指導力不足が指摘される福田康夫首相が、大勝負に打って出たといえる。ガソリン価格に上乗せされている揮発油税などの道路特定財源を、二〇〇九年度から全額一般財源化することを柱にした新提案の件である。
揮発油税などの暫定税率の期限切れが今月末に迫る中、福祉など別の施策にも使える一般財源化を求める民主党に譲歩する形になった。道路特定財源に関する税制改正法案を、年度内に成立させるための執念をみせたとされる。
ただ民主党が主張する暫定税率の即時廃止は認めなかった。民主党が新提案を受け入れる可能性は低く、与党が懸念する四月からのガソリン値下げの回避は難しそうだ。
首相は民主党と合意できなくても、新提案は実行すると明言した。四月末にも税制改正法案を衆院で再議決して成立させる方針だ。そうなると四月からガソリン価格は一リットル当たり約二十五円下がるが、月末には再び元に戻る。国民生活の混乱は必至だろう。
道路特定財源は既に余剰が生じ、政府は〇七年度で約千八百億円を一般財源化した。道路関係公益法人などへの不透明な支出や娯楽用品購入といった無駄遣いも明らかになっている。
真に道路整備に使われない分がある以上、まずは暫定税率の廃止か税率引き下げが筋だろう。首相が暫定税率維持に固執するのは、厳しい財政難の折、安定財源を確保し続けるためと批判されても仕方あるまい。
一般財源化について、民主党は本来より約二倍高く設定している暫定税率を廃止したうえで、本体部分の一般財源化を提案している。しかし、税は自動車ユーザーが負担し、道路整備で恩恵を受けるとして使途を限定した目的税にしているのに、一般財源化すれば負担と受益の関係が崩れる。
民主党は地方の判断で自由に使えるようにするという。地方分権の必要性が叫ばれる中、聞き心地の良い主張に思えるが、負担するユーザーの理解が得られるだろうか。まして暫定税率を維持したまま、全額一般財源化する首相の新提案は乱暴すぎる。
目的税の使途変更がまかり通るなら、政治不信につながろう。消費税率の引き上げ問題で福祉目的化などが議論されているが、いつか他の使途にすり替えられるという疑念が生じる。
今回の一般財源化の是非は、政治の根幹を揺るがしかねない重大な要素をはらんでいる。そのことを国会はあらためて認識すべきである。
防衛秘密にあたる情報を新聞記者に漏らしたとして、自衛隊の捜査機関である陸上自衛隊警務隊が防衛省情報本部の課長だった一等空佐を自衛隊法違反(防衛秘密漏えい)の疑いで東京地検に書類送検した。
二〇〇一年の同法改正で新設された防衛秘密漏えい罪で自衛官が立件されるのは初めてだ。取材源への刑事責任追及は極めて異例で、「知る権利」「報道の自由」の制約に直結する危険性をはらんでいるといえよう。
問題となったのは、読売新聞が〇五年五月に報じた記事だ。中国海軍の潜水艦が南シナ海で火災とみられる事故を起こし、航行不能になったことを「日米両国の防衛筋が確認した」として伝え、潜水艦の艦番号などにも触れた。
防衛省は秘密漏えいの疑いがあるとして警務隊に告発し、一佐の自宅などが家宅捜索された。記者への事情聴取はされず、情報提供をそそのかす漏えい教唆罪の立件は見送られた。
そもそも、漏らしたとされる今回の情報が「知る権利」を制限してまで秘密にするほどの内容だったのか疑問が残る。近海を航行する船舶の安全を考えれば、本来は防衛省が速やかに国民に公表すべき情報だろう。
日米間で軍事情報の共有化が進む中、米側から求められている情報保全強化が背景にあるとみられる。相次ぐ不祥事で隠ぺい体質も指摘される防衛省・自衛隊で、内部告発や取材活動を委縮させる効果を狙ったとも勘ぐれる。情報公開の壁となる恐れがあろう。
政府は先月、秘密保全のための新法制定を目指す強化策を決定した。情報管理強化が進み、秘密主義は膨らむ一方だ。防衛省・自衛隊の信頼を回復させるには、積極的な情報開示が欠かせない。
(2008年3月29日掲載)