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2008年03月24日付・夕刊
(1)わき出るドクター昨秋、高知医療センター(高知市池)の取材を始めて十一日目。大病院を象徴するような場面に出合った。夜間の救急外来に、医師がわき出るように次々と“出勤”してきたのだ。 発端は午後八時すぎ。郡部の病院から九十代後半の腸閉塞(へいそく)患者が転送されてきた。「不整脈もあり、心臓のペースメーカーの手術も必要かもしれない」という情報とともに。 救急車対応当直は整形外科の大森貴夫医師(35)だったため、消化器外科の待機当番医(47)が呼ばれた。彼は高知市の中心部で開催中の研究会に出席していたが、抜け出てきた。 百歳間近。手術に耐えられるかどうかを検討していると、やはり呼び出された循環器センターの当直医(45)が、心電図を見ていて叫んだ。 「MIや!」 心筋梗塞(こうそく)のことだ。救急外来はざわめいた。心疾患は命にかかわる。腸閉塞よりも心筋梗塞の解決が先だ。もし見落として腸の手術に入り、急変でも起これば致命的である。 待機の麻酔科医(34)も呼ばれた。さらに十時すぎには循環器内科のトップ(47)までが顔を出した。 「電話で相談を受けたもんで。やっぱり診ておかないとねえ。データの情報だけでなく、患者さんの実際の状態を見ておくのも大切ですから」 急性心筋梗塞なら、もう二人ほど医師を呼んで血管造影し、冠動脈拡張の血管内手術になるかもしれないという。そうなると、血液の粘りをなくす薬を使うため腸の手術はできない。出血が止まらなくなるからだ。 心臓を主に対応していくのか、危険を冒してでも腸閉塞の手術に踏み切るか。年齢が年齢だけに難しい。家族とも話し、薬による保存的治療で様子を見ることになったのは、日付が変わる直前だった。 「超高齢の方は時期を失すると腸閉塞でも死に至りますからね。手術をすぐにすべきかどうか、ものすごく迷うところでした」と消化器外科医。 五人の各科の専門医がいたから結論もスムーズに出たのだろうが、それにしても手厚い体制。ここはまるで医師の玉手箱か。 その日、ウオークイン対応当直で別の患者に対応していた脳神経外科、溝渕雅之医師(48)に感想を伝えると、彼は言った。 「その通り。ここはカードを使い切ったと思ったら、また別の箱を開けて勝負しているようなもの。次から次へ、箱は三つぐらいあるんだけど、どれも皆、よれよれになりかけなんですよ」 そしてこうも例えた。 「きこりのジレンマって知ってます? 仕事師のきこりは注文が次々来るから、道具の手入れも、新しく買いに行く時間もない。延々切りっぱなしで、切れ味が落ち、体もくたくた。効率がどんどん悪くなるんです」 その後、朝までに六台の救急車が来た。午前二時すぎには整形外科医二人と、先ほど呼ばれて帰宅した麻酔科医が、また呼ばれて約二時間の手術。五時すぎには郡部の病院から頭の疾患の恐れがある患者の転送があり、溝渕医師が呼ばれた。 整形の二人は若いのでまだ元気だったが、溝渕医師はぐったり。夕方から計九台の救急車を診た大森医師も「眠いっすよ」とぽつり。そして朝、通常勤務が始まった。 ◇ ◇ 医療センターに詰めていると、医師の使命感の強さに舌を巻かされるような場面が数多い。第三部は脳外科以外の診療科の激務を紹介する。 【写真】患者から採血した検体をエアシューターで検査室へ送ると、臨床検査技師が15分程度で白血球や肝、腎機能などのデータを出し、電子カルテに表示される(高知市池、高知医療センター救急外来) |
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