と、カロリーベースの自給率は驚くほど低い。農水省の試算によれば、飼料の輸入が止まると、卵は7日に1個しか食べられないという。あまりの海外依存に、首筋は寒くなる▼「卵かけご飯」で卵を受ける米には、減反の嵐が吹く。米は余るばかりだ。去年は価格が暴落した。東北農政局は、作りすぎを「資源のムダづかい」と書いたポスターを作った。あまりの言い様だと、農家の怒りが渦をまいた▼米を作る側と、食べる側の違いを、明治生まれの仏教思想家、鈴木大拙は〈食べる人は抽象的になり易(やす)く、作る人はいつも具体の事実に即して生きる〉と言った。米に限るまい。野菜も肉も、そしてギョーザも、食べる側は、生産の現場からは遠くなりがちだ▼ご飯と卵にも、さまざまな具体の事実がある。米は今、種もみを浸す時期だ。鶏なら、春びなが売られるころか。生産と流通の終着駅に鎮座して、「食べる人」を決め込んでいればよかった時代では、もはやない。

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