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2008年3月29日

◎北陸の景気 企業の景況感急落に警戒

 日銀金沢支店が北陸の景気判断を下方修正したのに続いて、北陸財務局も「緩やかに増 加」から「おおむね横ばい」に下方修正した。北陸の景気が「足踏み」状態と判断されたのは実に四年七カ月ぶりであり、企業経営者や消費者の心理が急速に冷え込んできた状況がうかがえる。北陸経済は景気後退局面を迎えているのではないか。特に原油などの原材料の高騰で企業収益が減益見込みとなり、企業の景況感が大幅に悪化している点には警戒が必要だ。

 北陸ではこれまで、主力の電気機械や一般機械など、輸出関連企業が好調で、景気を力 強くけん引してきた。生産活動の好調さを背景に設備投資も高い水準を維持し、北陸経済の大きな支えになっていた。

 ところが、このうち一般機械や電子部品・デバイスなどの生産が下方修正され、〇八年 度の設備投資は製造業、非製造業とも減少の見通しとなっていることが分かった。原材料費の高騰と、急速に進む円高が先行きに暗い影を落とし、このまま円高が続けば、業績のさらなる下方修正を覚悟しなければならない。

 北陸企業の景況感悪化は、求人動向からも明らかだ。新規求人が前年より減少し、有効 求人倍率も悪化の兆しが見える。生産の落ち込みが企業経営者の心理を冷やし、設備投資や雇用にまで影響を及ぼし始めた。採用の手控えムードがじわじわと広がっていくのか、一時的なブレで済むのかどうか、予断を許さぬ状況にある。

 底堅く推移してきた個人消費も、持ち直しの動きが鈍くなっている。デパートなどの大 型小売店、コンビニエンスストアの販売は前年並みながら、新車販売は全体では前年を下回っている。改正建築基準法施行の影響が薄れ、新設住宅着工戸数のマイナス幅が縮小したのは心強いが、ガソリン価格や小麦など一部食品価格の上昇が及ぼす心理的な影響から、この先、財布のヒモはますます固くなるのではないか。日銀総裁の空席、道路特定財源をめぐる迷走劇など、いわゆる政治不況の影響も見逃せない。

 外需頼みの「片肺飛行」の経済構造は、海外要因に大きく左右され、振幅も大きい。北 陸経済の泣きどころでもあるのだろう。

◎集団自決訴訟判決 真実分かったといえぬ

 正しいかどうかは別として一つの解釈が定着した上、出来事を目撃した生存者がほとん どいなくなった歴史の、しかも史実の細部となると、裁判という手段で明らかにするのは絶望的なことかもしれない。太平洋戦争末期の沖縄戦で座間味島と渡嘉敷島で起きた住民の集団自決をめぐる訴訟の大阪地裁判決はそのようなことを痛感させるものだった。

 この訴訟は、集団自決について当時の守備隊長の命令によって起きたと記述した沖縄の 戦後の出版物に依拠した、ノーベル賞作家・大江健三郎氏の「沖縄ノート」や、同書を出版した岩波書店によって名誉を棄損されたとして出版の差し止めなどを求めたものだった。

 原告は命令したことを強く否定し、むしろ自決するなといさめたと主張したが、判決は 「書籍に記載された通りの自決命令自体まで認定するのはためらいを禁じ得ない」としながらも「集団自決には軍が深くかかわったと認められ、隊長だった原告の関与が十分に推認できる」として原告の主張や請求を棄却した。

 集団自決について、三十数年前に現地で取材した作家の曽野綾子さんが原告の主張を裏 付ける話を月刊雑誌に連載し、書物にしたほか、沖縄出身のルポライターによって発表されている。それらによると、集団自決をだれが命じたのか、自決に使われた手りゅう弾がどうして住民の手に渡ったのかなどがはっきりしないことに加え、生き残った人たちが相談して次の二つの理由から軍のせいにすることにしたという内証の話があったそうだ。一つは島から出征した人が復員してくると、肉親を死なせた者はだれかとの追及が始まり、人間関係が崩壊するとの心配であり、もう一つは軍の命令にしてしまえば、多少なりとも援護法に基づくお金がもらえることだったという。

 裁判官はそうした細部についての検証より出来事の背景に軍がいたことの方を重視した ように思われる。出来事の渦中にいても真相の細部まで理解できるとはいえないし、この種の出来事では戦争中と戦後では解釈が大きく違ってくる。さらに人間の記憶が変化するということもあるが、細部の検証がどこまでなされたのかという疑問が残るのだ。


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