暮らし  
トップ > 暮らし > 「同一価値労働に同一賃金を」 連続シンポジウムが大阪でスタート

「同一価値労働に同一賃金を」 連続シンポジウムが大阪でスタート

「同一価値労働同一賃金」の立法化を目指して活動しているワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)26人は、昨年9月、ILOとイギリスに調査旅行に行っています。その旅の成果報告等に関するシンポジウム「ILOへの旅・同一価値労働に同一賃金の実現」(大阪)に出席しました。
日本 労働 NA_テーマ2

 シンポジウム「ILOへの旅・同一価値労働に同一賃金の実現」(ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク主催)が、3月15日に大阪府立女性総合センター(ドーンセンター)で開催されました。

「同一価値労働に同一賃金を」 連続シンポジウムが大阪でスタート | <center>会場の様子(筆者撮影)</center>
会場の様子(筆者撮影)
 コーディネーターは、越堂静子さん、パネリストは昭和女子大教授の森ます美さん、早稲田大学教授の浅倉むつ子さん、福岡大学教授の林弘子さん、商社・兼松裁判原告の木村敦子さんです。また、ゼネコン勤務の女性と住友電工を相手取った差別是正を求める訴訟で勝利和解して管理職に昇進した女性からも報告がありました。

 昨年3月、ILOの専門家委員会は、日本での賃金のジェンダー格差に重大な懸念を表明し、ILO100号条約の十分な適用を保障するため、「同一価値労働同一賃金」を立法化するよう要請しました。そうした背景があって、昨年9月、日本における同一価値労働同一賃金の実現を促進するためにこの旅は行われました。ILOとイギリスにWWNのメンバー26人が調査に行っています。その体験から得られたものを報告するシンポジウムです。

 このシンポジウムで特に印象に残ったのは、以下の点です。

■同一価値労働どころか同一労働さえ怪しい日本
 そもそも、「同一価値労働同一賃金」とは、「同一価値労働」には、「同一労働(等しいまたはまったく同一の労働、等しいまたはまったく同一の条件における労働)」と「客観的な基準に基づく異なった種類の同一価値労働」の2種類の労働が含まれています。

 たとえばイギリスでは、外見は等しく白いが、「チーズ」と「チョーク」くらい質が異なる男性職、女性職に関して賃金差別を争うケースで、中立の職務評価専門家が、職務を評価し価値を計ります。

 一方日本では、まだまだ「同一労働」においてさえ男女差別は大きいし、差別に関する裁判も圧倒的に「同一労働」をめぐるものが多いのです。木村さんは、「国連・社会権規約委員会のLeeさんから「日本は14年前の韓国に似ている」と言われたそうです。

 一行は、ILOで、平等コーディネーター・ショーナ・オルネイさんに対し、兼松、住友電工など住友系三社、岡谷鋼機、名古屋銀行の男女差別の実態をアピールしました。これに対して、オルネイさんからは「日本はまだすべきことがたくさんある。先進国で100号条約と111号条約を合わせて批准してないのは日本だけ(アメリカは両方批准していない)で目立っている。異なる職種を客観的な基準で評価する、職務評価が不可欠」とお話いただいたそうです。

 そして、WWNのアピールを好意的に受け止め、11月の専門家委員会にWWNが提出した資料を提示してくれると約束してくださったということです。ILOに日本の男女賃金格差を直接伝えることが重要です。

■筆者も身が引き締まった「イギリス版自治労」の取り組み
 イギリスの公務員労組ユニソン(日本で言えば私が所属する自治労に相当)による同一価値労働同一賃金への取り組みは、正社員男性労働組合員である私にとっても身が引き締まるものでした。会場で差別裁判を闘った女性の多くから、「(自治労と同じ)連合加盟の企業内組合は当てにならなかった」と聞き、針のむしろにすわる思いでした。

 イギリスでは、男女の賃金格差はフルタイムの男女で、男性100に対し、女性は83。フルタイム男性とパートタイム女性なら100対59です(日本ではパートタイム女性は、フルタイム男性の33%に過ぎません)。

 ユニソンは、2007年までに、同一価値労働同一賃金を原則とした統一した職務評価制度を導入するよう求めたのですが、実施自治体は3割にすぎませんでした。このため、組合が女性たちに、大量の同一賃金請求を行うよう勧めました。その結果、特に、医療部門では、他に先駆けて大規模な賃金改革が行われ、同一価値労働同一賃金を保障する職務評価が義務化されるようになりました。過去に不当に賃金が低かった人は、賃金の払い戻しを要求しています。

