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スタート間近の後期高齢者医療制度−低い診療報酬で医療崩壊が加速?

大竹進2008/03/29
複数の中から一つを選ぶ後期高齢者医療制度の「主病ルール」。他の病気で病院を紹介されても200床未満の公的病院では特定疾患療養管理料が算定不可となり大幅減収だ。現場知らずの言葉あそびではないか。
日本 医療 NA_テーマ2

目次
1ページ
新設された後期高齢者の診療報酬 「後期高齢者診療料」
・ナンセンスな「主病ルール」
2ページ
本当に医療費削減は歓迎すべきことなのか?
・医療費総枠の拡大が必要
・高齢者が「あずましく」暮らせるように


 いよいよ4月から後期高齢者医療制度がスタートするが、本制度では後期高齢者の診療報酬は極端に低く設定された。そのため、経済的には患者側にとっていいことばかりだが、病院側には犠牲が大きい。こうしたシステムでは、短期的には成り立つとしても、長期的には経営が立ちゆかなくなり、医療の質も確保できず「粗診粗療」となり、患者にとってもいいことはない。

 3月5日に「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」1)が出され、これを見た医療関係者の間に激震が走った。それは、中央社会保険医療協議会でも全く話題にならなかった「自院、他院を問わず」という一文が追加され、後期高齢者の医療内容を大きく変えることになったためだ。厚労省は再三再四、後期高齢者の医療内容が制限されることはないと説明していたが、これでは医療現場の混乱は避けられないと、不安が広がっている。

新設された後期高齢者の診療報酬 「後期高齢者診療料」
 診療報酬は初・再診料の他に、診療行為に応じて検査・画像診断・リハビリ・処置料などがそれぞれ算定される。また多くの高齢者は複数の病気をあわせ持つため、複数の診療科を受診し、飲んでいる薬の種類や数も多い。さらに認知症ではコミュニケーションにも時間がかかり、時には家族と連絡をとって来院してもらうこともよくある。このような「療養上の管理を行うことを評価」した診療報酬として「特定疾患療養管理料」(注1)が設けられている。

スタート間近の後期高齢者医療制度−低い診療報酬で医療崩壊が加速? | 図1.後期高齢者診療料の包括範囲(「後期高齢者の外来医療について〔参考資料〕」:厚生労働省より)。
図1.後期高齢者診療料の包括範囲(「後期高齢者の外来医療について〔参考資料〕」:厚生労働省より)。
 今回は75才以上の後期高齢者だけを対象にした診療報酬として「後期高齢者診療料」(注2)という項目が新設された。「後期高齢者診療料」には検査・画像診断・処置料をはじめ「特定疾患療養管理料」も含まれ(図1)、包括料金として1ヶ月6,000円と決められた。

 06年社会医療診療行為別調査2)によれば、包括項目の医療費合計は7,716円(△27%)であり、肺炎など急性疾患や糖尿病の服薬管理の患者は、検査・レントゲンなど平均水準以上の医療費が必要で、6,000円は極めて低い水準にある。

ナンセンスな「主病ルール」
 さらに「後期高齢者診療料」は「主病の診療を行っている保険医療機関」が算定することになった。聞き慣れない「主病」とは、「当該患者の全身的な医学管理の中心となっている慢性疾患」と定義されている。高齢者では一人で高脂血症・高血圧・糖尿病などのほかに、骨粗鬆症や変形性膝関節症などを合併することはよくあることだ。しかし、「後期高齢者診療料」には、複数疾患の中から一つだけの主病名に限って算定するという「主病ルール」(注3)が導入された。だが高齢者の特性を無視して、複数の病名の中から「主病」を一つ決めるなどということは、ナンセンスきわまりないものだ。

 「主病ルール」で、一人の患者さんは、一人の主治医のもとで、一つの「主病の診療」を1ヶ月間にわたり受けることになった。そして、患者さんと「契約」を交わした医療機関が「登録医」となり、「登録医」以外で治療する時は安い診療報酬しか支払わないという仕組みを作り上げた。この影響をもろに受けるのが「登録医になれなかった診療所」と「200床未満の病院」だ。

 今までは診療所と200床未満の病院では、それぞれ「特定疾患療養管理料」を算定することができた。しかし、「自院、他院を問わず」同一月に算定できないことになり、高齢者の特性を無視した「主病ルール」を強調することで、4月以降は「登録医」となった診療所以外の医療機関では、「特定疾患療養管理料」の算定ができなくなった。そのため特に200床未満の病院では、大幅減収となることが予想されている。

(次ページ「本当に医療費削減は歓迎すべきことなのか?」に続く)

参考
1)診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について
2)平成18年社会医療診療行為別調査結果の概況
3)外来管理加算に関する緊急アンケート調査結果
4)高齢社会における医療報酬体系のあり方に関する研究会報告書(国民健康保険中央会)

注1.特定疾患療養管理料とは?
・特定疾患療養管理料は、生活習慣病等の厚生労働大臣が別に定める疾患を主病とする患者について、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師が計画的に療養上の管理を行うことを評価したものであり、許可病床数が200床以上の病院においては算定できない。
・同一保険医療機関において、2以上の診療科にわたり受診している場合においては、主病と認められる特定疾患の治療に当たっている診療科においてのみ算定する。
・主病とは、当該患者の全身的な医学管理の中心となっている特定疾患をいうものであり、対診又は依頼により検査のみを行っている保険医療機関にあっては算定できない。

注2.後期高齢者診療料とは
・後期高齢者診療料は、慢性疾患を有する後期高齢者に対し、継続的な診療を提供し計画的な医学管理の下に、患者の心身の特性にふさわしい外来医療の提供を行う取組を評価するものであり、診療所及び当該病院を中心に半径4km以内に診療所が存在しない病院において算定できることとする。
・2以上の診療科にわたり受診している場合においては、主病と認められる慢性疾患の治療に当たっている診療科においてのみ算定する。
・ 主病とは、当該患者の全身的な医学管理の中心となっている慢性疾患をいうものである。
・後期高齢者診療料の算定に当たっては、算定の基礎となる指導及び診療が行われた時点で75歳以上の患者であること。

注3.「主病ルール」とは?
厚労省技官会議の概要報告
http://hodanren.doc-net.or.jp/iryoukankei/tyuuikyou/08kaitei/gikan-ika.pdf
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Q:主病は1つに限定されるのか。
A:1つに限定される。

Q:後期高齢者診療料について、A 医療機関で後期高齢者診療料の算定をし、B医療機関について「特定疾患療養管理料」の算定は可能か。
A:主病の医療機関のみ。
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