岡田流「わかりやすいサッカー」が裏目

6月22日のリターンマッチに期待

生田 正博(2008-03-27 12:25)
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 指揮官たる者は、常に状況を冷静に判断し、最適の作戦を立てねばならない。

 わがサッカー日本代表の「岡ちゃん」こと岡田武史監督は日本協会が選んだ「最高」の指揮官たるがゆえに、当然のことながらそうした視点にたけているのだろう。

 3月26日に行われたW杯予選・対バーレーン戦のアウェイゲームにおいて、岡ちゃんは就任以来掲げてきた「接近・連続・展開」を封印した。酷暑の環境と長い芝(しかも刈りそろえられていない!)では、「速いショートパスで狭い局面を突破していく作戦は不利」と見て、「中・長距離パスの多用に切り替える」と宣言していたのだ。

 事実、ふたを開けてみると、日本は浮き球を交えた中距離パスで、ビルドアップを図っていったのである。

 結果、日本の攻撃はグラウンドを広く使った展開と「追い越す動き」で突破を図る、シンプルで極めてわかりやすいサッカーとなった。

 しかし、これはかつてオシムが掲げたものとは違う。意外な動きとスピードに欠けるからだ。南米流のポゼッション・フットボールとも違う。自陣では前に出ることを急ぎ、そのくせ敵陣に入ってもスピードに変化が見られない。もちろん、大木コーチ好みのイングランド風のスピーディーなワンタッチパスの交換には程遠い。

 単調でわかりやすいということは、同時に相手から見れば「守りやすい」ということにもなる。バーレーンはタフな動きとハードな当たりで、危なげなく守っているように見た。

 だがそのバーレーンも、技術レベルは決してほめられたものではない。日本で言えば、J2に及ばないレベル、偶然を頼りにサッカーをしている。パスを出すにしても、ドンピシャのタイミングで狙った意図のあるパスは見受けられない。スペースに出すといえば聞こえはいいが、「大体その辺に出しとけば、誰か走り込むだろう」というような展開なのだ。だから、彼らの攻撃が10回あったとしても、7~8回までは、まるで怖さを感じない。怖いとすれば残り2、3回の「偶然」だ。それが前半22分のイスマイル・ハサンのミドルや30分のA・フバイルのヘッドである。

 かくして、試合自体はJFLレベル、それも青地に黄色のアクセントのユニホームでパスサッカーを標榜する日本と、赤いユニホームでスピーディーなバーレーンということで、横河対本田の試合を見ているような気分になってしまった。本田の名誉のために言っておくと、少なくとも中盤の組み立ては本田の方が上だ。

 ちなみにテレビでスタジオキャスターは「どうした日本、やりたいサッカーをバーレーンにやられているぞ!」と絶叫していたが、「どこがだ」の一言である。岡ちゃんがあんないい加減なサッカーをやりたいと思ったことは、ただの一度もないはずだ。

 こういうシンプルなサッカーの対決は、往々にしてこう着状態に陥りやすい。15分を過ぎるころには、早くも「このまま引き分けでいいか」という気にさせられた。事実、決定的な場面もほとんどないまま、前半終了。

 だが後半、そんな甘い気持ちは、開始2分で吹っ飛んでしまう。バーレーンが左サイドでワンタッチパスの交換、そこからからエリア手前正面のラティフへ。ラティフが落としたボールに走り込んだA・フバイルがダイレクトでシュートを放った。これはゴール上に外れて事なきを得たが、さらに3分、左サイドの裏に出たボールをラティフが後ろに落とす。これを前線に上がっていたサルマン・イサが拾い、エリア内中央へ低い弾道のクロスを入れた。GK川口能活はこれをキャッチできない。こぼれ球を受けたオマールが強烈なシュート! ボールはバーに当たり、リバウンドを鈴木啓太が必死にクリアした。

 ここまで来ると、もはや「偶然」では済まされない。「時間の問題」と言ってもよかった。岡ちゃんはこの変化に気づかないのか。いや気づいたとしてもまだ後半は始まったばかり。ディフェンシブに戦うには、早すぎる──。

巻(青)のシュートは、惜しくもバーを越えてしまった=3月26日、バーレーン・マナマ(ロイター)
 そんなわけで山瀬功治を遠藤保仁に代えた以外は何のてこ入れもないまま、時間だけが過ぎた。

 巻誠一郎と大久保嘉人の2トップには、なかなかボールがつながらない。高さのあるバーレーンDFに巻ががっちりマークされているせいで、ポストプレイも思うように出せず、結果として大久保も生きないのだ。

 そしてそうこうしている間に、魔の後半32分がやってきた。バーレーンの左サイド深い位置にロングパスが入り、駆け込んだイスマイル・ハサンがハンド気味に胸でボールを落とし、左足でエリア中央にクロス。GK川口はまたしてもこれを取れない。そしてこぼれ球は、あろうことかA・フバイルの真ん前に飛んでしまった。球際の強さに関してはこの男の独壇場だ。

 DFに競り勝ったフバイルのヘディングシュートは、追いかけた中澤佑二をあざ笑うかのように、ゆっくりと日本ゴールへ。バーレーン先制、1-0。

 「ハンドだ、ハンドだ」といつまでもそればかりにこだわっていた別のスタジオキャスターは「時間はたっぷりあります」と気休めを言ったが、こんな試合での残り13分は「たっぷり」ではない。岡ちゃんは阿部勇樹の代わりに玉田圭司を入れてFWを3枚にしたが、時すでに遅し。バーレーンは激しい守備で、楽々と1-0で逃げ切ったのである。日本、今次予選初黒星。グループ2位に後退し、早くもがけっぷちに追い込まれた。

 結局この日は「逃げ切りに失敗した」と言うしかない。ホームでバーレーンをたたけば失地回復のチャンスはあるが、問題はそれをどう実現するかだ。有利な点はただ1つ、日本はバーレーンと得失点差で並び、総得点でリードしているということだけだ。

 6月22日のリターンマッチでは、われわれサポーターの総力を挙げてチームを勝たせるしかない。

 ◇

 それにしても、ここで根本的な疑問がわいてくる。果たして、岡ちゃんは本当に最高の指揮官なのだろうか、ということだ。もちろん今は、信じるしかない。だが確かなのは、彼が「前回は2番手監督として成功した」という歴史的事実だけだ。加えてそのときも、フランスで全敗したという結果が重くのしかかる。

 いや、考えるのはやめよう。日本協会は、横浜FCでも浦和レッズでもないのである。わずか1敗で監督を代えるなど、「多分」ありえないことなのだから。

【編集部注】記者のご指摘により、記事を修正いたしました。(誤)「ゲスト解説者」→(正)「スタジオキャスター」(2008.3.27)


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