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松本徹三(Tetsuzo MaTsumoto)

前回は、主として、携帯通信に関する報道に使われる用語や数値の分かり難さについて書きましたが、今回はバックボーンネットワークの問題、特に昨今新聞紙上をにぎわしている「NGN」という言葉を中心に、私の理解を述べさせて頂きたいと思います。

 

NGN」という言葉はNext Generation Networkの略で、もともと国連の下部機構であるITUが使い出した言葉ですが、その意味が示すとおり、どちらかといえば普通名詞に近いニュアンスがあります。現在は、日本が一番盛り上がっているような感があり、「NGN」という言葉自体、NTTの新サービスの代名詞のようにもなっていますが、早期にNGN構想を考えたBritish Telecomは、自社のサービスには「21CN(21st Century Network)という名前をつけました。

 

NGN」という言葉は欧米ではそれ程使われておらず、特にアメリカの技術者は、この言葉を聞いても一瞬きょとんとした顔をして、それから「ああ、IMSの事ね」という人が多いようです。IMSIP Multimedia Sub-systemの略で、後述する3GPPが決めた技術仕様の名称です。(KDDIなどが活躍している3GPP2の方では、MMDという言葉が使われています。)

 

ITUが通信事業に関連する国際機関であるに対し、インターネットに関連する標準化機関はIETFと呼ばれており、ここでは、ITUの基本シグナリングプロトコル標準であるSS7などにあたるものとして、SIPSession Initiation Protocol)という標準が定められています。ところが、第三世代のモバイル通信の仕様開発を司っている3GPPが、IMSの中核として、とりわけQoS(通信品質)を保証したセッション制御のために、このSIPをそのまま使うことに決めた為、「旧来からの通信の世界」と「インターネットの世界」は、急速に合体に向かって動き出しました。更にITUは、これをNGNの制御にも活用することを決めました。

 

新聞報道によると、NTTも、「ひかり電話」などに必要な「品質保証を伴うセッション制御」のためにSIPを使うと発表していますから、これは3GPPIMS仕様を使うと言っているのとほぼ同じです。IMS3.9Gと呼ばれるLTEやドコモのSuper 3Gにおけるセッション制御技術の中核となるのは勿論、3G3.5Gにもすでに使われていますから、この意味で、NTTNGNは、ドコモやソフトバンクのモバイルネットワークのバックボーンとも親和性が強いということになります。

 

更に言うなら、固定通信であれ、移動通信であれ、インターネットであれ、世界の全ての事業者の全てのネットワークは、既に多かれ少なかれ、これまでの回線交換網、パケット交換網に代えて、「制御されたIP」を基本としたネットワーク、即ちNGNの方向へと歩み始めているのであり、NTTが、今、何かとてつもなく新しいものが生みだそうとしているわけではないということです。

 

あ、ここまで書いて、何故今回、私がこんな七面倒くさい標準の話をし始めたかを思い出しました。最近政治家の先生方も出席しておられた或る会合で、業界の或る人がNTTNGNを持ち上げて、NGNは、"Nippon""Great""Network"の三文字の略とも読み取れる。日本発のNGNが世界に飛躍していくことを祈念して乾杯」とか何とか言っておられたのを思い出したからです。私は、その時にもさすがに眉をひそめたくなる気持だったのですが、政治家の皆様や産業界が「NTTNGN」について誤った幻想をもたれない様に、あらためて祈っている次第です。間違っても、「国が後押ししてこれを『日本の統一標準』とし、世界に押し出していこう」などということには、なってはなりません。

 

NTTが、世界の動向と歩調をあわせて、且つ、いろいろな自社開発技術も取り入れて、強力なNGNを作り上げるようとしていることは、高く評価されるべきです。但し、NGNは別にNTTの専売特許であるわけではなく、タイミングの差はあっても、世界の通信事業者が当然のこととしてそれぞれに構築して行く「次世代のネットワーク」のことですから、この辺のところは勘違いがないようにしておく必要があります。

 

NTT流のNGNが本当に世界の規範となれるようなものであるかどうかは、それが可能とするサービスとそのコストが、世界のユーザーに受け入れられるものであるか否かにかかっています。特に気になるのはコストであり、従来から「NTTの作ったシステムは高くつきすぎて世界市場では売れない」という現実があることは、いつも心に留めておくべきと思います。

 

なお、せっかくの機会ですから、七面倒くさい標準の話をもう少し続けさせてください。携帯通信の世界標準のための仕様開発を進めている3GPPIPの世界とのつながりは、実は、相当以前まで遡ります。3GPPではRelease 99(通称R99)から始まって、次々に仕様を高度化していますが、現在ドコモやソフトバンクやイーアクセスの多くの携帯端末が準拠しているHSDPAという高速データ通信技術は、Release-5(以降Rel-5)で仕様化されたものです。ところが、回線交換網のIP化は、実は、既にその一つ前のRel-4で仕様化されているのです。

 

高度化は更に進んでおり、Rel-6では、無線関係で、上り線の高速化(HSUPA)や同報通信(MBMS)が、ネットワーク関連でI-WLANが、それぞれ仕様化されました。Rel-7では、無線関係でMIMOを搭載したHSPA+が、ネットワーク関連で、VCC(回線交換音声とSIPでサポートされたVoIP間のハンドオーバ)が、それぞれ仕様化されました。そして、Rel-8では、モジュレーションにOFDMを使ったLTE3.9G)が、いよいよ仕様化されようとしています。

 

LTEなどを収容するパケットコアネットワーク(SAE)のモビリティプロトコルは、欧州生まれの2G標準であるGPRSをベースに拡張したもの(かつてのアーキテクチャの戦いにおいてはArchitecture Aと呼ばれた)と、アメリカ生まれのIETF標準を概ねそのまま使うもの(同じくかつてはArchitecture Bと呼ばれた)が共存することになっています。前者はGSM事業者にとって好都合であるため、欧州の事業者やアメリカのAT&Tはこちらを使うでしょうし、後者はCDMA2000WiMAXとも親和性がよいので、GSMに関係のない事業者、ドコモやKDDI、米国のVerizon Wireless等が使うでしょう。(いずれにせよ、WiFiとの親和性は、前者であっても後者であっても、共に十分確保されていますから、この点では問題はありません。)

