シンポジウム「ILOへの旅・同一価値労働に同一賃金の実現」(ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク主催)が、3月15日に大阪府立女性総合センター(ドーンセンター)で開催されました。
会場の様子(筆者撮影)
コーディネーターは、越堂静子さん、パネリストは昭和女子大教授の森ます美さん、早稲田大学教授の浅倉むつ子さん、福岡大学教授の林弘子さん、商社・兼松裁判原告の木村敦子さんです。また、ゼネコン勤務の女性と住友電工を相手取った差別是正を求める訴訟で勝利和解して管理職に昇進した女性からも報告がありました。
昨年3月、ILOの専門家委員会は、日本での賃金のジェンダー格差に重大な懸念を表明し、ILO100号条約の十分な適用を保障するため、「同一価値労働同一賃金」を立法化するよう要請しました。そうした背景があって、昨年9月、日本における同一価値労働同一賃金の実現を促進するためにこの旅は行われました。ILOとイギリスにWWNのメンバー26人が調査に行っています。その体験から得られたものを報告するシンポジウムです。
このシンポジウムで特に印象に残ったのは、以下の点です。
■同一価値労働どころか同一労働さえ怪しい日本
そもそも、「同一価値労働同一賃金」とは、「同一価値労働」には、「同一労働(等しいまたはまったく同一の労働、等しいまたはまったく同一の条件における労働)」と「客観的な基準に基づく異なった種類の同一価値労働」の2種類の労働が含まれています。
たとえばイギリスでは、外見は等しく白いが、「チーズ」と「チョーク」くらい質が異なる男性職、女性職に関して賃金差別を争うケースで、中立の職務評価専門家が、職務を評価し価値を計ります。
一方日本では、まだまだ「同一労働」においてさえ男女差別は大きいし、差別に関する裁判も圧倒的に「同一労働」をめぐるものが多いのです。木村さんは、「国連・社会権規約委員会のLeeさんから「日本は14年前の韓国に似ている」と言われたそうです。
一行は、ILOで、平等コーディネーター・ショーナ・オルネイさんに対し、兼松、住友電工など住友系三社、岡谷鋼機、名古屋銀行の男女差別の実態をアピールしました。これに対して、オルネイさんからは「日本はまだすべきことがたくさんある。先進国で100号条約と111号条約を合わせて批准してないのは日本だけ(アメリカは両方批准していない)で目立っている。異なる職種を客観的な基準で評価する、職務評価が不可欠」とお話いただいたそうです。
そして、WWNのアピールを好意的に受け止め、11月の専門家委員会にWWNが提出した資料を提示してくれると約束してくださったということです。ILOに日本の男女賃金格差を直接伝えることが重要です。
■筆者も身が引き締まった「イギリス版自治労」の取り組み
イギリスの公務員労組ユニソン(日本で言えば私が所属する自治労に相当)による同一価値労働同一賃金への取り組みは、正社員男性労働組合員である私にとっても身が引き締まるものでした。会場で差別裁判を闘った女性の多くから、「(自治労と同じ)連合加盟の企業内組合は当てにならなかった」と聞き、針のむしろにすわる思いでした。
イギリスでは、男女の賃金格差はフルタイムの男女で、男性100に対し、女性は83。フルタイム男性とパートタイム女性なら100対59です(日本ではパートタイム女性は、フルタイム男性の33%に過ぎません)。
ユニソンは、2007年までに、同一価値労働同一賃金を原則とした統一した職務評価制度を導入するよう求めたのですが、実施自治体は3割にすぎませんでした。このため、組合が女性たちに、大量の同一賃金請求を行うよう勧めました。その結果、特に、医療部門では、他に先駆けて大規模な賃金改革が行われ、同一価値労働同一賃金を保障する職務評価が義務化されるようになりました。過去に不当に賃金が低かった人は、賃金の払い戻しを要求しています。
男女平等と同一価値労働同一賃金を実現する上で、労働組合の存在が重要だと再確認しました。
ただ、課題もあります。最近は、賃金改善申し立てが多すぎて審判システムがパンクしているというのです。このため、個別の労働者の賃金については猶予期間を設け、システム自体を使用者に改めさせるべきだ、という議論になっているということです。
■日本でも変化の兆し
また日本でも、「変化のきざしはある」ということを学びました。りそな銀行やロフトでは、すでに同一価値労働同一賃金的な考えが導入されており、「それなりの給料を出さないとそれなりのいい仕事はしてもらえない」、という当たり前のことを言っている社長さんも出てきているそうです。福田総理も労働者に賃金の形で所得を分配し、内需を拡大することを経済界に要請しています。また、東京で予定されている同様のシンポジウムには、経済同友会からも参加申し込みがあったということです。
一方で、「ネオコン」で鳴らす経済財政諮問会議議員の八代尚宏・ICU教授は、「賃金を低いほうに合わせる」という文脈で、同一価値労働同一賃金に賛成ということです。さらに最近は、成果主義という名目で、男性間にも「不公正な評価による給与格差」が横行しているという実態も、住友電工の女性からうかがいました。
ですから女性だけでなく、むしろ男性労働者こそ、イギリスに見習って「労働者のための同一価値労働同一賃金」にきちんと取り組んでいかないといけないと思います。
■シンポジウムは続く
WWNは同様のシンポジウムをすでに16日(福岡)、名古屋(23日)で開催しているほか、東京(30日)でも開催する予定です。参加費500円に対してお釣りが来るくらい大変勉強になると思います。女性はもちろん男性の方も是非ご参加ください。