 男女平等と同一価値労働同一賃金を実現する上で、労働組合の存在が重要だと再確認しました。

 ただ、課題もあります。最近は、賃金改善申し立てが多すぎて審判システムがパンクしているというのです。このため、個別の労働者の賃金については猶予期間を設け、システム自体を使用者に改めさせるべきだ、という議論になっているということです。

■日本でも変化の兆し
 また日本でも、「変化のきざしはある」ということを学びました。りそな銀行やロフトでは、すでに同一価値労働同一賃金的な考えが導入されており、「それなりの給料を出さないとそれなりのいい仕事はしてもらえない」、という当たり前のことを言っている社長さんも出てきているそうです。福田総理も労働者に賃金の形で所得を分配し、内需を拡大することを経済界に要請しています。また、東京で予定されている同様のシンポジウムには、経済同友会からも参加申し込みがあったということです。

 一方で、「ネオコン」で鳴らす経済財政諮問会議議員の八代尚宏・ICU教授は、「賃金を低いほうに合わせる」という文脈で、同一価値労働同一賃金に賛成ということです。さらに最近は、成果主義という名目で、男性間にも「不公正な評価による給与格差」が横行しているという実態も、住友電工の女性からうかがいました。

 ですから女性だけでなく、むしろ男性労働者こそ、イギリスに見習って「労働者のための同一価値労働同一賃金」にきちんと取り組んでいかないといけないと思います。

■シンポジウムは続く
 WWNは同様のシンポジウムをすでに16日(福岡)、名古屋(23日)で開催しているほか、東京(30日)でも開催する予定です。参加費500円に対してお釣りが来るくらい大変勉強になると思います。女性はもちろん男性の方も是非ご参加ください。
◇ ◇ ◇

ご意見板

この記事についてのご意見をお送りください。
(書込みには会員IDとパスワードが必要です。)

[33363] 同一価値労働同一賃金は日本になじみにくい。でも間違っていない。
名前:広岡守穂
日時:2008/03/28 00:21
 同一価値労働同一賃金という考えは、もともとは女性の労働が男性の労働にくらべて不当に低く評価されるのを是正しようとするところからはじまったものです。たとえば介護関係の仕事のように女性が多い仕事と消防士のように男性が多い仕事で、女性が多い仕事のほうが不当に低く評価されるのを是正しようというわけです。その背景には性差別があり、いわゆる家事や育児などのアンペイドワークはその最たるものでしょう。実際、子育ては、なまじの仕事などよりずっと大変です。
 そういう点で同一価値労働同一賃金という考え方そのものは、間違っていないと思います。堂々と主張していいし、主張しなければならない。
 ただ同一価値労働同一賃金を実際にどうしたら実現できるかと考えると、やはり賃金体系が職務給になっているほうがなじみやすいでしょう。日本のように職能給中心の賃金体系の国では、適用の仕方をまちがえるとおかしなことになってしまいます。
 しかし職能給が中心でも男女平等は実現できます。昇進昇格などで性による差別をせずワークライフバランスをちゃんと実現すればいいのですから。
 日本の場合、正規雇用と非正規雇用の格差があり、管理職は圧倒的に男性などの男女格差があり、家事育児や介護は女性におしつけられているという性別役割分担があり、となにからなにまで男女格差が浸透しています。
 こういう国ではいろんなかたちで声をあげなければならない。さきほど職能給中心でも男女平等は実現できると書きましたが、だからといって同一価値労働同一賃金という考え方は日本では有効でないとは思いません。
 日本の賃金体系になじまないからというだけの理由で同一価値労働同一賃金という理念をしりぞけるのは、もったいない。本末転倒のように思います。
[返信する]
[33355] 同一価値労働同一価値賃金原則とは
名前:忍野タカユキ
日時:2008/03/27 23:15
いまこのご意見板で討論されているのは「同じ仕事をしているのに能力で差を付けるのは有りか無しか」になっています。
元々の問題提議とずれてませんか?