 

ソフトバンクはどうするか? うーん、コスト次第ですね。

 

 

私はこの業界に相当長くいるのでよいのですが、そうでない方には、昨今の無線通信技術や業界標準についての報道は、随分分かりにくいのではないかと思います。或る程度の紙数を使える雑誌類の場合はまだよいのですが、新聞の場合は、書かれる方も大変だと思います。限られた紙面で読者の注意を引こうと思えば、「何か凄いことが起っている」という印象を与えたくなるのは人情で、そうなると、どうしても誇張された表現にならざるを得ないと思うからです。

しかし、現実はそんなにエクサイティングなものではありません。先月、スペインのバルセロナで、世界の携帯通信の関係者が一堂に会する一大イベントがあったのですが、あるパネルで、BlackberryのCEOがこういうことを言っていました。「無線通信の世界はシャノンの法則に支配されており、ここではムーアの法則は働かない。」これはどういうことなのでしょうか?

電波というものは物理現象ですから、一定の制限がどうしても付き纏います。シャノンの法則は、「無線通信においては、周波数幅に対応した一定のビット送信能力しか得られない」ということを言っています。つまり、「技術が進めば、ビット送信能力はどんどん増えていく」というわけには行かないのです。一方、携帯通信で使える周波数は、せいぜい5GHz帯が上限で、しかも、この範囲内にある周波数の多くは、既に色々な通信や放送のサービス用に使われている為、残っているものがあまりありません。そして、この限られた「使える周波数」を、その地域にいる多くの人達が、「分け合って使う」しかないのです。

結果として、日夜進歩を重ねている無線通信技術ではありますが、実現できるデータスピードは、所詮は限られたものにしかなり得なません。ムーアの法則が働く、つまり「時間の経過と共に、能力が幾何学級数的に増大していく」CPUやMemoryの世界とは、相当違うのだということです。

一方では、無線通信に使われる要素技術は、現時点でほぼ見えてきています。これからは、全く新しい技術が生まれてくるというよりは、Modulation(TDMA CDMA OFDM等)、Scheduling、Diversity、Equalizing、Interference Cancellation、MIMO、Beam Forming、等々といった要素技術が、どのように成熟し、どのように統合されていくかが、最終的な勝者を決めることになります。従って、将来の見通しは、比較的容易になってきていると言えます。

にもかかわらず、多くの報道記事が一般の人に分かりにくいのは、多くの用語が交じり合って、その相互の関連性が分かりにくくなっているからだと思います。

例えば、3G(第三世代)とか4G(第4世代)といった言葉は、国によっても人によっても、定義が異なります。概ねは使われている技術の種類を意味しますが、時には使われる周波数を意味することもあります。日本では、KDDIが現在使っているCDMA 1xという技術は、ITUの定義通りに「3G」と理解されていますが、韓国や中国、その他のいくつかの国では、これは「2G」だということになっています。

現在のWCDMAや HSDPAの延長線上にあるLTE (ドコモは、この「先行バージョン」を「Super 3G」と呼んでいます)を、「4G」と呼ぶ人もいますが、現時点では、「4Gに限りなく近い3G」という意味で「3.9G」と呼ぶほうが一般的です。何故なら、「4G」と呼んでしまうと、「国際的に取り決められた4G用の周波数(例えば3.4-3.6GHz)でしか使えない」とされてしまう恐れも、なきにしもあらずだからです。

「4G」については、現時点では、周波数の議論だけが先行してなされていますが、これがどういう技術を念頭においているのか、どういう市場価値の実現を目標としているのかは、あまり聞こえてきません。私の持論は、「3Gとか 4Gとかいう呼び方はもうやめて、『市場の要請』と『それに対する技術的最適解』の2点のみに絞って、全てを議論するようにしてはどうか」ということなのですが、世界の通信事業者と監督官庁に一旦ついてしまった「癖」は、そう簡単には直らないのかもしれません。

技術のレベルについて話す時に、いつもピーク時のデータスピードだけが語られることも、私の懸念事項の一つです。一番重要なのは、「ユーザーが実感するスピード」と「コスト」なのですが、これを決めるのは、「一定周波数あたりのデータスループット」であり、ピーク時のデータスピードなどはあまり意味がないからです。ピーク時のデータスピードとは、「一つのセルの中で、ユーザーが極めて少人数である時に、たまたま基地局の近くにいるユーザーが享受できるスピード」のことですが、実際には、一つセル内で多くのユーザーが同じ周波数を同時に使っているので、このデータスピードは殆ど実現できないのです。

一方、「コスト」を決めるのは、先ずは「一つのセル内で一定時間内にどれだけのデータ量が処理できるのか(データスループット)」ということです。これによってビットあたりの伝送単価が決まるからです。また、このデータ量が高くなるということは、「同じセル内で同時にサービスを提供できるユーザーの数」が多くなることを意味します。サービスを受けたいと思うユーザーの数は多いのに、処理可能なデータ量がさして大きくないと、各ユーザーの実感スピードは低くなり、やがて不満が噴出してきますから、事業者は、使用する周波数や設備を増やさなければならなくなるのです。従って、この「データスループット」こそが、通信事業者が技術を選ぶ場合に、最も気にしなければならない数値なのです。

一つ卑近な例を挙げると、現在、ドコモやソフトバンク、イーアクセスなどが使っているHSDPAと呼ばれる3Gシステムには、ピークデータレートが3.6Mbpsのもの、7.2Mbpsのもの、14.4Mbpsのものがありますが、ピークデータレートが倍々で増えても、データスループットはせいぜい2割程度の比率でしか増えていきません。3.6Mbps用のチップと7.2Mbps用のチップでは、開発が完成する時期に若干の差はありましたが、値段は殆ど変わりませんから、今後のHSDPA端末は次第に7.2 Mbpsに対応したものが主流になっていくでしょう。しかし、14.4Mbpsに対応したチップは、少し高くつく可能性があるので、結局、多くの事業者から敬遠されることになるかもしれません。

