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【社説】

学習指導要領 疑念ぬぐえぬ道徳強化

2008年3月28日

 告示された新学習指導要領は原案よりも「道徳」が強化された。あってよい環境教育面の充実はみられず、慎重意見も多い武道の必修化はそのままだ。修正の仕方にバランスを欠いてはいないか。

 文部科学省は今年二月、幼稚園と小、中学校の次期学習指導要領について改定案を公表し、今月十六日までの約一カ月間、一般から改定案への意見を電子メールや郵便などで募っていた。そして、学習指導要領を告示した。

 指導要領はほぼ十年ごとに改定されている。今回は四十年ぶりに授業時間数と教える内容を増やし、小学校の高学年で新たに英語教育を取り入れることなどが主な特徴だ。

 これまでの「ゆとり教育」からの方向転換であり、国民から広く意見を募るのは当然の手続きだ。約五千六百件の意見が寄せられたという。多様な意見に耳を傾け、場合によってはただすことも妥当だろう。

 修正個所をみると、道徳にかかわる記述が目立つ。小、中学校とも「総則」の「伝統と文化を継承し、発展させ」が「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し」などと変更された。

 小学校の音楽で「君が代」は各学年で「指導する」となっていたが「歌えるよう指導する」と加筆された。「外国語活動及び道徳」が「道徳及び外国語活動」に変わるといったこまやかな文言入れ替えもある。

 「総則」は学校の教育活動全体について方針を示す指導要領の根幹部分だ。改定案が修正、加筆されるのは異例といえる。同省は修正について「与党や一般からの意見などを総合的に判断した」と説明する。

 同省がまとめた一般意見の概要では「『国を愛する心』を総則に明記し、社会科以外でも教えるべきだ」との主張がある一方で「愛国心などの徳目を子供に押しつけるのは問題だ」という意見もあり、道徳の強化は必ずしも賛成ばかりではない。

 修正は、一般意見を反映させたというより一部与党議員の意見に従った、との疑念がぬぐえない。

 総則には「環境の保全」という言葉も加わったが、各教科での加筆はみられない。子供にとって環境教育は重要な課題だ。道徳並みに補強しないのはなぜか。

 一般意見からは中学での武道の必修化に「施設の整備が必要」「指導者確保に疑問」といった声が出ていたが、ほとんど黙殺されている。

 国民の意見聴取を名分に、与党の意を酌んで原案を変えるようなことがもしあるとするならば、「我が国を愛する」教育につながるとは、とても思えない。

 

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