同一価値労働同一価値賃金原則とは、「同じ仕事で同じ成果を残せる能力を持つ労働者は、雇用形態の違い(正社員・契約社員・パートタイマーなどなど)や性別の違いで時間あたりの賃金の差を付けるな」だったと思いますが。

P.S. 個人的には、さらに雇用形態の違い(正社員・契約社員・パートタイマー・公務員・自営業・無職などなど)で加入する年金制度に違いがあるのも無くすほうが、働き方の多様性に対応できると思います。
[返信する]
[33353] 山口さま
名前:渡辺容子
日時:2008/03/27 21:38
 堤未果さんの著作を読むと、アメリカでは貧困層が教育も受けられず、軍にリクルートされる現状があるようですが、どうなのでしょうか? 彼女の著作によれば、「誰もが再雇用の機会に恵まれる」ようには見えないのですが。
 現在、日本で問題になっている「ワーキングプア」も、一度落ちてしまうと未来永劫這いあがれない構造になってしまっていると思います。去年あたりから当事者たちが組合を作ったり、行動を起こし始め、多少は改善されてきているようですが、構造自体を変えるためには、やはり当事者のみでなく、国民全体がこの問題を自分のこととして考え、選挙で意思を表していく必要があると思います。男女平等しかりです。


 「その職で何をするかによって報酬を受けるべき」ということについて、思い出すことがあります。井上ひさしさんに「12人の手紙」という短編集があって、その中に障害者施設でせんたくばさみを作っている話があります。初め、彼らの給料は作り上げたせんたくばさみの数によって、決まっていました。体がより不自由な人ほど当然作れる数は少なく、給料も少ないわけです。しかし、体が動く人がたくさんのせんたくばさみを作っても、不自由な人が少ないせんたくばさみを作っても、作るために要した努力は同じなのだから、同じ給料にしようということになるのです。
 人間というものは「どうせ同じ給料しかもらえないなら、努力をやめよう=さぼろう」となりがちなので、これは理想主義だと言えばそうですが、ちょっと思い出しました。


 それから私も公務員でしたが、公務員の仕事を査定することは非常に危険な面があると思います。数年前から私の元の職場でも始まっていますが、労務管理に利用され、勇気を出してまっとうな意見を言っていく者が「お上にたてついた」として、給料が下げられたり、不利な異動先に飛ばされたりしています。ですから、まっとうな意見を言うものがますますいなくなり、上司にへつらい、保身をはかる者があからさまに増えています。この象徴的な例が裁判官で、人事を握る(と給料を決める)最高裁の言いなりです。日本の裁判は国民を守るものでは全くなく、政府、行政、検察庁のやること(違憲の法律、薬害、戦争責任、冤罪などなど)にお墨付きを与え、国民に害をなすものとなりさがっています。日本で公務員を真の意味で公正に評価する上司など皆無に等しいでしょう(役所の係長級=人事権もなく、給料を決める権利もない ならいますが)。私も昔、学童クラブへの障害児の受け入れのことなどなどでいろいろと上に意見を言いましたが、当時は人事査定もなかったので、ただいやがられるだけでしたが、現場のまっとうな意見など全く聞く耳がありませんでした。ですから、この点、私はとても悲観的です。


 元記事からそれた意見になってしまいましたが、おそらく、どこにでも同じ要素があると思います。
[返信する]
[33351] 同一価値労働同一賃金原則は必要
名前:遠山日出也
日時:2008/03/27 19:29
 山口さんのご理解によると、同一(価値)労働同一賃金原則というのは、「人による業績や成果の違い」(「販売業績」「サービスが行き届いているか否か」など)を無視して、同一価値労働であれば同じ賃金にする考え方だということですね。しかし、この原則について私が今までに読んだ文献や見聞きした実践の中には、同一(価値)労働同一賃金原則は「成果や業績などを賃金決定において無視する」ものだという趣旨のことを言っているものは、まったく記憶にありません。
 私の手もとにある代表的な文献(単行本)は、森ます美『日本の性差別賃金──同一価値労働同一賃金原則の可能性』(有斐閣 2005年)、屋嘉比ふみ子『なめたらあかんで! 女の労働──ペイ・エクイティを女たちの手に』(明石書店 2007年)などですが、山口さんの「同一(価値)労働同一賃金原則」に関するご理解は、いったいどのような文献や運動に基づくものなのでしょうか?