もっとしばしば起こっていることは、「周波数幅が広くなれば、ピークデータレートもデータスループットも高くなって当たり前」という「当然のこと」が見落とされ、ピークデータレートが高い技術は、あたかもそれだけ進んだ技術だと誤解されるということです。例えば、30MHzの帯域幅を使うWiMAXのデータスループットは、5MHzの帯域幅を使う3Gの6倍のデータスループットが出て当然なのですが、その辺のことの分からない人は、データスピードの話だけを聞いて、「WiMAXというのは3Gをはるかに超える凄い技術だ」と思ってしまうのです。

以上、色々申し上げましたが、このように解説すると、どんな方でも、「あ、そういうことだったのか」と、簡単にご理解頂けることなのですが、一般の報道を見ていると、訳が分からなくなってしまうことが多いのは何故でしょうか? それは、新しい技術を売り込もうとする人達が、解説抜きで、「格好の良い数字」だけを誇らしげに語る傾向があるからです。また、それを採用しようと考えている通信事業者も、これに同調する傾向があるからです。

まあ、そんなことはどうでもよいと言えば、どうでもよいのですが、実は、回り回って、それは事業者に不要な負担をかけることにもなります。技術者の多くが、例え腹の中で、「そんなものに投資しても、それに見合うメリットは出ない」と考えていても、「しかし、マーケティングの観点から言うと、我社もやらざるを得ないじゃあないか」と言われると、結局は、そのまま進めてしまうことが多いようです。無駄なことをやれば、結局コストアップにつながり、ユーザーの為にもならないのに、「マーケティング」の観点、つまり「一般の人に『進んだ技術を導入した』と思って貰いたい」という観点から、ついついやってしまうのです。

分かりにくい報道や、誤解を生み易い報道について、ジャーナリストを非難するのは筋違いだと思います。よく分かっているメーカーや事業者の技術者自身が、淡々と、且つ分かり易く、事実を語っていくことこそが肝要だと思います。

WiMAXの免許に関する技術問題のやり取りからはじまった一連の流れが、このサイトに受け継がれ、既に相当量の新たなやり取りがありましたが、こればかりをやっていると他の議論が出来ないので、今日は新しく頂いたいくつかのコメントに対する回答をお出しし、これで一応終止符を打ちたいと思います。

或る程度は仕方のないことなのかもしれませんが、こういうやり取りをしていると、悪口雑言の類も数多く受けなければならず、これにカッとして一つ一つ答えていると、非建設的な応酬が際限もなく連鎖していきます。余程時間の有り余っている人ならともかく、私のような普通のビジネスマンの場合は、その時間はとてもありません。よく考えてみると、この場は国会でも株主総会でもないのですから、コメントの全てに答える必要もなく、或る程度は、私の判断で、意味のない議論はカットさせて頂いてよいのではないかと思っています。

勿論、このブログは、「真に日本の情報通信業界の将来を考える人達の間で、情報(特に隠された事実に関するもの)を共有し、疑惑を解明し、異なる意見がある場合はオープンに議論して、その論点を為政者やその他の関係者の判断の材料に供する」ことを目標としているのですから、幅広い方々からのコメントや質問が大歓迎であることに、何ら変わりはありません。但し、常に「ファクト」と「ロジック」を議論のベースとし、「議論の為の議論」や「揚げ足取り」の類は極力避け、「感情的な議論」や「悪口雑言」の類は自粛することを、基本的なルールとしてお願いできればと思います。

WiMAXやこれに関連する周波数問題について頂いたこれまでのご質問で、回答洩れになっているものもなお若干あると思われますので、何人かの方には申し訳ない仕儀になっているかもしれませんが、純粋に技術的な問題についてはいつでもお答えしますので、あらためてお問い合わせ下さい。私のほうからも、面白い情報があれば、また機会をあらためて、まとめてご報告します。Mddvzさんから頂いた携帯事業全般に関する重いご質問については、決して忘れたわけではなく、どこかの時点で誠意をもってお答えしようと考えておりますので、今しばしお時間を頂きたく存じます。

さて、下記が直近で頂いたコメントの一部についての回答です。

先ず、cnpunさんとhebi no shitaさんから、MVNOについてのご質問を頂きました。日本通信とドコモとのMVNOについての話し合いが条件面で行き詰まり、紛争処理委員会で最終決定がなされたことはよく承知していましたが、この対象にDoccicaというデュアルモード端末が含まれていたということについては、私は迂闊にも知りませんでした。

もともと、MVNOの問題とデュアルモード端末の問題は、異なった次元の問題なのですが、ソフトバンクの場合は、自ら3Gを運営しているので、他社の異なった技術のネットワークを使ってのMVNOということを問われると、ついデュアルモード端末のことを考えてしまいます。しかし、cnpunさんご指摘の通り、独立ISPさんの場合は、「単純にウィルコムの次世代PHSを使ってMVNOをやる」というケースも、当然あってよいわけです。(この点について、私が殆ど意識していなかったことについては、お詫びします。)尤も、今回は、多くのISPさんが「WiMAXをやりたい」と仰っておられたわけですから、もしMVNOをやる場合は、普通ならKDDIさんのネットワークをお使いになることになるのではないでしょうか?

