ハラレ市内のレストランで2人分の食事の勘定9億5800万ジンバブエドルを数える市民。1000万ジンバブエドル札が山のように積まれていく=高尾具成撮影
飲料水の値札にもたくさんのゼロが並ぶ=高尾具成撮影
現在、ガソリン入手に不可欠となっているクーポン券=高尾具成撮影
【ハラレ高尾具成】29日に大統領選が投開票されるアフリカ南部・ジンバブエの首都ハラレに28日入った。年率10万%とされるインフレで、卵1個が500万ジンバブエドルなどと、必需品にも異常な価格がついており、日常の買い物に札束が乱れ飛ぶ状況になっている。市民には不満が渦巻くが、独裁体制を敷くロバート・ムガベ大統領(84)を恐れ、選挙には口をつぐんでいる。重苦しい雰囲気が街を包んでいる。
「もう慣れてしまったよ」。食料雑貨屋の店頭で女性店員は、見事に札束の山を勘定してゆく。食パン一斤が1500万ジンバブエドルなど、日用品の価格に0の列が並ぶ。1米ドル=4000万ジンバブエドル。街を行き交う人は輪ゴムで止めた1000万ジンバブエドル札の札束を無造作に握り締めて歩く。
市内の車はまばらだ。ガソリンは1月に1リットル1億8000万ジンバブエドルだったのが、6億ジンバブエドルに上がったからだ。
「生活が苦しい。何とかしてほしい」と男性運転手は声をひそめる。02年に外交官などに配られたガソリン・クーポン券がヤミ市場で高値で取引され、それがないとガソリン入手もままならない。
白人農家に対する強制土地収用に端を発する農業の崩壊、英国による経済制裁、金融政策の失敗などにより起こったインフレで、生活苦は明白だが、市民は大統領選に触れようとしない。ムガベ政権がメディアを規制し、警察力を強化するなど独裁体制を強めているからだ。市内の男性(32)は「経済危機を救う候補はだれかって? 選挙前の微妙な時期にそれは言えないよ」と投げやりに答えた。日に6時間はあるという停電も「今は大統領選前だから調子がいい」と市民は話すだけだ。