 ご存じかと思いますが、同一価値労働同一賃金原則というのは、女性が多数を占める職種(たとえば看護、介護、保育など)の賃金は、男性が多数を占める職業の賃金に比べて低すぎるので、性に中立的な職務評価をすることによって、そのことを是正しようという考え方です。また、非正規雇用や(コース別の)一般職にも女性が多いですが、そうした人々も、正規雇用や総合職と全く同一ではないにせよ、かなり大変な仕事や専門的な仕事をしておられる場合が多いのに、正規雇用や総合職に比べてあまりにも低すぎる賃金しか支払われていない。同一価値労働同一賃金原則(ペイ・エクイティ、コンパラブルワース)はそうした問題についても是正する考え方です。


 もちろん私も山口さんと同じく、「同じ職種」であっても、成果や業績をより多くあげている人に、より高い賃金を支払うのは好ましいことだと思います。具体的にどのような方法でそうするかについてはさまざまな議論があるわけですが(とくに日本の場合、いまの人事考課は、性差別的・思想差別的なものになっているので、それを是正することが大切だと思います)、そのことは別に議論すれば良いのであって、そのことと、上のような「職種間の理不尽な賃金格差」を是正することとべつに矛盾はしないと思います。


 山口さんの議論は、日本においても、同一価値労働同一賃金原則にもとづく闘いが、京ガス男女賃金差別裁判において、この原則を認めた判決(京都地裁 2001年)を勝ち取るという成果を収めていることを無視しているようにも思います。私もこの裁判をずっと傍聴していましたが、この裁判では、森ます美さんが、カナダのオンタリオ州のペイ・エクイティ法を参考にして、原告の屋嘉比ふみ子さんの職務(積算・検収業務)の価値と男性社員のSさんの職務([工事]監督職)の価値の比較をおこなった意見書を提出し、両者の職務は同一賃金を要求しうる同等の価値を有するものであることを主張しました。京都地裁の判決も、森ます美さんの意見書にもとづいて、両者の「職務の価値に格別の差はない」と判断し、屋嘉比さんが勝訴しました(損害賠償ほか合計670万円。のちに高裁で同じ金額+利子で勝利和解)。裁判闘争において現実にこのような成果を収めているのですから、私は、このこと一つだけでも、同一価値労働同一賃金原則は男女差別是正にとって有意義だと思います。屋嘉比さんは、中小企業の労働者として30年以上にわたり、職場の中でおおむね一人だけで男女平等のために闘い続けてこられた方です。けっして「欧米の観念的なインテリ」ではありません。


 なお、この京都地裁判決は、「賃金の決定要素」は、職務の価値だけでなく「個人の能力、勤務成績等諸般の事情も大きく考慮される」が、その点の「立証」が不十分であるという理由で、原告の損害を「控え目」に算出しています(→「控え目」に言っても、560万円[慰謝料や弁護士費用を含めない金額]の差別があったと認めた)。私は、現在の日本においては、労働者側が、自分と他社員との成績を比較して立証するのは難しい面があるので、判決が原告に一方的に立証責任を課したのは不当なように思います。けれども、いずれにせよ、この判決は、個人の勤務成績を考慮することと「職務の価値」にもとづいて男女賃金差別を是正することとがべつに相反するものではない(二者択一的もなものではなく、両方を考慮すればいい)ことをも示していると思うのです。


 アメリカにおけるペイ・エクイティについては、上記の森ます美『日本の性差別賃金──同一価値労働同一賃金原則の可能性』にも記述がありますが(182-191頁)、その中には、ペイ・エクイティ改革によって公務員の女性職の賃金を上昇させた全米20州の調査も載っています(ハートマンとソレンセンを中心とする共同研究グループの調査。ミネソタ州は代表的ではあるが、それだけではないようです)。それによると、ペイ・エクイティ政策によってすべての州で女性職の賃金を上昇させることに成功し、ミネソタ州では男性の賃金に対する女性の賃金比率の上昇幅が8%に及んだことが述べられています(185-188頁)。ですから、アメリカにおいても成果はあったということだと思います。


 べつに「観念的なインテリ」が推進したわけでもなく、森さんの記述によると、アメリカにおける運動の中心的な推進力は、全米地方公務員組合連合、サービス従業員組合、全米教育協会、アメリカ看護婦協会と、それらが組織する多くの女性組合員だということです。リンダ・ブルム『フェミニズムと労働の間 コンパラブルワース運動の意義』(御茶の水書房、1996年)によると、運動の主要な担い手は、女性事務職や図書館司書、看護師など女性職の低賃金労働者だったといいます(第3章、第4章)。