次に、 hebi no shita さんからのいくつかのご質問にお答えします。

先ず、公開討論の場に孫さんが出たのは、「OpenWinの代表取締役」としてです。OpenWinには代表取締役が二人いますが、この時は、主要株主2社とOpenwinの経営陣が相談して、孫さんが代表になることを決めました。

孫さんが、その場では、「株主のソフトバンクとしては、2GHzではデュアル端末が作りにくいので、OpenWinには2.5GHzしかない」と敢えて言わなかったのは、その立場故でもありました。しかし、私はOpenWinの経営には関係なく、株主であるソフトバンクの技術担当ですから、ITメディアの取材に際して、この点を補足したのです。

次に、「今更言っても仕方のない過去のことを、『ああすればよかった、こうすればよかった』と何故議論するのか?」というご指摘ですが、それは私の当初の意図ではなく、質問に答えるためには、そのことに言及せざるを得なかったからに過ぎません。AIR EDGEさんの「事実誤認」を正すだけで議論が終わっていれば、そこまで議論する必要はありませんでした。

次に、私の会社ないしは私のアシスタントが、頂いたコメントをスクリーンしているのではないかというご疑念については、その事実はないことを確認させていただきます。「それにしては回答が質問に対して的外れだった」というご指摘については、「そういうことがあったとしたら、申し訳ありませんでした」と申し上げるしかありません。但し、私としては、極めて限られた時間で相当量のコメントに対応せねばならなかったこと、特に最初の頃は、インターネット接続の悪い欧州のホテルから対応せざるを得なかったことを、何卒ご理解いただき、ご寛恕の程をお願いいたします。

最後に「大同団結」問題ですが、下記の通り、ソフトバンクの言動には一貫して矛盾はありません。

1)大臣レベルでまで、「国産技術でがんばっているウィルコムを支援すべき」という考えがあり、且つ、2GHzの可能性が見えていなかった当初の時点では、「WiMAXの枠は結局1枠とならざるを得ないだろう」と判断、そうであれば、業界全体のためにも、自社のためにも、「大同団結」が一番良いと考え、そのように主張しました。

2)しかし、「大同団結」路線は、ドコモからもKDDIからもすげなく蹴られる一方、昔からWiMAXに熱心だったKDDIからは、MVNOの条件についての明確なコミットは得られないという状況下で、IPモバイルが免許を返上し、「2MHzの可能性」が新たに出てきたわけですから、こうなれば、「イーアクセスと共同で、何とかして1枠取る事を考えるしかないし、取れる可能性は十分ある」という判断にいたり、積極行動に出ることにしました。

3)最終段階では、「2GHzの可能性が出てきた以上、ウィルコムがここへ行ってくれれば、全てが丸く収まりそうで一番良いと思うが、もしそうでなければ、WiMAXの1枠をOpenWinが取るのが一番良い。何故なら、OpenWinなら、ドコモであれ、KDDIであれ、その他の誰であれ、何時でもインフラのパートナーとして迎え入れるし(大同団結路線を堅持)、実際のサービス提供は、すべてMVNOに公正無差別に開放するものゆえ、敗者はどこにも出ないからである」と主張しました。

次にharuさんのご質問に対するお答えです。

先ず、データスピードはモジュレーションその他の技術によって変わってくるものであり、周波数が変わっても影響はありません。周波数が変わることで一番影響が出るのは、カバレッジとコストです。この観点から言えば、一般的に言って、周波数は低ければ低いほど有利になります。即ち、2.5GHzよりは2GHzの方が有利、1.7GHzは2GHzより有利、1.5GHzなら更に有利、現在KDDIさんがサービスの主流として使っている800MHzは、さらにグーンと有利ということです。(現実に、世界中で、800MHzは Golden Spectrum と呼ばれています。)

「仮に次世代PHSで1社WiMAXで2社が競合することになった場合、結果(業績)はどういう順序で出たと思うか」というご質問については、残念ながら答えるすべを持ちません。「がんばったところが勝ち残るだろう」と申し上げるしかないと思います。

「WiMAXであれ、次世代PHSであれ、2.5GHzは本当に勝ち残れるのか?」という疑問は、haruさんだけでなく、世界中で多くの人たちが呈している疑問です。haruさんは「3.9G」ないしは「4G」と呼ばれる「将来のLTE(またはUMB)」との競争のことを懸念しておられますが、「3.5G」と呼ばれる「現在のHSPA(またはDO-RevA)」に対する競争力を懸念する人達さえもいるのです。

にもかかわらず、自らHSPAを操業中で、将来のLTEも視野に入れているソフトバンクが、何故WiMAXに執念を燃やしたかといえば、既存の周波数があまりに少なく、このままでは抜けのないサービスのラインアップに不安があったからです。勿論、自社においての、「3.5Gや3.9GとWiMAXとの使い分け」については、十分検討済みでしたが、WiMAXのビジネス全般については、決して安易な考えは持っておりませんでした。

sakaiさんからは、松本徹三か久慈毅かという問題いについて、「人に何か言われるたびにふらふらと考えが変わるのは情けない」と再度お叱りを頂きましたが、「会社を代表する立場と個人の立場をどう使い分けるか」という問題も、「Web社会とどう付き合うか」という問題も、共に結構難しい問題であり、特に後者については、私も考えがなかなか定まりませんでした。従って、色々な方のご意見を注意深く聞いたのは当然ですし、若干の試行錯誤も止むを得なかったと感じております。(別に「人のせいにして言い訳をしている」わけではありません。そもそも私としては、事実をご説明すれば済むことであり、言い訳などする必要は全くないのですから・・・。)

但し、現時点では、こと情報通信ビジネスに関する言動については、会社の立場であれ、個人の立場であれ、名前は一本にして、「松本徹三」で行くのが一番良いという考えに固まっております。一時は相当迷いましたが、既に明確に結論を出し、この考えはもう変わることはありません。(「久慈毅」が情報通信の世界に登場することはもうありません。)

ところで、これは全くの余談ですが、私は純文学の方面にも興味を持っており、その関係では、まったく別のペンネームを使っています。しかし、これはビジネスとは全く関係のないものとして、明確に一線を引いています。将来、もしWeb2.0が文学・芸術の世界に広く浸透し、純文学のような「商業主義と程遠いところにあるもの」の振興にも役立つような時代がきたら、私も(その頃には今の仕事からは引退しているでしょうから)、何らかの役に立ちたいと、ひそかに考えている次第です。

最後に、まことに気の進まないことではありますが、ishidajapann さんからの二本のコメントについて、下記の通りご回答します。但し、冒頭にご説明したとおり、この手のやり取りはこれ以上はやりたくないので、ishidajapanさん(或いはそれに追隋される方)との交信は、これをもって最初で最後とさせて頂きたいと考えています。

1)私はAIR EDGEさん(暇人?さん)に対し、「知識欠如、理解不足」と申し上げましたが、それは事実ですから、仕方ありません。どこがそうであるかは、二回にわたる「反論への反論」の中で詳細に申し上げております。「事実」を申し述べることは、「中傷」にはあたりません。

