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2008年03月25日付・夕刊
(2)待ち疲れの整形「残業が一番長いのは心臓血管外科だけど、整形外科は独特の忙しさなんです」という高知医療センター脳神経外科、溝渕雅之医師(48)の言葉に興味をそそられ、私はまず整形外科を訪ねた。そしていきなりカルチャーショックを受けた。 というのは、トップの時岡孝光科長(48)が三十分間も時間を割いてくれたのだ。それまで見てきた脳外科はあまりに多忙で、質問することすらためらわれただけに、「こんなに長時間話してもらっていいのか」と気が引けたほどだ。 「七、八月だったら無理だったでしょうねえ。夜中も深夜も、土日も手術。うちは若手で緊急オペ専用のチームを組んで対応してるんですが、彼らは残業二百時間ペースでしたから。ところが、急に風向きが変わったんですよ」。痛しかゆしの表情で事情を話し始めた。 風向きが変わったのは昨年八月下旬。高知新聞朝刊社会面に「医療センター、救急患者殺到に悲鳴」という記事が出た。その途端、救急車の数が減ったという。 もともと秋口は一年で最も整形が暇とされる時期。寒くなると体が硬くなり、転んで骨折しやすいから患者が増えるという。季節性では脳外科と同じらしい。 さて、「独特の忙しさ」とはどういうことなのか。時岡科長は、こんなジレンマを教えてくれた。 「われわれの抱えている一番の問題は、手術したくてもすぐにさせてもらえないことなんです」 医療センターには手術室が十部屋あり、昼間は同時に多くの手術ができるのだが、今の人手では、夜間の稼働は原則的に一室だけ。脳外科、心臓外科、消化器外科などの緊急手術と重なると、それらは一刻を争うだけに、譲らざるを得ない。しかも長い。心疾患なら軽く八時間。そんなわけで、昼間に救急車で来た骨折患者の手術が、翌日の明け方まで待たされたこともあるという。 「整形は夜間の呼び出し回数が圧倒的に多いし、緊急手術も多い。なのに深夜まで順番待ち。つまり待ち疲れです。そろそろかと思ったら、帝王切開や盲腸が入って、後へ後へ。スタッフは疲労を蓄積するんです」 そんな説明を聞いて数日間、整形をマークしたが、どうやら本当に閑散期だったようだ。待ち疲れになるような場面がない。そんな中、病棟回診が終わって手の空いた整形の医師と話していて、思いがけない事実を知った。 実は平成十八年夏、医療センターは大変なピンチに陥ったのだという。麻酔科医が病欠も含めて五人もいなくなり、初期臨床研修以外の医師が三人になってしまったのだ。開院二年目のことである。 麻酔科は医療センターのエンジンとも言える存在だけに、影響は大きかった。 「ほとんどの診療科の手術に制限がかかったんです。うちは七月後半から全身麻酔手術ができず、外傷は診察したらすべて他の病院に転送依頼。自分たちで麻酔ができる手術だけをやるしかなかったんです」 いわゆる自科麻酔。禁じ手ではないが、もしトラブルが起きたら「なぜ、専門科に任せなかったのか」と訴えられる事態も想定されるだけに、本当は避けたいところだ。本県の命の砦(とりで)が、そんな大ピンチに陥っていたとは…。 【写真】手術数が最も多い整形外科の医師は、独特の忙しさがある(高知市池、高知医療センターの救急外来) |
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