 山口さんの場合は、どのような調査や研究に依拠して述べておられるのかわかりませんが、アメリカではミネソタ州だけであり、そのミネソタ州では、(1)もともとは成果や業績、サービスが行き届いているか否かによって賃金が異なっていたのに、(2)同一価値労働同一賃金原則を導入した結果、真面目に仕事をしていようが、手を抜いていようが同じ賃金をもらえるようになって、(3)その結果、みんな仕事の手を抜くようになったということのようです(ここまで明確には書かれていないが、文脈からするとそう読めます)。しかし、かりにそうであっても、あくまでミネソタ州のやり方には問題点も存在していたということにすぎないのではないでしょうか?(要するに(2)の点が誤っていたということ)。もちろん同一価値労働同一賃金原則にもとづく改革は、いかなるやり方をしても必然的に問題を生み出すということまで立証できれば、この原則そもものに疑義が生じますが……。


 私は、そもそも男女賃金差別というものは、大きく分ければ、次の2つのやり方で生じていると思います。
 (a)男性がついている地位や職種(管理職、総合職、正社員、男性職など)には女性はあまりつけない。
 (b)女性の多くがついている仕事は、その価値(知識・技能、責任、精神的身体的負担、労働環境で測る)を下回る評価しかしない。言い換えれば、一般職や非正規雇用、女性職(看護・介護など)に対しては、それなりに専門的な仕事や大変な仕事であっても、男性職に比べてひどい差別する。
 「同一価値労働同一賃金原則」は、上のうち(b)の面にかかわるものです。山口さんは(a)の面を是正することは重視しておられますが、山口さんのご議論では、(b)の面を是正する点が不充分になってしまうと思います。


 もちろん、山口さんも(b)の面を無視しておられるわけではありません。山口さんは、正規と非正規の均等待遇やフルタイム・パートタイムの時間当たり賃金格差の是正は賛成だとおっしゃっています。しかし、山口さんのようなお考えだと、以下の二つの点が無視されると思います。
 (1)同じ正規(or非正規)雇用であっても、男性職と女性職では、同一価値労働同一賃金原則の点から見ると差別があるということが抜け落ちてしまう。
 (2)山口さんのお考えだと、正規と非正規(フルタイム・パートタイム)の均等待遇原則が適用されるのも、「誰がやっても一定基準を満たせば結果は変わらない」仕事や「まったく同一(で労働時間だけが違う)の労働」の場合だけに限定されてしまうことです。


 しかし、「誰がやっても一定基準を満たせば結果は変わらない」仕事や「まったく同一の労働」でない仕事についても、正規と非正規(フルタイム・パートタイム)の均等待遇原則は適用されなければならないでしょう。たとえば、山口さんは、他の記事に対するコメントでは、日本の大学の非常勤講師の待遇は改善されるべきだとも言っておられます。これはおそらく均等待遇という見地もあってのことだと思うのですが、大学の専任教員は、非常勤講師と違って校務もやっていますので、非常勤講師とまったく同一の種類の労働をやっているわけではありません。だから、単純にコマ数当たりの賃金を同一にすればいいというわけにはいかない。こうした場合は、授業以外の仕事(校務など)の価値も考慮しつつ均等待遇を実現する、つまり単なる同一労働同一賃金原則でなく、同一価値労働同一賃金原則を適用する必要があると言えるでしょう(木下武男「大学非常勤講師の労働問題」大学非常勤講師問題会議編『大学危機と非常勤講師運動』こうち書房 2000年の195-196頁)。大学教員には特殊性もありますし、その他いろいろ難しい問題はありますが、考え方としてはそういうことかと思います。


 なお、ジェンダー平等の推進を唱えつつ同一価値労働同一賃金原則を否定したり、均等待遇を唱えつつ同一価値労働同一賃金原則を否定するという考え方は、今の日本では非常に珍しいお立場だと思います。ですから、もしも山口さんのお考えが正しいとすれば、女性労働運動を揺るがす提起になると思います(ただ、私には、いまのところ単純な誤解でいらっしゃるという面が大きいように思えるのですが……)。かりにもしそうなら、ことは重大ですから、早急にどこかの雑誌にでも投稿なさって問題提起をしていただくようお願いいたします(とりあえず、JANJANでもよろしいかと思いますが)。山口さんがこの問題について論文や記事をお書きになれば、私も、ワーキング・ウイメンズ・ネットワーク(私も会員です)の皆様にもご紹介したいと思います。素人考えですが、ミネソタ州の事例についてだけでも、きちんとした調査や研究に基づいて分析なされば、ご発表の値打ちはあるのではないでしょうか?