2)「匿名ではあっても人格がある。このようなことを言われれば相手が傷つくとは想像できないのか?」とのことでしたが、私は、むしろこの方には若干傷ついていただきたいと思っています。そもそもこの方は、色々なことを確かめもせず、私を「おバカ」と決め付け、その他にも色々と不適切な言葉を並べられました。私はそれに対し、「若干きつい程度」の言葉をお返ししただけです。この方がそういうことを言われると傷つくのなら、今後は自分から人の悪口を言わなければ良いのです。 また、この方は、その後、「ソフトバンクから脅迫を受けた」という事実無根のことをウェブに書かれました。このこと自体極めて重大な問題なのですが、これについては今更問わないとしても、この一事をとっても、私自身はこの方の人格を信用するわけにはいきません。

3)ishidajapanさんは、一方では私に、「少しぐらい悪口を言われたからといって、それに同じように言い返すとは全く子供じみている」とお説教をされながら、自分の方からは、私に対して「言いたい放題の悪口雑言」を並べておられます。ということは、「お前ら『実名』の人物は、何を言われても黙ってかしこまっていろ。まちがっても『匿名』の人間に口答えなんかするんじゃあない。『匿名』の人間には人格があって、傷つき易いし、子供じみていようとどうしようと許されるんだから」と考えておられるように思われます。私は、先にものべたように、「匿名」の価値を認めることもやぶさかではないのですが、このような「匿名天国」の考えは、到底許容することは出来ません。

4)ishidajapanさんによると、「こんな子供じみた態度を取るとは末恐ろしい。こんな人が通信業界の将来を語るなどとんでもない」との事ですが、私は最近急に「子供じみた」ことを言ったりしたりするようになったわけではなく、もう何年も、大体こんなものです。こんなものであっても、一応きちんとビジネスをやってきており、情報通信の世界でも、それなりに結果も残してきています。ishidajapanさんの言われようは、過去の実績や将来への可能性も含め、私のビジネス上の全人格を否定しているように聞こえますが、私としては受け入れがたく、率直に言って、これ以上お話をする気にさえなりません。

5)「議論の途中で名前を変えるなど最低」と仰っておられますが、どんな名前を使おうと、同一人物であることは誰の眼にも分かる様になっているのです。また、私は実名で出ているのですから、私についての全ては、使う名前の如何に関わらず、誰にもはっきり分かるのです。前出のsakaiさんのように、「あなた、ちょっと頼りないよ」と言われるのであれば、私も少しは反省することもやぶさかではないのですが、「ウェブの世界ではそんなことは最低であり、受け入れられない」とまで言われれば、「はいそうですか」というわけにはいきません。 そもそも、そこまで言われるのなら、ishidajapanさんも堂々と名乗りを上げて、実名で議論されたらいいじゃあないですか? 匿名の場合は、名前なんか何時でもいくらでも変えられますし、都合が悪くなれば何時でも消えてなくなれますし、同一人が違う名前で出てきても誰もわかりません。そういう立場にある匿名の人が、どこにも逃げられない実名の人に対して、「途中で名前を変えるな」とか何とか仰ること自体、バランス上変だとは思われないのでしょうか?

6)「文章が下手だといわれたら、素直に反省して研鑽すればいいんだ」ということですが、私も、過去において、編集者やプロの作家にご指導を受けたときには、おおむね素直に従ってきています。46年近く勤めたビジネスの世界では、先輩から数百回にもわたって文章の指導を受けましたし、長じては、後進の指導にも努力してきています。但し、今の時点でishidajapanさんから文章のご指導を受けることには、私としては全く興味はありませんので、悪しからずご了承下さい。

7)「お前の本はオクションで1円で出ていたよ。1円っていうのは駄目な本だからだよね」と嘲笑しておられますが、とんでもない。私は、1円でオクションに出してくださった方には感謝感激です。そもそも読み終わった本などは、場所ふさぎですから、ゴミ箱に捨てられる運命にあるのに、この方は一銭のお金にもならないのに、わざわざ手間暇かけて、オクションにかけてくださったのです。これで、もう一人その本を読んで頂ける可能性が出てきたわけですから、本当に有難いことです。

8)最後に、ishidajapanさんは、「お前にブログなんか書く資格はない。やめてしまえ」と仰っておられますが、私は、この方にそういわれたからといって、ブログをやめるつもりはありません。ishidajapanさんには別に読んでいただく必要はありません。

以上です。

 

取り急ぎ、新しくコメントを頂いた方に回答をいたします。

但し、「久慈毅」名か「松本徹三」名かと言う問題については、先回ご説明しましたので、重複は避けます。

(当初は、「ソフトバンクの副社長という名前を誇示して圧力をかけるのか」と噛み付かれ、「文章が下手なので読みにくい」と叱られ、「では、昔本を書いていた時のペンネームでやります」と言うと、今度は「名前を変えて逃げるのか」と言われ、「会社としてはどうなのか?」と突っ込まれ、また、或る人からは「二つの名前を使い分けると何が本音なのかが分かりにくくなる」と指摘され、成程と思って、元の本名に変えると、今度は「一事が万事。よく考えてからものを言え」と叱られる。「噛み付かれたり叱られたりしないようにするのは、なかなか大変だなあ」ということがよく分かりました。但し、市場で色々なお客様の千差万別の要望やクレームににタイムリーに応えていくことに比べれば、こんなことで泣き言を言うわけにはいきません。)

hebi no shita さんからは、「やたらにスルーされまくり」と叱られましたが、私の記憶では、以前のサイトで相当長文の回答を差し上げた筈です。以前のサイトも、もう一度チェック頂ければと思います。

さて、今回の hebi no shita さんからご質問の一番重要な部分は、2GHzのIPモバイルの跡地利用の「手順とタイミング」のことだと思いますので、これについて若干一般論を申し上げます。

(この新しいブログでは、「いつ誰が何を言った」といったような後ろ向きの議論に時間を費やすのは出来るだけ避け、今後の指針になるような前向きの議論をさせて頂きたいと思いますので、その点はご理解ください。)

