日本初の有人宇宙施設となる実験棟「きぼう」の国際宇宙ステーション(ISS)への建設着手という大任を果たした土井隆雄さんが、米スペースシャトル「エンデバー」で無事帰還した。日本宇宙開発の新たな扉を開いた快挙をたたえたい。
土井さんら七人の宇宙飛行士が搭乗したエンデバーが打ち上げられたのは今月十一日。四日目には土井さんがロボットアームを操作して直径四・四メートル、長さ約四メートルの円筒形をした「きぼう」の保管室をISSに取り付け、初入室を果たした。地上の管制官が「完ぺき」と称賛する見事な成功だった。
土井さんは着陸した米フロリダ州の米航空宇宙局(NASA)ケネディ宇宙センターで、出迎えた日本の関係者に「長い苦労が実りましたね」などと言葉を交わしたという。満足感と安堵(あんど)感に浸ったことだろう。
「きぼう」は、微小重力や真空といった宇宙の環境を利用した研究の場の提供を目的としている。今後、建設の第二便として五月に星出彰彦さんが船内実験室を取り付ける。さらに、十二月には若田光一さんが日本人初のISSでの長期滞在を開始し、来春の第三便で搬送される船外実験装置を設置する予定だ。
「きぼう」の原型は一九八七年までに決まり、当初は第一便が九四年にも打ち上げられる予定だったという。だが、米国の財政悪化やスペースシャトルの相次ぐ事故などで度々延期された。日本にとってまさに悲願である。
しかし、その前途は不透明といわざるを得ない。長い年月が経過する間に技術が進み、宇宙で実験する魅力が薄らいだ研究分野も出てきたからだ。船内実験室利用事業の公募でも、最先端分野の研究の応募はゼロだった。総額一兆円を超えるとされるISS計画への日本の負担に見合う成果が得られるのか、疑問の声もある。
米国の宇宙政策の見直しも影を落とす。ブッシュ政権は二〇一〇年にISSを完成させ、老朽化したスペースシャトルを退役させる考えだ。ISSの運用は一五年までは決まっているが、その後の見通しについては定かでない。
宇宙に自前の有人活動拠点を持って平和利用に主体的な役割を担う意義は大きい。この価値を高めていくためにも費用対効果などを踏まえ、将来を見据えた日本の宇宙開発戦略を示し、国民の合意形成を図っていくことが欠かせない。
まずは「きぼう」の機能を生かした有益な実験と成果を、着実に積み上げていけるよう全力を注ぐことが肝要だ。
何でこういうショッキングな事件が繰り返し起きるのか。岡山市のJR岡山駅のホームで列車を待っていた倉敷市の岡山県職員男性が、大阪府の十八歳少年に線路に突き落とされて死亡した事件は、言いようのない憤りとやり切れなさが募る。
男性は三十八歳だった。妻と幼い娘二人の四人でコーポに住んでいたが、マイホームを建てる予定だったという。
男性の父親は「孫二人は泣いてばかり。ふびんで慰める言葉が見つからない」と声を詰まらせていた。少年に対しては「はらわたが煮えくり返る思いだが、罪を償い、世の中の役に立つ人になってほしい。(こんな事件は)息子で最後に」と気丈に振る舞った。心中、察するに余りある。
目撃者などによると、少年は列車が構内に進入する直前、ホームの最前列にいた男性に小走りで近づいて背中を突き飛ばし、線路に落としたという。男性は列車にはねられて亡くなった。少年は警察の調べに「人を殺せば刑務所に行ける。誰でもよかった」と供述している。
少年は小中学校時代にいじめを受けていたが、高校生になって一見平穏な生活を送っていたとされる。しかし、卒業から約一カ月後に事件を起こした。
進路をめぐり大きな悩みを抱えていたといい、自暴自棄になったのだろうか。直前に起きた茨城県土浦市の八人殺傷事件に触発された可能性も指摘されるが、それにしても不可解な点が多い。慎重に動機を解明してもらいたい。
多数の人が出入りする駅ホームでの同様事件は、全国で後を絶たない。安全確保に向けた課題があらためて浮き彫りになった。どんな対策が有効なのか。警察や鉄道関係者は本腰を入れて検討する必要がある。
(2008年3月28日掲載)