 山口一男様への追伸:「館長雇止め・バックラッシュ裁判」の「控訴理由書」は、その中の個人名について、プライバシーに配慮するため、必要な箇所をイニシャルにするなどの作業をいまおこなっているそうです。ネット上への掲載は、今しばらくお待ちください。
[返信する]
[33341] 訂正
名前:山口一男
日時:2008/03/27 12:08
対偶ー>待遇
[返信する]
[33340] 返答
名前:山口一男
日時:2008/03/27 12:04
さとうしゅういちさま

  さとうさんのご意見は失礼ながら「空気が読めない」と人を批判するやり方に類似しているように思います。男女の賃金の不平等はジェンダー問題、女性の問題なのですか? だから「当事者」である女性がものを言いやすくする空気を作らねばいけないのですか。とんでもない、男女の賃金の不平等問題は国民すべての問題です。女性だけの問題ではない。それから、個人が、性別に寄らず地位によらず、自由にものを言える社会、そういう社会を作ろうとする中で男女平等の実現があるべきです。「空気」にあわせるなど、とんでもない。それに、真に男女平等を実現したいなら、仲間だけで気勢を上げるのではなく、(男女平等の実現という)趣旨には賛成でも手段には異議を唱える私のような人間をまず説得しようと試みることに力をそそぐべきではないですか(そういう人間はたくさんいると思います)。そして自分たちが間違っていると思ったら変わるべきです。私は、自分の意見が間違っていると思ったら変わります。また男性が発言すると、女性が意見を言いにくくなるなど、何と甘ったれたことをいっているのでしょう。男女平等を指向する人たちが、男だ女だといっていること自体矛盾です。


佐藤折耶さま
  ご意見ありがとうございます。北欧では「例えば、誰もが再雇用の機会に恵まれるようにした、高度に整備された流動性の高い労働市場ができあがっていることなどがあるように思います」。おっしゃるとおりです、米国もそうです。私がいいたいのは、むしろそういう雇用環境を促進すべきということです。同一価値職同一賃金は、ます同一職同一賃金があり、職務給があるのが前提です。しかし、職務給は、例示したような問題があります。正規と非正規の格差対偶の是正や、フルタイム・パートタイムの時間あたり賃金格差の解消、というなら私は賛成です。でも職業によって、それだけで賃金が決まるという同一職同一賃金の仕組みは、雇用者に自分の仕事の質の向上の意欲を失わせます。人は、職という肩書きで無く、その職で何をするかによって報酬を受けるべきなのです。それを無視することが不合理で、差別的だといったのです。
  公務員だって、もしそれをうまくはかれるなら(計測は難しいのですが)、考え方としては国民のためにどれだけの価値のあることをしたかによって、給料が決まるようになれば、みなもっと国民のために尽くすのではないですか。黒澤の「生きる」の主人公みたいに、市民に尽くすことを生きがいとする公務員は、残念ながら多くないのですから。 
[返信する]
[33336] 山口さんのご意見について
名前:佐藤折耶
日時:2008/03/27 02:00
山口さん


ご無沙汰しています。


前回さとうさんの東洋経済の北欧特集の記事に関してコメントした直後に当方のPCのハードディスクが飛んでしまい、その修理をしているうちに続きを書くタイミングを失してしまい、特に山口さんからは本当に参考になるお返事をわざわざ頂きながら、お礼もご返答もせずにいて、ずうっと心苦しく思っていました。あの時の北欧・オランダに関するご見解は、ほんとうにとても参考になるものでした。改めてお礼申し上げます。


ただ、今回の


>しかし、「同一価値職同一賃金」か欧米の一部の観念的インテリの作り出した、
>全く不合理な制度だと思います。そしてその思想は極めて差別的です。


という点は、さらなる説明ないし補強が必要に思いました。


「同一価値職同一賃金」は、仰るように、アメリカではうまくいっていないのかも知れません。しかし、私の理解では、北欧・オランダで積極的に採用され、成果を上げてきているように思っています。その背景には、例えば、誰もが再雇用の機会に恵まれるようにした、高度に整備された流動性の高い労働市場ができあがっていることなどがあるように思います。