IPモバイルさんが最終的に断念するに至るまでは、森トラストさんが一時期入られたりして、色々な経緯がありました。この間に、「この周波数を使わないか?」とか、「IPモバイルに金を入れないか?」とかいう打診は、色々なところに対してなされたと理解していますが、結局のところ、強い興味を示すところはどこもなったということです。従って、「この周波数をめぐる議論の第1ラウンドは、実は既に終わっていたのだ」といってもよいのではないかと思います。

総務省としては、「未使用の周波数」はあまり長期間遊ばせず、誰か使わせて「ユーザーの利便」と「産業の活性化」に役立たせたいとは、常に考えておられることと思います。従って、「当時ホットな状態にあった2.5GHz問題と、この2GHz問題を併せて、一括して議論する」という選択肢は、一応はあったはずですし、我々は「そうするべき」と主張したのでした。

しかし、何らかの理由で、「2.5GHzの決定は年内にやってしまいたい」という意向が働いたのでしょう。結局、総務省がこの選択肢を取ることにはなりませんでした。

もしこの選択肢が取られていたとしたら、総務省は、ウィルコムやOpenWinを含む2.5GHzの各候補者と、「2GHzではどうしても困るのか? 何故なのか?」という議論を、直ちにすることになったでしょうし、その中で、決定に至る手順やタイミングについても議論され、hibi no shita さんが今私に問い詰めておられるような、「ウィルコムは2GHzでも本当に予定開業時期に間に合うという保証はあったのか?」という問いに対する答えも、その時点で得られたであろうと思います。

先にも申し上げました通り、もし総務省が本気でこの可能性を追求し、仮にウィルコムさんが前向きに対応されたとしたら、そして、本件に関係した全ての会社が、その迅速な決定のために全面的に協力したとしたら、現実問題として、「3-4ヶ月で内示、6-7ヶ月で正式免許発給」といったようなスケジュールも、不可能ではなかったのではないかと、私は感じています。

(尤も、総務省の事務方から、「あなたは実務を分かっていないから簡単に言われるが、現実にはそんなにうまくは行きませんよ」と、言われれば、私としては反論までは出来なかったでしょうが・・・。)

しかし、現実には、総務省はこの選択肢を取られなかったわけですから、今となってこの可能性についてあれこれ論じてみても、所詮は意味のないことです。総務省とウィルコムの間で、最小限何らかの会話があったかどうかは、私は知る由もありません。

私は、「SBMの端末の場合は、30MHzの離隔しか取れず、これでは端末内の干渉問題を克服するのは極めて困難」ということを、既に社内外の技術者からの報告で知っていましたから、このことを色々な場で言っておりましたが、総務省からは特に質問は受けていないので、公には話しておりません。

「3Gとのデュアルモード端末が出来ないのであれば、WiMAXをソフトバンクグループ全体のサービスのラインアップに加える意味がないと考えたのか?」と問われると、100%そうだとは言いきれませんが、自らネットワークインフラに投資する程の魅力は感じられなかったと言うのが、正直なところでしょう。

次世代PHSについては、現状では、それがどういうものなのかということ自体が分かっていないので、「SBMとしてMVNOに興味はないのか?」とか、「3Gとのデュアルモード端末を作るつもりはないのか?」とか聞かれても、答える術はありませんが、先ずは「ない」と思います。ドコモさんやauさんの場合は、仮に2GHzの場合でも、SBMのような「端末内干渉」の問題はない筈ですが、彼等がウィルコムのMVNOをやるとは、ちょっと考えられないと思います。

今回私が始めたブログに対し、早速色々な方からコメントを頂きました。これまでWiMAX関連のやり取りをフォローしていただいた方からのものが殆どと思いますが、先ずはお礼を申し上げます。

sakaiさんから、「久慈毅という『10年前に使っていたペンネーム』を使って、自由な立場からブログを書くということではなかったの? ころころ言うことが変わると信用を失うよ」といった主旨のご叱責を頂きました。先ず、これについてのお詫びとご説明をいたします。

実は、当初はそのつもりだったのですが、私が言ったりしたりしていることに興味を持っていただいた方が、「松本徹三」で検索するのか「久慈毅」で検索するのか迷うことになり、混乱するのではないかというご指摘を何人かの方々から頂き、「成る程それもそうだ」と考えて、方針を変えさせて頂きました。(このことについて、真っ先にご説明しなかったのは私のミスでした。ご容赦ください。)

「松本徹三」の名前でも、会社を代表してものを言う場合と、個人の立場でものを言う場合があることは、当然のことでもありますし、一方、「久慈毅」の名前を使ってみても、それが「松本徹三」と同一人物であり、この人物は今はソフトバンクモバイルの取締役副社長をしているというのは、公知の事実であり、別にそのことについて逃げも隠れもするわけではありませんから、どちらの名前を使ってみても、実際には殆ど同じことだと考えました。この点、よろしくご理解ください。

次にackyさんから、WiMAX免許問題に関連して、一番重要な本質的な質問を再度頂きましたので、この点について、少し詳しくご説明させていただきたいと思います。

ご質問に答える前に、本質的なことを二点申し上げたいと思います。

第一に、企業の経営者は、株主に対して、自社の利益を最大化する義務を負っているのですから、先ずは自社の利益を追求し、その為の色々な主張をするのは当然であることを、申し上げたいと思います。

しかし、「周波数の割当」といった「国政」に絡む問題については、単純に自社の立場だけを主張するのは「得策」ではありません。何故なら、こういう問題に関する最終決定は、何れにせよ、担当官庁が「国益(国民の利益)」を最大化するような方向で行うことになるからです。

従って、担当官庁への陳情や交渉は、「我々はこうしたい」と、ただ子供のように主張するのではなく、「こうすれば、結果として国益の最大化につながるのではありませんか?」と訴えるのが筋です。(逆に、もし担当官庁が誤った決定をしようとしていると思えば、「それは国益に反するのでは?」「あなた方は担当官庁としての責任を果たしていないのでは?」と、突っ込みを入れることも当然あってよいと思います。)