言うまでもなく、ある制度が、アメリカでうまくいっていないことは、理念そのものの非合理性を意味しません。それは、アメリカでは国民皆保険すら今後も当面実現しそうにないことからも明かだろうと思います。


その意味では、諸国の制度をより詳細に比較した上での検討が必要で、具体的な資料などをもとにさらに議論を深めることが非常に重要だと思います。その点、もっと詳しく見解などを頂けたらと思います。よろしくお願いいたします。


******


さとうさん


いつもながら、重要なテーマについてのタイムリーな報告をありがとうございました。とても参考になります。


この問題は、日本の労働組合のありかたそのものを根本的に問うものになると思いますから、仰るように労働組合の対応が、まずもって最初のポイントになってくるだろうと思います。が、その点、まだまだこれからだろうと思います。


**


なお、以下は蛇足なのですが、ずっと気になっていたことなので一言添えさせてください。


一つだけどうしても気になることがあって、我慢できずにコメントさせてもらいます。それは「ネオコン」という言葉の使い方です。


言うまでもなく、ネオコンとはNeoconservatismの略で、確かにこれは「新保守主義」と訳されるもので、そのまま「新保守主義」という一般的な意味を帯びているともいえる、もともと多義性を帯びているためややこしい言葉です。


ただ、私の理解では、「ネオコン」とは、多くの場合、広く新自由主義・新保守主義一般ではなく、主として「新アメリカ世紀プロジェクト(Project for the New American Century : PNAC ピーナック)」というシンクタンクに集うウォルフォウィッツなどの連中を核とした、現代アメリカの保守勢力のうちのごく一部の狭い政治ムーブメントを指す言葉として使われるのが一般的なのではないかと思っています。


私の理解では、この使い方は、日本でもアメリカでも同様ではないかと思いますし、特に日本では、この意味での「ネオコン」に属していると言える人々は、明確には存在していないのではないかと思います。


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E6%96%B0%E4%B8%96%E7%B4%80%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88


この点、さとうしゅういちさんのネオコン使用法は、どうも新保守主義、新自由主義一般をさして使われているように思うのですが、私には、どうしてもこれに強い違和感が生じてしまうのです。「」を使われていることから、配慮はあると思うのですが、私としては、さとうさんがネオコンと書かれるケースの多くは、日本では多くの場合、ネオコンではなく、「新保守」「新自由主義」と書かれることが多いように思います。おそらく、その方が、より正確にイメージが伝わるように思うのですが。


以上、完全な蛇足、失礼いたしました。


*********


なお、コメントするに際してのジェンダー云々については、渡辺さんのご意見に賛同します。
[返信する]
[33335] 男性のご意見も歓迎します
名前:渡辺容子
日時:2008/03/26 23:17
さとうしゅういちさま


女性の立場でちょっと言いたいので横から失礼します。


女性のフェミニストがさとうさんに注意したという「男性が持論をまくしたてていると・・・当事者である女性が議論に参加しにくくなる」のは、限られた時間で行う会議の類においてではないでしょうか? この場のように時間が限られておらず、参加したい人は誰でも自由に参加できる場においては、条件が違うと思います。長いコメントを書いても、女性が意見を表明するのを邪魔することにはなりません。(限られた時間に長く話せばそうなりますが)。
自由な意見交換を保障するのが市民新聞のご意見板であると思っています。


それから、山口さんのコメントに誤解があるのでしたら、簡単で結構ですので、説明していただければうれしいです。
[返信する]
[33328] ジェンダー問題で発言する上での注意
名前:さとうしゅういち
日時:2008/03/26 12:11
 山口様

ジェンダー問題について、山口様が男女平等を追及されるお立場であるからこそ、失礼を承知で申し上げます。

女性が意見を言いやすいようにするのも、ジェンダー平等を追求する上で留意しないといけません。

どうも、わあわあ男性が持論をまくし立てているイメージを与えていると、当事者である女性が議論に参加しにくくなります。

私自身も女性のフェミニストの方々に注意されます。お互い気をつけましょう。男性は気持ちコメントを短めにするか、(場の雰囲気によっては)女性がコメントするまで待ってもいいのです。

コメントの中身にはかなり誤解があるようです。ですが、今回はコメントしません。ご無礼ご容赦ください。
[返信する]
[33316] 訂正
名前:山口一男
日時:2008/03/26 05:23
職能・職務をやめてー>職能給・経歴給をやめて
[返信する]

記者会員メニューにログイン

記者ID

パスワード