何が国益かといえば、周波数問題に関して言うなら、「ユーザー(国民)の求めるサービスの提供」「競争の活性化による産業の振興」「周波数の利用効率の向上」の3点が柱になると思います。

次に、周波数の割当については、先ず基本的な理解が共有化されていなければなりません。今回の論争を通じて私が少し驚いたのは、この基本的理解が多くの人に欠落していることでした。

そもそも、通信や放送の用途で通常の地上環境で使えるのは、電波というものの物理的特性上、せいぜい5GHz帯程度までです。過去においては、その希少価値があまり理解されていなかった為、かなり行き当たりばったりにこれが使われてきたことは否めませんから、総務省は「区画整理をして、まとめて使える帯域を増やす」という重責を担っています。

一方、仮に使える周波数があったとしても、、国民の利便の為にこれを使う事業者や公共機関がなければなりません。公共機関の場合は、そのサービスが税金を使うに値するものであるかどうかが先ず問われますし、民間事業の場合は、収益性がなければ誰もやりません。電波の割当というものは、この両者、すなわち「使える電波」と「それを使うサービス」のアウンの呼吸が合ったときに初めて実現すべきものです。

従って、通常は、先ず民間の事業者が「こういうサービスをやりたいので電波を割り当てていただけませんか?」と、総務省に相談を持ちかけることから、全てが始まります。先の論争の中で、或る人から、「え、そんなことをやっているの? それって裏工作じゃあないの?」というご意見が出ましたが、とんでもない、これはごく当たり前の「民と官との間のあるべきコミュニケーション」です。

ソフトバンクの場合は、「自分達の事業の拡大の為に、どうしても携帯通信事業をやりたい」という企業の欲求が先ずあり、次に、「現状は寡占体制であり、これでは価格が高止まりして、国民のためにならない」という、「国益の観点からの大義名分」がありました。従って、2003年頃から、何とか周波数の割当を受けるべく、総務省に熱心に陳情を重ねてきたのです。

この間色々な経緯がありましたが、最終的に、総務省は、「区画整理をすれば1.7GHz帯が利用可能になる」という結論に達し、この新しい帯域を、希望を出してきた3社、即ち、ドコモ、ソフトバンク、イーアクセスに供与することを決めたのです。(その時点で、それ以外に希望を出してきた会社はありませんでしたから、「この3社の為に誰かが締め出された」というわけではありません。)

また、総務省は、同時に、「周波数の割当だけを受けて、実際には使わないということがあっては困るから、先ず最小単位の5MHzを供与しましょう。実際に事業をやって利用者が増えてきたら、追加の申請をしてもらえば、一定条件で追加周波数を供与します」という方針も打ち出したのです。

その後、ソフトバンクは、2GHz帯で事業を行っていた英国のボーダフォン社が既に息切れしていて、事業を売却したいという考えがあることを知り、一大決心をしてその買収を決意したのですが、そうなれば、1.7GHz帯を使った新しいネットワークの建設は「当面」不要であるし、その余裕もないことは明らかですから、総務省は一旦供与した1.7GHz帯の周波数の返還を求め、ソフトバンクがこれに応じたのも、当然の帰結でした。

返還された周波数は、手付かずで総務省のポケットに戻されたのですから、希望者があれば、既存事業者であれ、新規の事業者であれ、一定条件を満たせば、これを使わせてもらえるのは明らかです。即ち、この電波は死蔵されたわけでも、腐ってしまった訳でもなく、これによって誰にも何の損害も生じていないのです。

ところが、私が心底驚いたのは、世の中には、「ソフトバンクの我儘の為に、この貴重な電波が使えなくなってしまった」とか、「本来使いたかったかもしれない事業者が、ソフトバンクが認可を受けたために断念させられた」とかいう「全く根拠のない誤解」を持っている人が、結構多かったということでした。しかも、「方針転換」とか、「事業買収」とかいう、ビジネスをする上での通常の行為を、「信義にもとる行為」であると考えている人や、極端な場合は「ソフトバンクは嘘をついて国や他の事業者に迷惑をかけた」と公言する人までいたということには、私はかなりのショックを受けました。「こんなことで、日本は大丈夫か?」と、私は頭を抱えたのです。

さて、これからがackyさんへの回答です。

「国益とは、即ち、『事業者とユーザーをトータルで見た場合の、最大多数の最大幸福』であると考えた場合、WiMAXで申請している3社のうち2社に競争で2.5 GHzの免許を与え、次世代PHSで申請しているウィルコムには、少し帯域が狭く、正式免許の供与に少し時間はかかるにしても、『当選確実』の2GHzを与えるという『案』はどうなのでしょうか?」というのが、ソフトバンクの提案でした。

更に、この背景として、余計なことだったかもしれませんが、ソフトバンクからは、「一般的に言えば、2GHzは2.5GHzより使い易い帯域だ。但し、残念ながら、かくかくしかじかの理由で、ソフトバンクとしては使えない(使いいにくい)帯域である」とか、「ウィルコムは現行システムが2GHzなのだから、むしろ都合の良いこともあるのでは?」とか、「次世代PHSはWiMAXではないのだから、特に2.5GHzにこだわる必要はないのでは?」とか、「WiMAXを隣りあわせでつかえば、ガードバンドは節約できるから、この方が、WiMAXと次世代PHSを並べるより、トータルで周波数の節約になるのでは?」とか、色々なことを申し上げました。

本来なら、「場外」ではなく、きちんと「場内」で、ウィルコムさん自身が、このそれぞれの論点に対し、自社の立場から反論されていれば、もう少し有意義な展開になっていたのではないかと思います。(尤も、今回はあまりに時間がなかったので、止むを得なかったのかもしれませんが・・・。)

以上より、ソフトバンクとしては、1.7GHzについては、事業者としてごく当然のことをやったわけですし、今回の2.5GHz論議については、「自社の希望」と「国益の観点からの提案」の二つを並行して出し、公開の議論の積み重ねをベースとして、総務省が最終的に「国益の観点からの最終判断をする」ことを期待したものです。この間に何の矛盾もないし、ご批判を受けるようなこともないと考えています。

それから、これは全くの「噂の仄聞」に過ぎず、こんなことで、また私から論争を仕掛けるつもりは全くありませんが、下記のような噂が業界の一部にはあることを、一応ご披露しておきます。

この噂というのは、「次世代PHSというが、ウィルコムが考えているのは、純粋の国産技術ではなく、実はWiMAXのWave2と殆ど同じもので、これに、自社の得意技である「小セルのヌルフォーミング(RF)技術」など加味したものである。だからこそ、ウィルコムは、グローバルレベルでの部品の共通化の為に、『世界のWiMAX事業者が使う2.5GHz』に固執しなければならなかったのだ」というものです。

重ねて申しますが、私自身はこんな噂には殆ど関心はありません。従って、このことについて、これ以上コメントするつもりもありませんし、ましてや議論するつもりはありませんので、この点はご了承ください。「次世代PHS]というものについては、確かに「謎めいた部分」があるのですが、どうせ今から1年もたてば全てがはっきりすることです。

次にMddv2さんから、かなり難しい経営上のご質問を頂きました。何らかのご回答をしたいと思いますが、少しお時間をください。

haroさんからは、「結局は自分の言うことは全て正しいと言っているかのようだ」というコメントを頂きましたが、それはその通りです。「自分の考えは全て正しい」と思うからこそ、それを発言し、主張しているのですから、それは当然のことではないでしょうか? 

ただ、「都合の悪いことはスルー」と言われると、「どこをスルーしたのでしょうか?」とお聞きせざるを得ません。少なくとも技術問題については、「都合の悪いところなどどこにもない」と考えていますし、全てお答えしたと思います。ソフトバンクの商売のやり方全般や、過去の問題などについては、私の担当外であったり、広報部が答えるべき問題であると考えたために、お答えしていないところはありますが、この点はご容赦ください。(「Doccicaの問題」と言うのは、ご質問の意味が分かりませんでした。)

Shiroさんからは、全般的に勇気付けられるコメントをいただいたと感じています。但し、「技術的には双方に正しいところと間違ったているところがある」と言われると、若干不満です。「ここが間違っている」とか、「ここはまだ答えられていない」というところがあれば、あらためて具体的にご指摘いただければと思います。

私は最近貴重な個人的な体験をしました。

事の発端は、昨年の12月に、当時ホットな状況にあったWiMAXの周波数免許に関連して、私がITメディアのインタービューに答えた記事に対して、ある匿名の筆者が、「緊急徹底反論」というものを、「はてな」のサイトに掲載したことでした。

私の目から見ると、この書き込みには、技術的な問題を中心に、相当多くの事実誤認が含まれておりましたが、そのすぐ後に、これも匿名の誰かが、同じサイトの「コメント」でその誤りのいくつかを指摘してくれていましたので、その時点では、特に「反論への反論」といったものを書こうという気持ちにはなりませんでした。

ところが、正月休みが終わってしばらくした後に、家内から突然、「お父さんって随分評判が悪いのね。ソフトバンクなんかやめて、もう引退したら」と言われ、それが私に、二月の中頃から後半にかけて、延べ十数時間もの時間を使う「エクストラワーク」を課するという結果になりました。

どうも家内は、ある時、暇つぶしにヤフーで「松本徹三」を検索した結果、「はてな」の「緊急徹底反論」と、それに続く色々なコメントを読む羽目になったようです。このことを指摘されて、私も読み返してみると、「成る程、これは『悪口雑言』と言ってもいいようなものだなあ」と感じました。

この書き込みは、「あまりに馬鹿にしているというよりも、むしろおバカなので」という言葉に始まり、「ウソでなければ単なる無知なんどしょうけど」とか、「ソフトバンクのトップってこの程度なんですかね」とか、「ソフトバンクはそんなクズフィルタを公衆で使ってたってこと? 寒気がします」というような言葉が連なっていました。

もしそれらが事実に基づいた批判であるのなら、私としても文句を言う筋ではなかったのですが、私から見ると、それらの批判の根拠が、ことごとく「技術的事実についての知識の欠如、ないしは理解の不足」からきているものだったので、「これはやはり黙っているわけにはいかないのかなあ」という気持ちになったのです。

私は昨年の11月に齢68歳に達し、残り少ない人生の時間の使い方についていろいろと考えるようになりました。縁あって一昨年の九月からソフトバンクモバイルの副社長を務めることになり、なお実業の世界で毎日まじめに仕事をしておりますが、もはやライン責任は持たず、孫正義社長に対するアドバイスに徹する立場です。

私は本来は「ビジネスは結果が全て」が身上で、「結果に100%責任を持つために、150%仕事をする」という姿勢でやってきましたから、「アドバイスだけしていればよい」現在の身分は、まるで夢のような別世界です。当初は大きな戸惑いがあり、「これでは、こんなにたくさん給料を貰っていたら申し訳ない」と思い悩みましたし、実際に当初の給料を少しは減らしてもらいましたが、そのうちに、これは神様が私に与えてくれた「人生の最終局面でのスロウ・ダウンのプロセス」と考えるようになり、今は気を楽に持っています。

その代わり、「日本の将来の為に今何がなされなければならないか?」ということについては、これまで以上に考え、実際に出来ることは、少しでも行動にも移していきたいと思っています。幸いにして、このことと、ソフトバンクの副社長として給料を貰っているという立場とは、大きく矛盾することはないと、自分では考えています。

松本徹三のプロフィール

松本徹三のビジネスプロフィール・ソーシャルグラフ
1962年 伊藤忠商事株式会社入社
1984年 伊藤忠アメリカ会社上級副社長兼エレクトロニクス部長就任
伊藤忠商事(株)東京本社通信事業部長、同マルチメディア事業部長歴任
1996年 同社退職、ジャパン・リンク設立
1998年 クアルコムジャパン(株)代表取締役社長就任
2005年 同社取締役会長、クアルコム米国本社上級副社長就任
2006年 ボーダフォン(株)(現ソフトバンクモバイル)執行役副社長 技術統括兼CSO就任

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